第14話 おじさん、美人なギルド長と面会する
第2章 最終回となります。
ギルド長に呼ばれた俺とリリムは、緊張の面持ちで執務室に入った。
執務室には赤いカーペットが敷かれ、高そうなソファーが中央に置かれてた。
棚に並ぶ調度品も豪華だ。これ見よがしに牛型モンスターの角が壁に飾ってある。さすがは商業都市の冒険者ギルド。羽振りがよさそうだ。
「ようこそおいでくださいました。私の名前はフィーレ・フォン・アリストテレス。この街の冒険者ギルドを任されています」
ギルド長は柔和な笑みを浮かべると、ソファーへの着席を促した。
ギルド長の見た目の年齢は20代後半。
切れ長の睫毛が美しい貴婦人、といった感じの女性だった。
だが、見た目通りの年齢ではない。彼女は耳長族……【エルフ】だからだ。
クラスは魔法使いだろう。
ゆったりとした青色のローブに身を包み、ふくよかな胸元にアミュレットをぶら下げている。
「お疲れでしょう。どうぞこちらを。西の鉱山、その先にある茶畑から取り寄せた一級品の紅茶です」
入室前に淹れておいたのだろう。
ギルド長は俺とリリムの前にティーカップを差し出す。
「あなた方が狼を退治してくださったおかげで流通が再開しました。街の商人を代表してお礼を申し上げます」
「むふふ。美味しい紅茶だな。このクッキーはサイショ村のか」
リリムは呑気に紅茶を口にして、お茶請けのクッキーにも手を出す。
「サイショ村での活躍も耳にしておりますよ。暴れるイノシシを一刀のもとに伏したとか。【魔剣士】のクラスは伊達ではありませんね」
「いや~、それほどでもあるがな~」
自分のことを褒められたと勘違いしたのか、リリムは鼻を高くしながらクッキーをパクパクと食べる。
俺は礼儀として紅茶だけをいただいて、探り探りギルド長に話しかけた。
「俺らのことは調べがついてる、ってことですか」
「当然です。冒険者に転職したばかりの傭兵さんが、レジェンドモンスターを討伐。しかも魔剣士という特殊クラスになり、問題を起こしていた盗賊と大立ち回り。これで噂を耳にするな、という方が難しいでしょう」
「そう言われると問題を起こしすぎたか……」
「レジェンドモンスターの一件がなくとも、タクトさんの噂は前から耳にしていました。傭兵時代に培った剣技を新人冒険者に惜しみなく伝えるだけでなく、己の鍛錬も欠かさずにさらなる武の高みを目指し続ける……。まさに剣士の鑑ですね」
「なんか恥ずかしいな……。俺はただ田舎に引きこもって剣を振ってただけなんだが」
「ご謙遜を。例え本心だとしても自己評価を改めた方がよろしいかと。自分では大したことがないと思っていても、世間は天才を放っておかないんですよ」
「ギルド長がこうして声をかけてきたように、か」
俺の呟きに、隣に座ってクッキーを食べていたリリムの手が止まる。
「はっ!? まさかワシさまたちから”有名税”を取り立てるつもりか!? 冒険者をはじめたばかりで金はないぞ!?」
「おまえ、有名税の意味を勘違いしてるだろ……」
「ふふっ。噂通り、おもしろいお嬢さんですね。タクトさんとの関係は……不問としましょう」
サイショ村での騒動を調べたということは、リリムが【悪魔族】であることも知っているはず。だが、ギルド長は笑ってスルーした。
「大事なのは過去ではなく未来。冒険者として何を為すか……です」
ギルド長はそこで、赤い封蝋が押された手紙をテーブルに置いた。
「これは商業都市バイデンを管理する領主、【エルメリッヒ伯爵】からの依頼状です」
「あ~……。エルメリッヒ伯爵かぁ……」
「おや? ご存じでしたか」
「この辺りに住んでれば噂くらいはね」
なんて誤魔化したが、知っているのはゲーム内の知識だ。
冒険者になったPCがある程度クエストをこなしてランクアップすると、この強制イベントクエストが差し込まれる。
クエスト名は『エルメリッヒ伯爵の危険なお誘い』。
エルメリッヒ伯爵は世界中の珍品を集める好事家として有名で、PCに荷運びの護衛を頼んでくる。
……というのは建前で、本当は『奴隷』を運搬している。
奴隷もエルメリッヒ伯爵が扱う『商品』のひとつ。
伯爵の住む宮殿にて夜な夜なオークションが行われており、奴隷が売り買いされているのだ。
「絶対に荷物を見るなよ。絶対だぞ」と言われてスルーすれば、報酬だけ貰える。
荷物を見ると奴隷に助けを求められて、伯爵の悪事を裁く展開になる。
クエストの途中で奴隷の女の子と心温まる交流があったりするが、伯爵の手にかかって非業の死を迎えてしまう。
エルメリッヒ伯爵を誅伐することで、女の子の無念も晴れてハッピーエンド。報酬は、奴隷を解放したときの笑顔。プライスレスだ。
裏事情やオチまでわかっているイベントクエストに、わざわざ首を突っ込みたくはないのだが。
(すでに巻き込まれたんだよなぁ……)
盗賊に目を付けられたときに思い出しておくべきだった。
あいつらの後ろ盾はエルメリッヒ伯爵なのだ。
PCの代わりに俺が目を付けられたわけで、バグの影響もあって何が起きるかわからない。面倒事が飛び火して炎上拡大しないうちに解決してしまおう。
それに……。
(奴隷が捕まってるとわかっているんだ。見過ごせないよな)
鎖に囚われたまま世界が終わったら、死んでも死にきれないだろう。
奴隷たちには外の世界を見てもらいたい。俺と同じように自由の風を感じてもらいたい。
「諸々の事情はわかっています。荷物の護衛任務、俺たちに任せてください」
リリム「これにてシーズン2が終了だ。次回から新キャラも登場する予定だ。悪役をこらしめるぞい! ここまでお読みいただきありがとう。おまえの☆やブックマークが創作の後押しになる。面白い、先が気になると思われたら、応援よろしく頼むぞ!」