49.聖女は鉄アレイ愛はいらないの
見えてきたのは、丘の上に巨大な壺を横に倒したようなものだった。壺の入口が玄関らしい。外から見ると、壺の胴が通路、やがて大きな丸いものが主殿のようなものか。
宗教によっては半円を天井に抱くものもあるが、半円ではなく楕円というのが変わっている。
「あれが、第二区の教会?」
自分がいた時の教会の外観は見てないけれど、かなり特殊と思える。レジーが前を向いたまま、ただ頷く。
「教会の鐘が鳴り響き、俺達は一斉にあの入口に向かい殺到したんだ。聖女を得るためにね」
まるで蟻の行軍のようだね。結構な高い丘に登りついた教会の入口の戸は閉められていた。
「俺達の時は、開け放たれていたんだ」
やはり条件が違うのかと思いながらイヴァンが戸を壊すのか早々に槍を取り出すと、レジーが押しとどめて短剣で蝶番を壊す。
「みんなは周囲を見張っていてくれ」
意外にこれまで現れた魔物は少ない。屈んで鍵開けに挑戦するレジーと、背中に瓶二つとカッパの銀の皿を背負うイヴァン。
女子組は何も持っていない。少し罪悪感だけどヴィオラが気にしていないからイイかとも思うけど。ヴィオラって男の子でもあるんだよね。
かちんという音と共に鍵が開いて、レジーが立ち上がる。そして両開きのブロンズの戸を男性二人がかりで開くと、重い音と共に目の前には暗い洞窟のようなものが広がっていた。
RPG感満載というより、鉄柵や鉄階段が並んでいて舗装されず注意書きのない海外のヤバい観光地の鍾乳洞といった感じ。ひんやりとした冷気が身体をつつむ。スニーカーでよかった、じゃないとここまで足場が悪いと転んじゃう。
というか、本当にここ教会? ダンジョンじゃないの?
「聖女召喚の時ではないから、やはり教会は閉じられているのか」
レジーの言葉に振り返る。
「もっと条件はよかったの?」
「……いや、更に困難な道のりだった。冒険者達も多く、罠もあったしね」
教会の中の罠。
「槍が飛び出てきたり、岩が転がり落ちてきたり、毒ガスに満ちていたり」
「それって、むしろ来るな……というより、その障害を乗り越えて来いっていうことか」
強いものが聖女を得ることができるってこと?
ゲームのワンファンⅡでは、厳かな雰囲気の教会に聖女を迎えに行って彼女が話の流れで「世界を救います」とか言い出して、勝手にムービーが流れて仲間になったもんな。そんな苦労はしなかった。これリメイク版?
「あのね。聖女が死んだらまた召喚されるんでしょ。でもその形跡がないってことは、まだサラさんは生きているんじゃないの?」
アリスが言うと、レジーは優しくも悲しい目でアリスを見下ろしてきた。
言ってよかったのかというと……言わないほうがよかったかもしれない。生死はわからないけど、教会が機能し始めたという事は、また新たなステージが始まったという事。
「俺達に、判断することはできない。今できることをしよう」
「そうだね。ごめん」
アリスがそう言うと、レジーは優しくアリスの肩を叩いた。
「ありがとう、アリス」
その声の響きと優しさと、肩を抱く距離に全部惚れました。ダメだ、好き。
レジーさんにおんぶして欲しい。でもされたら死ぬ。一度くらいイケメンに抱き締めてもらいたいなあ。
「お前は――」
イヴァンが先に進み振り返り言葉を無くす。ハッと気づく。なんか瓶二つと銀皿を背負うイヴァンもかわいそうだ。
「えーとイヴァンにもいつも感謝しています」
とりあえず、感謝の言葉を述べてみる。
「――なにがだ」
「え」
「何に感謝している」
前を向いたまま、むすっと進んでいくからアリスは考える。こっちを見てもくれない。ちょっとレジーと態度が違いすぎたかな。
アリスは暢気に背中に手を組んで、洞窟のあちこちを眺めながら歩く。随分暗くてじめっとした場所。教会内部だから魔物が出ないとは思っているけど、あまりいい雰囲気ではない。
「おんぶと、助けてくれてること」
「他には?」
どS教育は感謝していない。
「――鉄アレイのように重い愛……は感謝してない」
「……俺のを愛だと認めるのか」
「一方通行の愛なので、私は返す予定はありません」
また気づまりになる。これってイヴァンにおんぶしてもらっていた方がまだマシな気がする。




