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第82話 残念勇者だけど、それでも

 【やり直し】。

 詳細はわからないが⋯⋯誰しも一度は夢にみた事があるんじゃないのか?


 もし、あの時からやり直せたら。

 もし、あの時別の選択をしていたら。


 俺にだって無いわけじゃない。

 他人から見たら、今の俺はかなり恵まれているかも知れない。

 力もそうだし、とりあえず今後、金の心配は不要だろう。


 それでも。

 今、目の前にいる美沙ちゃんとの関係に、別の今があるのなら。


 9:45⋯⋯9:44⋯⋯。


 クソ。

 このカウントダウンがまた嫌らしい。

 何かの漫画で読んだ事がある。

 人は減る事に、つまり損に耐えられないみたいな内容だった。

 ここで『やり直さない』を選択すれば、何を失うのかがわからない。

 もう二度と、こんなチャンスはないのかも、と思うと迷ってしまう。


 これは美沙ちゃんの事だけじゃない。

 高校時代じゃなく、もっと前に戻れば、香苗や鷹司との関係も変えられるのかも知れない。


 裏切った二人を、今さら許せるかどうかもわからないが、何か俺に原因があるなら⋯⋯。


「どうしたの?」


「あ、いや⋯⋯ちょっと変な事聞くけど」


「何?」


「もし、高校時代、その、俺が例えば⋯⋯」


 美沙ちゃんに告白してたら、どうなっていたのか聞いてみたい。

 鷹司ではなく、俺が先に彼女を好きになっていたとしたら⋯⋯。


 ──と。


「あ、ごめんなさい、淳司起きちゃった?」


 美沙ちゃんの視線を追って振り返ると、淳司君が起き上がっていた。

 彼はそのままトコトコと俺のほうに歩みより⋯⋯そのまま抱き付いてきた。


「あっちゃん? どうしたの」


「⋯⋯こわいゆめ、みちゃったの」


「怖い夢?」


「うん⋯⋯忠之にいちゃんが、どっかいっちゃうゆめ⋯⋯」


 よほど怖かったのか、淳司くんの身体は少し震えていた。


 ⋯⋯。

 何を迷ってたんだ? 俺。

 やり直すって事は、この子を殺す事だ。

 存在を消し去るって事だ。


 自分の都合で周りの人たちを、世界を自分好みに変えようなんて、なんて烏滸がましい考え方だ。

 そうだ、魔王が最期に残したアドバイスは──。


『弱者の想いを理解しろ』

『力に溺れるな』


 世界を変えようなんて、思い上がりも甚だしい。

 まさに力に溺れた者の所行そのものだろう。


 俺は、残念な勇者で。

 性格も終わっているけど。


 今、不安げに抱き付くこの子を、平気で消し去るような選択が出来るようになってしまったら。


 ──人として、終わってしまう。


「あっちゃん大丈夫だよ、俺はどこにも行かないから。安心して」


 俺が頭を撫でると、淳司くんは表情を一転させ、笑顔で「うん!」と頷いた。


「あっちゃん、ありがとう」


「えっ?」


 俺の礼の意味は伝わらなかった。

 だけど、この子のおかげで、俺はもう少し人でいられそうだ。

 彼を抱きかかえて膝に乗せ、話題を振る。


「あっちゃん、今日友だちといっぱい遊んだんだって?」


「うん! 新しくできたお友達なんだけど⋯⋯」


 そのまま、今日一日の出来事を聞いていた。

 よほど楽しかったのか、あっちゃんは興奮した様子で話し続ける。

 話題が一段落してから、美沙ちゃんが聞いてきた。


「そういえば、さっきの忠之くんの話って何?」


「⋯⋯いや、気のせい。なんでもないよ」


 取りあえず、焦る必要はない。

 彼女の受験が終わるまでは、今のままでいい。

 変に美沙ちゃんの心を乱すようなマネはよそう。


「そうなの?」


「うん」




 ──俺が返事をしたタイミングで、カウントダウンは0を告げた。





──────────────────


 【やり直し】をスルーした翌日、俺は特対を訪ねた。

 記憶の定着を確認してからニックは回収し、奴のマンションに転がしておいた。

 しばらくは特対にも色々な嫌疑がかかってしまうだろうが、まあそこは渋谷さんに任せよう。


 田辺先生は特対の居候をして貰っている。

 問題ある人物だが、特対も人手不足らしいので、まあ手元に置いて監視する感じ。


 【アイテムボックス】は中身を抜いてスキルは返却し、ついでに【異界語理解Ⅴ】を貸与してある。


 来訪者⋯⋯『バオー』だっけか?

