第21話 おじさんの魔法剣が炸裂する
「ワダ、ワダジの体がどけ、溶ける縷々縷々縷々宇ゥゥゥ……っ!!」
伯爵は炎の体すら維持できずに、巨大な炎のスライムと化していた。
溶岩の塊となった伯爵は、自分の意思とは関係なく宮殿を破壊している。
「まずいな……。このままだと宮殿がもたない。ここもいつ崩れるか」
「そんなっ。まだ中に逃げ遅れた人々が……!」
「それだけじゃない。中央通りに溶岩が流れ出してみろ。街が一晩で灰になるぞ」
いくら剣の腕を磨こうが自然の脅威相手には無力だ。
無敵の体を手にいれたわけでもない。指先が溶岩に触れただけでも大火傷を負うだろう。
だが――
(俺の考えが正しければ勝ち目はある)
伯爵の使った炎は氷の魔法をすり抜けた。
けれど、無銘の衝撃波の影響は受けた。
おそらくバグった聖剣ならバグった相手に有効なのだろう。
「ヌポァアアアアアアアアアアアア!!!!」
伯爵改め溶岩の魔物は、耳障りな奇声を発しながらその体積を増やしている。
俺は無銘を握りしめながら隣にいる女魔法使いに声をかけた。
「おい、あんた」
「エリカです」
「ん……?」
「エリカ。それがワタシの名前です」
「自己紹介が遅れたな。俺はタクト・オーガン。冒険者だ」
「タクト……」
「どうかしたか?」
「いえ。それよりなんですか? あの魔物を倒す妙案でも浮かびましたか?」
「ぶっつけ本番だが勝ち目はある。一枚噛むか?」
「賭け事は好きではないのですが、四の五の言ってる場合ではありませんね」
「それなら耳を貸せ……」
「ちょっ、耳に息を吹きかけないでください。くすぐったいです」
「それどころじゃないだろうが」
俺はエリカに耳打ちして秘策を授ける。
伯爵はすでに聞く耳が溶けてるだろうが、万が一聞かれでもしたら対策を練られる。念には念を入れて、だ。
「来たぞ! タイミングを合わせろ!」
「了解です!」
溶岩が差し迫る。俺は角を飛び出して無銘を構えた。
「ソコカアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!」
溶岩スライムと化した伯爵は、俺の姿を見つけると雄叫びをあげた。
まだ意思があったのか、俺を捕まえようとして巨大な溶岩の手を形作る。
これなら狙いやすい……!
「今だ!」
「【アイスエンチャント】!」
エリカが魔法を唱え、氷属性の魔力が無銘に宿る。
無銘のスキルブーストを発動。白い冷気を篭めた渾身の一撃を放った。
「【アイススラッシュ】――――ッ!!!!」
【アイススラッシュ】は、【アイスエンチャント】と【パワースラッシュ】の合わせ技だ。すさまじい剣風が氷の竜巻となり――
――――バギバギバギバギバギバギバギンッ!!
巨大なスライムを一瞬で氷漬けにして、迫り来る溶岩をせき止めた。
竜巻の勢いは留まらず、溶け落ちた廊下を、崩れかけた天井を、熔解しかかっていた宮殿を瞬く間に凍結させる。
「アガガガガガガガガ画我が賀ガガガ……ッ!!!!」
氷漬けになった巨大な手形。
伯爵だったものの残滓が呻く。
「くたばれっ!」
俺は冷気まとう無銘を振り抜き、バグった怪物をこの世から消し去った。
◇◇◇◇◇◇
――それから3日後。騎士団の宿舎にて。
◇◇◇◇◇◇
「タクト・オーガン殿に敬礼!」
「え~、本日はお日柄もよく……」
総勢30名の騎士の前で、なぜか俺は朝礼を行っていた。
リリム「久しぶりだな。ワシさまの活躍見てくれたか? え? おっさん視点だから描写されていない? なんだと~!? ワシさまの活躍を知りたかったら次回の更新分を見ろ!」
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