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第47話 埒外の冒険者たち

 ◇◇◇◇◇◇◇


 ――後日。

 『灰の都】の外側で大災害を目撃した盾の騎士シェルフィ・カタローグはこう語る。



「あのときは死んだと思ったであります。大地震が起きて外にまで水が溢れ出して、空には虫の大群。まさにこの世の終わりかと」



 ――風の噂によると、勇者様ご一行がシェルフィさんの窮地を救ったのだとか。



「その通りであります! あの氷魔法はエリカ殿の十八番おはこ。いや~! 現場を見せたかったであります。猛吹雪が通り過ぎたかと思ったら、街が一瞬でヒューンガキーン、ババーン! と氷漬けになったであります」



 ――興奮なさってますね(笑) こういった体験は初めてではない?



「エリカ殿の魔法は昇格試験で目の当たりにしたので。しかも聞いてください。いつの間にかテレポートの魔法も覚えたようで。事態が収まったあと、馬車ごとバイデンの街にひとっ飛びしたであります!」



 ――テレポート。たしか【ファストトラベル】という名前の伝説の魔法だとか。選ばれし勇者しか使えないんですよね。



「私の目に狂いはなかったであります。エリカ殿は勇者様の生き残りなのでありますよ!」



 ――勇者。魔王が退治され神が地上から去った際に、ヴァルハラへ誘われたとされる英雄たち。エリカさんはその生き残りだと。ですが、レジェンドモンスター【アトラク=ナクア】を倒したのはアラフォーの剣士だとか?



「【魔剣士】のタクト殿のことでありますね。あの方は多くの冒険者を輩出した剣術道場の師範を務めております。その実力は疑う余地もありません。お子さんのリリム殿も独特なカリスマの持ち主で、私の騎士団にもファンが大勢いるであります」



 ――なるほど。エリカさん率いる勇者のパーティーではなく、3人の勇者で結成したパーティー。それが……。



「新進気鋭の勇者パーティー【イレギュラーズ】なのであります!」



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ふふふ。【イレギュラーズ】の名前も広く知れ渡ったな」



 灰の都での大クエストが終わった1週間後。

 リリムは馬車に揺られながら、まんざらでもなさそうに手配書を眺める。

 俺はため息をつきながら、御者ぎょしゃ台に座り手綱を握っていた。



「名前が書かれているのが指名手配書でなければ喜べたんだけどな」



 手配書には俺たちの名前とパーティー名が書かれていた。

 【イレギュラーズ】という名前は灰の都に旅立つ前に決めたものだ。

 命名したのはリリムで、名付けた理由は「なんか格好いいから!」とのこと。



「はぁ……。街を救ったのに指名手配されるなんて」


「伯爵の一件もありましたからね。さらにそこで貴重な古代遺跡を吹き飛ばしたとあれば、手配書が出回るのも仕方ないかと」



 エリカはリリムの隣でランチパックを開き、サンドイッチをリリムに与えていた。



「タクトさんも食べますか?」


「俺はいい。こいつがあるからな」



 俺はそう言って手元に置いた酒瓶を揺らす。

 サンドイッチを食べていたリリムが、ここぞとばかりに俺を指差してとがめてくる。



「飲酒運転なのだ! いーけないんだいけないんだ。シェルフィに言ってやろ」


「ここまで離れちまえば白銀はくぎん騎士団の管轄外かんかつがいだ。だからノーカンだ」


「領地の外で旅人を取り締まると越権行為とみなされて、シェルフィさんが逆に罪を問われることになりますからね」


「ふん。脳筋のくせに悪知恵ばかり働かせおって。誤って馬車を横転させるなよ。せっかく詰め込んだ食糧がすべてパァになる」


「おまえの心配事はそれか。気つけに飲んでるだけだ。ちょっとくらいいいだろ?」



 大仕事が終わってひと息つけると思ったら、いきなりの指名手配だ。だからバイデンの街を飛び出して、西の方角にある別の街を目指すことになった。飲まなきゃやってられない。


