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聖女アリス、異世界で溺愛されてるけどツッコミが追いつかない。  作者: 高瀬さくら


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35.聖女はトラブルにまきこまれそうなの


「なあ、なんであんなにあっさり引いたの?」


 マリアを真ん中に挟みながら、ティモシーが端のグレタに問いかける。目の前には小さな焚火だ。マリアは一度寝ると目を覚まさない。今も眠っていて会話を気づくことはない。


「一区の聖女は謎だらけ。もっと情報を引き出せただろ」


 火を焚いての野営は魔物に気がつかれてしまう。

 普通の奴らならそんなことはしないが、自分たちはティモシーの持っている探索能力で事前に危機を察知して、すぐに隠遁することができる。


「違うね。来たばかりで一区の情報をあの子はないよ」

「けど、異世界の情報はある。チョロそうだろ、聞き出すのも連れ出すのも」


 ティモシーは軽業師だ。盗賊まがいのこともできる。戦闘能力はそこそこだが、剣の腕で牽制ぐらいはできる。なによりも。


「あの聖女の能力はどうだった? お前の“鑑定”で」

「てか、不明なんだよな」


 聞かれたティモシーは、わかんねえという言葉にそちらを向く。


「魔力値はプライスレス。職業は“何でもない人”。知力、体力は150。根性1000。すげーな。うちのお嬢様なんて10だぞ。アビリティは、点滴、注射、薬の調合と配膳あとなんだ? 授乳とおむつ交換、お産介助? そういうプレイができるのかよ?」

「なんだそりゃ」


 グレタが思わず起き上がり、眉をしかめる。


「聖女じゃないのか? アビリティも全く不明だが、魔力プライスレスってなんだ?」


 うーんとティモシーが考えこむ。


「俺も見たことね―けどな。価値無限大? 聖女じゃないなら、何にでもなれるつーわけ」

「……なんにでもさせられる、てわけか」


 考え込むグレタに、ティモシーは寝転がったまま笑う。


「聖女交換しちまう?」


 グレタはしばらく考えて、また寝転がる。


「そうだな、――貧乳、結構好みなんだけどな」

「んなんで決めるなよ」

「いや、聖女が好みかどうかは大事だろ」


 何かを呟いて寝返りをうつマリアをみて、寝袋をグレタは襟もとまでかけ直してやる。


「聖女、二人はパーティにダメだっけ?」

「マリアが受け入れないって」

「召喚されたばかりなら、まだ教育できるだろ?」

「それは、オイシーよな」


***


 たどり着いたのは、高台の石造りの要塞跡地だった。ところどころ芝生の合間に転がる石灰岩。先がすぼまった円筒型の建物がいくつもぽつぽつと立ち並んでいる。


 粉ひき小屋だったが、その後魔王軍との闘いのため要塞に作り替えたとレジーが説明する。


 その後の話がないから陥落したのだろうか。


「聖女印が残っているから、魔物は来ないよ」


 聖女印……なんだそれ。


「聖女の魔除け陣かな。魔物を寄せ付けない」

「一人分どころか建物一帯に張るってどんだけの力だよ」


 ヒューに言われてレジーは微かに微笑んだ。確かにそれだけの技を使えるんならば、優秀だよね。回復魔法一つ使えない自分とは大違い。たぶん結界みたいなもの?


 中央の大きな円筒の建物に入り、粉っぽい床にレジーのマントを敷いたままの上にローランドを寝かせる。横の暖炉に火を入れて温める。


「水を汲んでくるね」


 ヴィオラが裏に駆け出して、それをヒューが追う。枯れてなければ井戸があるそうだ。


「ローランド……」


 ヴィラが汲んできた盥の水からグレースが心配そうに彼の額や顔から血を拭う。


「着替えあるかな?」

「付与効果の防具はないけど、肌着ならば」

「鎧を脱がすのを手伝って。私が身体を拭くよ」

「アリス?」


 皆がローランドから、無理な姿勢であちこち手をのばし脱がそうとするのを見ていられない。こういうのは、負担をかけずに脱がせる順序がある。


「私は、怪我をみたり身体を拭いたりするのに慣れているから」


 イヴァンが眉を顰めるのを見て、アリスは後ろから支えて鎧を脱がして、と頼む。


「ヒューはお水を沸かせて。飲み水にしましょう。グレースはリネンを集めて。かけものを準備して」


 アリスはてきぱきと命じて、脱がされた鎧から上を確認する。


「血が張り付いている。切ってしまっていいかな」

「ん。いいんじゃね」


 剣を借りて思い切りよく衣服を裁断するように滑らせていく。血が肌に張り付いているところは慎重に。


「怪我は治っているみたいね」


 新しく皮膚が盛り上がっている。瘢痕化しているのもある。ただ多少黄色の浸出液がでているから、膿んでいるのかも。


「誰かアルコールはない?」

「なんだ、それ」

「ラベンダー、ティーツリーオイルでもいい」


 アロマオイルの中でこの二つは滅菌効果があると言われている。しかも直接肌につけてもいいもの。そのうえ、いい香りがするから消臭効果になる。


 が、ないらしい。


「……ウィスキーなら、あるぞ」

「アルコールあるじゃん」


 アルコールという分類分けがされてないのか? ウイスキーはウイスキーだ、みたいな? というか、旅の途中に飲むんだ?


 ヒューの金属製の腰下げ水筒から受け取り傷口に垂らすと、ローランが呻く。


「消毒だから沁みるけどごめんね。清潔な布はない?」


 抗生剤の塗布薬や薬剤がないのが惜しい。グレースの手巾で傷口を結んで終わり。


 彼を横にして清潔な服をまず袖を縮めて手先から通し、半分まで着せたら残りの半分を身体の下にできるだけ小さくして入れて、反対側に寝かしてまた袖から通す。


 コロコロ転がしながら服を着せていく様子を、マジックみたいに彼らは見ていた。意識のない人間は重い、起き上がらせず更衣させる医療者初歩の技術だ。


「ここは寒いから上で寝かせたいけれど……とても階段を上らせるのは無理ね」


 ぐるりと円筒形の壁に彫られたような階段を上らせることはできない。オマケに上には暖炉もなく、ただの木板の狭い部屋だけがあるという。


「藁を集めて彼の下に、その上にリネンを敷き温かくして。目を覚ましたら今日はまだ水を口に含むか、濡らす程度ね。明日は果汁、水、塩をまぜた補水液を口から摂らせて。水は必ず煮沸したのを冷ましてね。食事はまだいい」

「さっき井戸の上でレモンが木になってた」


 またヒューがヴィオラと共に出て行く。グレースがようやく端の椅子に座り込む。がっくりといった様子だ。


「ありがとう、アリス」

「私は何もしてないよ」

「やっぱりあなたは聖女よ。前の世界で救護院にいたと確か言っていたわよね」

「いいえ」


 そんなことは言ってない。


「――病院にいたんだろう?」


 横でじっとみていたイヴァンを振り仰ぐ。


「お前は病院で働いていた、だから、だろう?」


 イヴァンは病院を知っている。知らないと思っていたのに。それは、彼が他の聖女と多くかかわってきたから?


「そう」


 イヴァンはじっと見つめて、それから上を見上げた。


「ここならば魔物もでない。今晩は休息をしっかりとる必要がある、寝る場所を作ろう」



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