第12話 おじさん、レジェンドモンスターと戦う
ログドラシル・オンラインには、【レジェンドモンスター】と呼ばれるレアなモンスターが存在する。
一般的なモンスターとは強さが桁違いで、出現エリアに古くから伝わる伝承として語り継がれている。
【ブラッディファング】は、鉱山を根城にしている伝説上の魔獣だ。
敵と見なされたら最期。相手がダンジョンのボスだろうが王国軍だろうが見境なし。縄張りに入った敵を容赦なく噛み殺す。
その鋭利な牙は、犠牲者の血で真っ赤に染まっているという……。
「グルルルルルル…………」
崖の上に佇む【ブラッディファング】はニタリと大きな口を開いて、その異名の元となった真紅の牙を見せつけてきた。
真っ黒な毛並みが背後の暗雲に溶け込み、血に染まった大きな口が闇の中で嗤っているように見えた。
「どうして低ランクのクエストに、レジェンドモンスターが出てくるのだ!?」
「宣伝隊長のくせに勉強不足だな。これは顔見せイベント、いわゆる伏線だよ」
サイショ村付近で発生したモンスターの活発な動き。
西の山に垂れ込める暗雲。低ランククエストを通じての邂逅……。
すべては【ブラッディファング】に関係する一連のイベントなのだ。
俺はゲーム内知識としてそのことを知っていた。
だから狼討伐クエストを引き受けたのだ。
「サービス終了と共にレジェンドモンスターも消えたかと思ったが、どうやら賭けに勝ったらしい」
本当なら【ブラッディファング】の姿をチラ見せして、討伐クエストはまた後日……という流れになるのだが。
「リリムはそこにいろ」
姿を消す前に早々に片付ける必要がある。
相手が剣士なら礼のひとつもするところだが、モンスター相手に礼儀は不要だ。
俺は【ムーブ】を連続使用して一瞬で【ブラッディファング】に接近。
無銘で斬りかかった。
「ガウゥッ!!」
【ブラッディファング】は巨体にも関わらず、俺の不意打ちを回避した。
崖の上で跳躍して数メートル先にある岩の上に着地する。
これで俺を敵と認識しただろう。
「相手に取って不足なし。いくぞ相棒! おまえの力を見せてくれ!」
レジェンドモンスターが相手なら、無銘の力を存分に奮えるだろう。
俺は再びムーブを使用して【ブラッディファング】に近づいた。
「【ダブルスラッシュ】――――ッ!」
剣術スキルの基本技、【スラッシュ】の二重攻撃。
それが【ダブルスラッシュ】だ。
縦方向と横方向の斬撃を同時に放つことで十字の剣撃を放つ。
シールドなどで範囲防御を行わなくては防ぎようがなく、爪と牙しか持ち合わせていない獣型モンスターに有効だ。
しかも今回は無銘によるブーストがかかっている。
軽く横薙ぎしただけで森を50メートルほど伐採したほどの衝撃波が出た。
回避は不可能。必中だ。
だが――
「アオーーーーーーン!」
【ブラッディファング】は雄叫びをあげる。
――――ズガァァァァァンッ!
次の瞬間、上空に立ちこめていた暗雲から雷が落ちた。
雷によって衝撃波が相殺される。
「グルアアアアアアアッ!!!!」
俺を脅威と見なしたのだろう。黒い巨体がこちらに飛びかかってきた。
大きな顎を開き、伝説の元になった真紅の牙で俺を噛み殺そうとしてくる。
「タクト……っ!!」
崖下で俺の戦いを見守っているリリムが叫び声をあげる。
(弟子の手前、無様な姿を見せるわけにはいかないな)
無銘によるスキルブースト。その感覚は【ダブルスラッシュ】で掴んだ。
リリムを巻き込まないように角度を調整して……。
「【パワースラッシュ】――――ッ!!!!」
会心の力を込めた全力大ぶりの一撃を【ブラッディファング】に放つ。
次の瞬間――
ザンッ!!!!!
無銘の一撃が真紅の牙を粉々に砕き、肉を切り、骨を断つ。
【ブラッディファング】は一刀の下、両断された。
衝撃波が暗雲を突き破り、闇に陰っていた山並みに温かな陽光が差し込んだ。
◇◇◇◇◇◇
「という感じで、鉱山にいたレジェンドモンスターを討伐してきた。これが証拠だ」
俺は【ブラッディファング】から剥いだ黒い毛皮、真紅の牙をギルドのカウンターに並べた。
伝説級のドロップ品を目にした受付嬢は「はわわっ」と声に出して驚く。
「えらいこっちゃです。プラチナ級の冒険者でさえ討伐が難しいレジェンドモンスターを倒すなんてっ」
リリム「ワシさま、見てるだけだった……。寄生プレイヤーとか言うな!」
ここでワシさまからの宣伝なのだ!
読者の評価がランキングに影響する。面白いと思ったら★をくれるとワシさま大喜び。作品のブクマも忘れずにな。がははは!