 そっちの担当になるみたいだ。


 ま、今日の本題は別にある。


「鏡子」


「何? 忠之」


《ピコン》

《スキル【死に戻り】を譲渡しました》


「えっ? 何これ⋯⋯」


「鏡子が持っててくれ、いや、貰って欲しい。嫌なら返してくれてもいいけど」


「その、嫌とかは無いけど。こんな貴重なスキル⋯⋯いいの?」


「ああ。それで、一つお願いがある。コレは俺の知るかぎり、鏡子にしか頼めない」


「えっ、何⋯⋯?」


 我ながら、そんな事になってしまえば大変そうで、なのに役目を押し付ける事に抵抗がないとは言えないが。

 それでも、託せるのは彼女だけだ。


「もし、俺が⋯⋯人としての一線を超えてしまったら⋯⋯それを利用して、俺を倒して欲しいんだ」


 くどくどは説明しない。

 伝わるはずだ。

 俺が力に溺れ、暴走した場合。

 恐らくそれを止められるのは、彼女しかいないだろう。


 彼女は「はあっ」と溜め息をつきながら、俺をちょっと恨めしそうに見た。


「重大な役目ね」


「まあ、迷惑掛けないように頑張るよ」


「うん、でも倒すのは違うかな?」


「ん?」


 彼女の癖なのだろう。

 もしかしたら、弟によくやる仕草なのかもしれない。

 俺の胸に、あの時と同じように指を押し当てながら、鏡子は微笑んだ。


「今、この時点を【記録】しといたわ。忠之が道を外しそうになったら⋯⋯ここに戻って止めるわ、私が」


 笑顔の中にも、強い決意を感じる。

 不躾な頼みだったのに、受け入れてくれた事が嬉しい。


「⋯⋯そっか。ありがとう」


 ちょっとしんみりとした空気を破るように、鏡子はふざけ気味に言った。


「だーかーらー! 今日、ディナーをご馳走してくれない? それくらい要求しても良いわよね?」


「ああもちろん。あ、よかったら弟さんも呼ぶ?」


 俺の申し出に、彼女は少し考えてから返事をした。


「⋯⋯取りあえず、やめとく」


 なんだろう。

 遠慮しなくていいのに。





──────────────


 卒業して約二年ぶりに母校を訪ねた。

 今日は美沙ちゃんの合格発表だ。

 俺の時はネットで確認したが、せっかくなので見に来たってわけだ。


「あった! あったよ!」


「良かったね!」


「うん、忠之くんのおかげだよ!」


 自分の番号を発見した美沙ちゃんが喜んでいる。

 彼女の頑張りが実った瞬間。

 その場に立ち会えた事が嬉しい。


 そしてこの数ヶ月。

 俺の気持ちに向き合い続けた。


 







 わっかんねー。



 何だろう。

 好きは好き。

 でも、それが性欲由来じゃないか、って言われたらあんま否定できない。


 なんなら鏡子ちゃんも好き。

 でもそれも性欲由来じゃないか、って言われたらあんま否定できない。


 もっと言えば、女神も嫌いじゃない。

 あの時しなかったのヤッパリミスじゃないか? という気持ちは日に日に募る。


 ただ、冷静になれば何かこえーんだよな、裏がありそうで。

 変に仲良くなると、定期的に試練を与えてくるような気もする。


「忠之おにいちゃん、どうしたの?」


 淳司くんの声が、俺を現実に引き戻す。


「んー、何でも⋯⋯」


 答えようとした、その時。

 淳司くんの足元に、見慣れた模様が見えた。



 召喚用魔法陣だ!

 マズい。

 慌てて彼を抱きかかえたが──俺の視界は暗転した。





 東京編・完

次の展開までしばらくお休みを頂きます。


執筆のモチベーション維持のためにも

『面白い、続きが気になる!』

という方は、是非ともブックマークや評価で本作を応援していただければと思います!


評価は↓の★からできます!


毎話追って頂いている方々には繰り返しになりますが、どうぞよろしくお願いします。

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新作です!

『レンタル魔王』は本日も大好評貸出中~婚約破棄騒ぎで話題の皇家令嬢に『1日恋人』を依頼されたので、連れ戻そうと追いかけてくる婚約者や騎士を追っ払いつつデートする事になりました~

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小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
面白かったです さて、ハーレムできるような甲斐性はなさそうだけどどうするのかな?個人的には鏡ちゃんがかなり推しなんだけども あとは過去回想で結構異常者ってところ強調してたけどどうやって維持するのか、…
[良い点] あれ?真人間だ。主人公が行方不明に。 暗転したということは最悪の事態は…… [一言] 世界救済RTAだと試練にならないからもしや弱体化が・・・ どちらにしてもRTA始まりそう。
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