 聞いた噂だと、俺たちを嗅ぎ回ってる記者(?)らしき人物もいるらしい。

 話を聞きつけたリリムがインタビューを受けたがっていたが、偏向へんこう報道であることないこと書かれても大変だ。シェルフィを盾にして逃げるように街を後にした。



「しかし、逃げることはないだろ。厄介ごとはギルドのエルフBBAがコネで揉み消すのではないのか?」


「何かと尽力じんりょくしてくださっていますが、処理に時間がかかるようです。立ち入り許可を得る際に中央に借りを作ったとかで」


「これ以上は無理も効かないか。ギルド長には苦労ばかりかけるな」


「『あとはいい感じにヨロシクするので、ほとぼりが冷めるまでバイデンの街には近づくな』と言われました。戻ろうと思えば【ファストトラベル】もありますからね」


「だな。ギルド長とシェルフィがいればバイデンの街は安全だ。周辺にあるバグの気配も消えたから心配ないだろう」


「どうしてわかるのだ?」


「無銘が教えてくれるんだよ」



 リリムの問いかけに、俺は鞘に収めたままの無銘を叩く。


 「こいつはバグの発生源を指し示すらしい。あまりにも遠く離れてると感知できないがな」



 灰の都に突入した際、無銘の導きの光によって【トランスウォーター】が湧き出していた泉にたどり着いた。

 エリカが【アトラク=ナクア】に攫われたときも、相手の居場所を導き出した。

 バグと関係するモノや場所、人物に光が差してヒントを教えてくれるのだ。



「周辺を調べたがバグの反応はなかった。だから、次の街に行って異変がないか調べようって話になったんだよ。証拠に……ほら、マップにも怪しい赤い丸は表示されてないだろ?」



