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第15話 おじさん、伝説の武器を作る

リリム「おはボウクン! ここから第3章スタートなのだ」


 ギルド長からの依頼を受けた翌日。

 俺とリリムは街の加工場へと向かうことにした。


 その道中、ちょうど小腹が空いたので商店街で買い食いをする。

 さすがは商業の街バイデン。町の中央商店街には多種多様な食材が並び、美味しそうな匂いが辺りに漂っていた。



「本当に好きなものを食べてよいのか!?」


「ああ。金なら狼を倒した報酬でたんまり貰ったからな」


「よーーし! それならこの街にある美味いものを食べ尽くすぞ。ついてまいれ!」


「お手柔らかに頼むぞ。おじさんになるとあぶらっぽいものが苦手になるんだ。胃も小さくなってきてな」


「ヒャッハーーーー! 羊の串焼きだーーーー!」


「人の話を聞け……」



 リリムはヨダレを垂らしながら串焼きの屋台に突撃する。狼狩りのご褒美でもあるので好きにさせよう。

 リリムが楽しそうにモノを食べている姿を見るのは楽しい。笑顔にしたくなる。

 俺に子供はいないが、もしもいたらこんな気持ちを抱いたのだろうか。



「早くこっちに来い財布係! 金がないと宴を始められないのだ!」


「やっぱりおまえ、俺を従者か何かと勘違いしてるだろ……」



 オレはリリムにあとをついていきながらバイデンの町並みを眺める。

 エルメリッヒ伯爵が住む宮殿は都市の北端に位置しており、中央通りからその白亜の偉容いようを眺望できた。



「成金はどうして大きな家を建てたがるんだろうねぇ」



 王宮と見間違えるほどの豪華さだが、その富と権力は『商品』を売り買いすることで成ったものだ。

 俺が巨人族だったなら、今すぐ蹴って吹き飛ばしてやりたい。

 無銘を使えば可能だが、それでは街が半壊して多くの犠牲者が出る。



(今回は隠密作戦だな……)



 作戦を成功に導くには、リリムの戦力も強化しなくてはならない。




 ◇◇◇◇◇◇



 屋台で腹ごしらえを済ませたあと、当初の目的地である加工場へ向かった。

 加工場には鍛冶師がおり、モンスターから剥ぎ取った素材を武器や防具に仕立ててくれる。


 煙突からモクモクと煙を出している石造りの工房。入り口の暖簾を開きながら俺は鍛冶師に声をかけた。



「よっ、大将。やってる?」


「ウチを馴染みの店みたいに扱うでない。昨日会ったばかりではないか」



 俺が声をかけると、背の低い髭もじゃの老人が嫌そうに振り返った。

 手には加工用のハンマーを手にしている。髭もじゃの老人はドワーフ族の鍛冶師だった。



「防具はまだじゃぞ。【ブラッディファング】の毛皮を念入りに手入れせねばならん。最低でも1週間は見てほしい」


「わかってるって。けど、その口ぶりだと武器は完成したんだろ」


「うむ。それなら……」



 ドワーフの鍛冶師はハンマーを置くと、壁に飾ってある武器の中から真っ赤な刀身のロングソードを手にした。



「こいつがご所望の【ブラッディソード】じゃ」


「おお。これがワシさま専用の魔剣か……っ!」



 鍛冶師から魔剣を手渡されたリリムは、感慨深げに真紅の刃を眺める。



「その剣には、斬った相手の魔力を奪い取る魔法効果がかけられておる」


「【マジックドレイン】か」


「伝説によると【ブラッディファング】は喰らった相手の血肉、それと魔力を糧に数百年という時を生きたそうじゃ。その特殊なスキルが【ブラッディソード】に宿っておるのじゃよ」


「魔力を吸い取る呪いの剣か! 【魔剣士の娘】であるワシさまにふさわしい武器だな!」


「ほぉ~、確かにこいつは見れば見るほど立派な剣だ……」


「おぬしにはやらんぞ。タクトには無銘があるではないか」


「わかってるよ」



【ブラッディファング】を倒した際に入手した黒い毛皮と真紅の牙は、売りさばかずに加工場へ持っていった。


 俺もリリムもクラスは【魔剣士】だ。

 俺には魔法の力を帯びた聖剣【無銘】があるが、リリムはまともな武器を持っていない。そこでリリム専用の魔剣を加工してもらったのだ。


 俺は真紅に染まった呪いの剣を眺めながら、鍛冶師に問いかける。



「魔剣の加工って難しいんじゃないのか?」


「昔取った杵柄きねづかと言うじゃろう。ドワーフは魔法の武具の加工に秀でておっての。久しぶりに本気の腕を奮えて満足じゃわい」


「さすがは多くのPC(プレイヤーキャラ)がお世話になる序盤の街の鍛冶師だの! 仕事が丁寧で早くて安いのだ! 牛丼屋顔負けだな!」



【ブラッディソード】を鞘にしまったリリムは、悪気のない笑顔を浮かべる。

 聞き慣れない単語を耳にした鍛冶師は、太い首を器用に曲げて疑問を口にする。



PC(プレイヤーキャラ)ってなんだ?」


「こいつの言うことは気にするな。腕がいいって褒めてるんだよ」



 鍛冶師はメタ的な情報を知らない一般的なNPCだった。


 チュートリアルが終わってすぐに到着する商業都市バイデンは、PCの拠点のひとつだ。

 中級クエストを受注できるまでお世話になる街で、宿屋やアイテム屋、教会や冒険者ギルドなどクエスト攻略に役立つ施設が揃っている。

 この加工場も初心者向けの施設のひとつで、本来は銅ランクのクエストで得られるアイテムまでしか加工できないのだが……。



「リリムも魔剣を気に入っている。急な依頼だったのに手伝ってくれてありがとうな」


「礼を言うのはこちらの方じゃ。おぬしが銀等級にランクアップしたから、レジェンドモンスターのアイテムを加工できた。強力な武具の加工には特別な許可がいるからの」


「それならギルド長にも礼を伝えるべきだな。オレとリリムを銀等級に上げてくれたのも彼女の計らいだ」



 仮免と銅ランクの駆け出し冒険者パーティーが、レジェンドモンスターを狩猟した。イレギュラーにイレギュラーが重なり、ギルド側も大慌て。

 本当なら昇格試験が必要だったが、特例としてオレもリリムも銀等級にランクアップした。


 伝説級の武具は持ち歩いているだけでも周囲に脅威を与える。下手なことに使えば災いをもたらす。

 だから、脱初心者の証である銀ランクに昇格しないと所持はおろか加工も許されないのだ。


 俺の持つ【無銘】は、ギルド側で存在も確認されていないイレギュラーな武器だ。

 後出しになるが、銀等級に昇格したことで所持を許されている。ギルド長も了承済みだった。



「生きているうちにレジェンドモンスターの素材を使って武器を作れるとはな。鍛冶師冥利につきるわい」


「いいってことさ。この街に腕の良い鍛冶師がいてくれて俺らも助かった」



 鍛冶師は、これまでずっと文句も言わずにマジメに仕事をしてきたのだ。

 ご褒美として伝説の武具を作らせても罰は当たらないはず。

 ヴィヴィアンが俺に頼んできた『役目を全うできずにいるNPCの未練を晴らす』。その活動の一環でもあった。



「これで武器は揃った。お次は助っ人に声をかけないとな」

 リリム「ブラッディソードかっこいいのだ! これでワシさま最強。勝ったな、がはは!」


読者おまえだの★がランキングに影響する。面白いと思ったら★をくれるとワシさま大喜び。作品のブクマも忘れずにのう。では次回また会おう!

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