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聖女アリス、異世界で溺愛されてるけどツッコミが追いつかない。  作者: 高瀬さくら


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19.聖女はヤバい夢の再来ですの


 ――私は縛られていた。

 薄闇の中、見えるのは炎の揺らめき。

 ああ、また来てしまった。動こうとしてまた動けない。

 ぎちり、と鳴るのは重い金属の響き。しゃらっというより、がしゃっだ。重い、お腹と胸に食い込んでいる。それから手首と足首。


 よく目を凝らしたら、右方向の壁にくたりと同じように繋がれている人がいた。


 たぶん白い服が、足の裾まである。前傾姿勢になっているから気を失っているのだろうか。声をだして問いかけようとしたけれど、出てこない。


「聖女よ。我が力になる気はないか?」


 心地よいバリトンが響く。それはこの石造りの空間の前方から聞こえてきた。暗闇に慣れた目で見ると、前方の上手に椅子に座った王者がいた。教会の会衆席に当たる部分か、もしくは謁見の間の下手に当たる場所か、そちらに繋がれている自分達。目の前の上段には禍々しい王者がいる、そう思わされた。


 先ほどは気づかなかったのが不思議なくらい彼の圧力で満たされている。魔力だ――そんなものを感じる力なんてないのに、そう思った。


 彼が玉座から降りてくる。左右に据えられた松明の炎が揺れ、彼の顔と姿を照らす。あまりにも大きい。化け物のように巨大ではない。ただ、体格がいい。アリスの知る日本人よりも倍くらいだろうか、もちろん太っているわけじゃない。


 黒とも赤ともつかない髪は粗野に伸び背中の方まで伸ばされてる。目は深い赤。 

 ただ四方八方に灯る炎で赤く見えるだけかもしれない。たくさんの炎があるのに闇が深いためか、部屋に明るさが行き渡らない。


 彼が歩んでくる、ただしアリスの方ではない隣だ。そのことを安堵とともに、少しだけ残念に思うのはどうしてだろう。恐怖心が麻痺しているみたいだ。


「聖女。ただ一言こと、“従う”と。それだけ言えばいい」

『言い、ません』


 掠れたけれど、凛とした響き。小さな声は、今にもこと切れそう。なのに、意思をはっきり示していた。顔はよく見えない。

 炎はなぜか魔王を照らし続け、彼の後を追いかけてくるようで、その聖女と呼ばれた女性の姿がよく見えるようになった。


 アリスが彼女の方に身を乗り出したせいで、自分を縛る鎖ががしゃりとなった。


 それが響いたけれど、こちらには構わず彼らは会話を続けている。たぶんその魔王と呼ばれる男性は気づいているのに、そう感じる。見ていないのに彼の視線も感じていた。


『従いません』

「そうか」


 聖女と呼ばれた女性は、白く簡素なドレスを纏っていた。裾が擦り切れているけれど元は立派だったのだろうと思う。長く綺麗だったであろう黒髪はほつれている、でも意志の強さを感じる。彼女は従わないだろう、そう思ったのは彼も同じだろう。


「では――」


 彼が手をあげる。途端に、漆黒の中から無数の管のようなものが出てきて彼女に巻き付く。アリスは喉の奥を鳴らす。叫び声は出なかった。


 固まったように、息をするのを忘れて魅入る。

 視線を外したいのにできなかった。


 その管はまるで生きているかのように彼女の胸や腹に巻き付き締めあげていく、まるで蛇のようだ。無数のそれはたくさんの頭を持っているかのよう。けれど、それに顔はない。


「――よく見ておけ。魔王様に逆らえば、お前もそうなる」


 以前のように、いつのまにか彼が背後にいた。アリスの耳元で囁き、目を逸らさせてくれない。アリスの背後の壁から同じように管が伸びてくる、それが腰に胸へ伸びてくる。


「や、やだ……」


 緩くまきつくのは、まるでロープか紐の様。締め付けはしないけれど、いつでもできる、と脅している。


 先ほどの聖女とは違う、凛とした響きもない、怯えて逃げたいと言ってるだけ。動こうとしても天井に吊るされた両手の鎖がきしむだけ。


「聖女を見てみろ」


 彼女は叫ばなかった。締め付けられて、もがき、そして二度、三度と体を跳ね上げさせてくたりと体から力が抜ける。


(……死んだ、わけではない?)


 薄目が開いている気がする。

 直前の症状が気になる、発作性のけいれんだと、何度もがくがく体が揺れるはず。体が数回跳ねただけなんてあまりない。


(ああ。でも痙攣発作の種類はいろいろあるし)


 ただ意識を失えばずるずると体が崩れるはず。彼女は自分で身体をかろうじて支えている。意識が朦朧(もうろう)として、枷に身体をあずけているだけのように思える。


 その後だった。ゆらりと白い湯気かカゲロウのようなものが聖女から立ちのぼる。管が彼女に巻き付き、何かをしている。口や服の下に入り込み、うねる。そして膨らむ。ズッと吸引する音にアリスは戦慄する。


(吸い込んでいる……?)


 何をかはわからない。血液か体液だろうか? 餌だ、そうなるのだ。


「やめて、やめて」


 アリスは自分に巻き付いているものを見下ろす。まだそれはロープのように自分をしばりあげているだけ。でも死んだら何か吸い出すのだろうか、まるでヒルか、ミミズか、そんな顔のない生き物を連想させる。うねうねと動くのは意識をもっているかのよう。


(死んだら、自分もああやって吸われるの? 餌になるの?)


「――次は、お前だ」


 声はアリスの横にいた男からだった。半泣きで助けを求めてそちらに首を巡らせるのに、フードを被った人は助けようとはしない。


 気を失い、聖女を葬った魔王と呼ばれた彼が、アリスに目をやる。怖い。でもあまりも強い眼差しに――魅了されている。


 今度は息が早くなる、心臓が、早鐘を打つ。手先が冷たくなる、急に手首にはめられた枷が重く感じる。胸やお腹に巻き付いた管がきつくなる。


 あまりにも強大な存在だ。床をじゃり、じゃりっと踏む音。彼のブーツが洞窟内に響いている。近くなる、彼がアリスの顎を掴む。その指さえ太く、手は大きかった。


 優しさはない、無理やり顔をあげさせられて目を合わせられる。


「お前は私に従うか? ――聖女よ」


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