 俺は御者台に座りながら、空中にマップウィンドウを表示する。

 現在は重なり合った3つの【P】マークが、街道を進んでいるだけだ。


 ビーコン機能とマップを併用すれば、俺とエリカ、リリムの居場所も瞬時にわかる。俺たちは【イレギュラーズ】。バグによって生まれた異質な存在だからだ。


 俺は表示された世界地図を二本の指で拡大、縮小させながら感嘆のため息を吐く。



「しかし本当に便利だな。いつでもどこでも地図が表示できるなら道に迷わずに済む」


「アイテム鑑定を使えば、毒入りの食べ物がわかったりするんですよ」



 システムを使い慣れているエリカは、サンドイッチを片手にアイテムウィンドウを表示させた。面白がったのか、リリムも真似をしてウィンドウを出す。



「おお、本当だ! 賞味期限まで表示されてるぞ。これが勇者の権能か!」


「まさか俺とリリムまで【PC】になるなんてな」



 モルガンは別れ際、『この世に残された最後の勇者』と俺たちを形容した。

 どうやらモルガンが裏で悪さをして、俺とリリムを【NPC】から【PC】に変えたようだ。エリカのステータス表記にも、元の文字が消えて【PC】と書かれている。


 【PC】にカテゴライズされた結果、俺とリリムもアイテム鑑定やファストラベル機能を使えるようになった。

 この世界に生きる普通のNPCにしてみれば相手のステータスを覗き見たり、テレポートの魔法で街を行き来する俺らは異質な存在だろう。


 だからこそ、あえて【埒外の冒険者たち(イレギュラーズ)】を名乗っている。

 常識が通用しないバグが発生したとき、俺たちを頼ってくれるように。



「タクトさんは今もPC……勇者と名乗ることに抵抗がありますか?」


「正直まだ慣れないかな。勇者は憧れだったが、いざなってみると背中がむずかゆくなる。アラフォーのおっさんが勇者やっててすみません」


「タクトはまだマシであろう。ワシさまなんて魔王の娘が勇者になったのだぞ。ネタを盛り過ぎなのだ。悪なのか正義なのかハッキリせい!」


「いっそのこと勇者アイドルを目指したらどうだ? 騎士団でも大人気だったじゃないか」


「リリムちゃんならお似合いです。一緒に登りましょう、輝かしい勇者(どう)を!」


「そうか? 目指しちゃうか完璧で究極の勇者! 芸能界のテッペン取っちゃうか! がーはっはっはっ!!」



 エリカにおだてられたリリムは調子に乗って高笑いをあげる。勇者仲間ができてエリカも嬉しいんだろう。

 文句を垂れていたが、おじさんも内心では嬉しかった。アイドルを目指すつもりはないが、勇者ならまあ……やってやらないことはないみたいな感じだ。



「気合い入ってきたのだ! まだ味わったことがない美味いメシを探しに行くのだ! だから……」


「バグやチートによって困っている人がまだ大勢いるはずです。ワタシのチカラでみなさんを救いたい。ですので……」



 リリムとエリカは顔を見合わせると。



「これからもよろしく頼むぞ。下僕げぼく!」

「これからもよろしくお願いしますね。リーダー!」



「そこは意見を合わせてくれ……」



 最後の最後でリリムとエリカの意見が食い違う。

 二人は馬車の中で言い争いを始めてしまった。



「はぁ? このパーティーのリーダーはワシさまだろうが」


「リリムちゃんこそ、タクトさんを下僕呼ばわりは失礼ですよ」


「何を言う! タクトはワシさまに忠誠を誓っている。タクトの物はワシさまの物。ワシさまの物はワシさまの物なのだ」


「リリムに忠誠を誓った覚えねぇよ」


「っていうか~。最近のエリカちゃん、タクトくんと距離が近くな~い? 昨日もメシ前にメス顔で言い寄っておっただろう」


「あっ、あれはシチューの味見をしてもらっただけです。他意たいはありません」


「本当か~?」


「本当です。そこまで言うなら今度からリリムちゃんに味見をしてもらいます。それでいいでしょう?」


「はははは! その言葉を待っていた! エリカ・ヨワタリ破れたり!」



 リリムは馬車の中で【ブラッディソード】を抜くと、高らかに掲げて勝利宣言を行う。



「これでつまみ食いしても味見をしたと言い張れる! 無限に味見し放題なのだ!」


「何を言ってるんですか? ワタシの見ていないところで食べたら許しませんよ。つまみ食いは”氷錮ひょうこ”1時間の刑です」


「ひぎぃ! この氷使い、目がマジなのだ。ギリギリ耐えられそうな時間設定がリアルで怖い! 助けて、タクえも~ん!」


「はいはいお客たち、暴れないの。荷物に傷つけたらその場に放り投げるぞ」



 騒いでる二人に注意をしながら、俺は街道の分かれ道で方向を切り替えて西に馬を進める。



 人生は迷いと決断の連続だ。


 俺も最初は道に迷い、無銘を手に入れたことから第二の人生が始まった。

 けれど、偶然も人生の醍醐味だ。

 未知との出会いが、その後の人生を決めることもある。



「おい、リリム。サンドイッチ余ってるならひとつ分けてくれ。小腹が空いてきた」


「判断が遅い! もう全部食べたわ! ばぁ~か!」


「こいつ……。やっぱりそのあたりに捨てようかな……」


「お好きな具材を仰ってください。タクトさん好みのサンドイッチを作りますよ」


「アラフォーのおっさんを甘やかすでない。勘違いして連絡先とか聞いてくるぞ」


「同じパーティーに入っているのでフレンドコードはすでに交換済みかと」


「にゃにーーー!? ワシさまの個人情報も抜かれておるのか!? 情報化社会の闇なのだ!」


「俺はしらんが、リリムの設定はスリーサイズまで公式サイトに載ってるんじゃないか。バーチャルアイドルなんだろ」


「うわーーーん! エリカ~! おっさんにはずかしめられたのだっ! アイドルだから秘密決まっておろうが!」


「タクトさん。最後のはよくありませんよ。めっ」


「はい……。気をつけます……」



 本当にかしましい娘たちだ。未だに上手くコミュニケーションを取れない。


 これから先、さまざまな出会いと困難が俺を待ち受けているだろう。

 だけど平々凡々なレールの上を歩くより、トラブルばかりの道のりを俺は選んだ。

 その選択に悔いはない。頼れる仲間とこうして出会えたのだから。




「今日もいい天気だ……」




 道場を出た日と同じような快晴の空を見上げながら、馬車に揺られて酒を飲む。


 剣とわずかな食糧を手に、身ひとつで飛び出た外の世界。

 今では愛剣をたずさえて、増えた荷物と仲間を馬車に乗せて新天地を目指している。


 これからも俺は仲間と共に旅を続けるだろう。

 神に命令されたわけではない。自分の意思でそう決めた。


 PCがしている冒険というモノをしてみたい。

 それが『チュートリアルおじさん』こと、タクト・オーガンが長年抱いていた夢だったから――――。



リリム「ワシさまたちは登り始めたばかりだからな。このバグった坂をよ! それはマズイので世直しのたびに出るのだ」


ここまでお読みいただきありがとうございました。読者さまの☆やブックマークが創作の後押しになります。少しでも面白いと思われたら評価をよろしくお願いいたします!

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