第32話 おじさん、昇格試験を観戦する
エリカの申し出(喧嘩をふっかけた)により、突如はじまったギルド長との対決。
俺たちは騎士団の稽古場として使っている屋外の広場に向かい、二人の戦いを見守ることとなった。
「さあ! いよいよ始まった昇格試験! どうですか解説のタクトさん。エリカ殿はギルド長に勝てるでしょうか?」
「解説ってなにさ……」
観戦組のシェルフィは一人で勝手に盛り上がって実況をはじめていた。
観客は他にもおり、稽古の途中だった騎士や従者たちがワラワラと集まっていた。その中心にいるのがリリムだ。
「みなのもの、おはボウクンなのだ!」
「おはボウクンです! リリムさまは今日もお可愛い!」
「うむうむ。さすがはワシさまのファンたちだ。訓練が行き届いておるな。件の修行も欠かしておらぬか?」
「はい! リリムさまに教えてもらった『DBT斬り』の修行は毎日欠かさず行っています」
「ははははっ! よいぞよいぞ。その調子でこれからも励め」
リリムは満足そうに高笑いを浮かべると、広場にいるエリカたちに視線を向ける。
「今日はワシさまお気に入りの宮廷料理人とエルフのBBAの喧嘩だ。またとない魔法戦の試合だからの。見て学べることも多かろう。しっかりと観戦するように」
「イエス、マイ・ボウクン! 知的なリリムさまもサイコ~~~!」
「なんだアレ……」
リリムはすっかり騎士団のアイドルとなって、我が物顔で指導に当たっていた。
魔法戦を見て学べとリリムに伝えたのは俺なんだが……。
そんな喧噪の中、広場の真ん中で向かい合っているエリカとギルド長は戦い辛そうに肩をすくめる。
「外野がうるさいですね。念のため広場に結界を張りました。これで外には被害が及びません。好きに暴れてくださって結構ですよ」
「全力でこい、ということですか」
「そうでないと試験になりませんから」
「……お言葉に甘えて遠慮なく」
ギルド長の挑発に、エリカは怒りをはらんだ視線をジトリと向ける。
その手には魔法の杖が握られていた。最初から本気のようだ。
今回の対決は、対外的にはエリカの銀等級昇格試験となっている。
銀に上がれば俺と対等のランクになり、灰の都への立ち入り許可も下りるはず。そう判断してのことだ。
俺とリリムは特例でランクアップしたが、本来は試験官と試合を行い勝利することで昇格できる。
ゲームでも仕様は同じで、試験官NPCと対決する必要があった。
一般NPCであるギルド長とこうして戦えるのも、サービスが稼働していた頃の仕様が生きているからだろう。
「はじめる前にひとつ確認を」
ギルド長はそう言うと、懐から小型の杖を取り出した。
エリカの持っている杖とカタチは違うが、施されている魔術的な装飾は同じものだった。
ギルド長が出した杖を見て、エリカが驚いた表情を浮かべる。
「その杖はヴィヴィアン先生の……」
「やはりあなたもお弟子さんでしたか。この杖はヴィヴィアン先生の魔法教室を卒業した証。駆け出しの頃、私も彼女に師事を受けていたのです」
「ヴィヴィアン先生もエルフでしたね。いったい何時の時代からチュートリアル役をなさっていたのやら」
「チュートリアル……ですか。私の時代はそんな生易しいものではありませんでしたよ。実践主義のスパルタで育てられました」
ギルド長は相手を小馬鹿にしたように笑うと、挑発するように杖を左右に揺らす。
「ですから、エリカさんが先生のお弟子さんだと知って正直ガッカリしました。今時の若い魔法使いは生活にゆとりがあって必死さが足りないのでしょうね。理論や座学を優先して、魔力も少なくて隙だらけ。そんな脆弱さでは灰の都に到着する前に死んでしまうでしょう」
「だから先輩風を吹かせて教育してやろう、というわけですか」
「失敬。そのように聞こえてしまったのなら謝ります」
エリカは見るからに苛立っている。普段のお淑やかな雰囲気は消えていた。
その様子を見ていたシェルフィが、こそこそと俺に話しかけてくる。
「解説のタクト殿。ギルド長はやけに舌戦を仕掛けてきますが。これはもしや」
「ギルド長の作戦のウチだろう。エリカはああ見えて煽り耐性が低い」
挑発に乗って試合を申し込んだことからも明らかだ。
普段は自分を律しているようだが、フタを開けてみると中身は素直。というか子供っぽい。俺を勧誘したときも要求はストレートで駆け引きもなかった。こちらから条件を引き出したくらいだ。
ギルド長はエリカの『根が素直』という弱点を的確に突いて、次の一手への布石を敷いていく。
「今さら教えを請うまでもない。そう仰るなら先生の言葉は覚えていますよね?」
ギルド長は杖をチョイっと天に向けると……。
「魔法は爆発だ!!!!!」
いきなり全範囲無差別爆撃魔法を放った。
リリム「ふははは! ついにワシさまの挨拶が民衆の間にも広まったな。この調子で世界をワシさま色に染めてやるのだ!」
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