第59話 残念勇者は捜索を開始する
本日二話更新予定です(1/2)
朝、目を覚ました。
俺はソファーで一夜を過ごした。
ベッドにはフローラが寝ている。
美女と二人きりという状況に興奮しなかったと言ったら、それは嘘になるだろう。
だが、割れ神どもをあと五体倒せばあの身体が手に入るのだ、焦っても仕方ない。
よし、今日から捜索頑張るぞ!
さっさと童貞を捨てよう!
「ん⋯⋯」
俺が決意していると、フローラが寝返りをうつに合わせ、掛け布団がはらりとめくれた。
寝間着などなかったので、俺のTシャツを貸していたのだが──俺は見逃さなかった。
膨らみの上で主張している僅かな存在を。
「⋯⋯」
もうカメラはこりごりだ。
俺はしっかり目に焼き付けてから、トイレに向かう。
大でも、小でもなく『第三の目的』の為に。
しばらくトイレで過ごし、第三の目的を果たしてからソファーに戻る。
「なんか⋯⋯童貞捨てるとかどうでも良くなったな。⋯⋯その為に頑張る価値ある?」
「コラ。何悟りを開いてるのよ」
俺が目的を果たした間に、フローラは目覚めたようだ。
「あ、おはよう。やっぱりあれ無しでいい?」
「まあ強制はできないけど。夜にはまたやる気になるんじゃない?」
「そんな事無いと思うな、俺は完全に悟ってしまったんだ、童貞捨てるなんて事の為に頑張るなんてしなくていいって」
「ふーん、そう?」
「うん」
「あ、美沙が私の分も朝御飯用意してくれるって言ってたし、行きましょう?」
「うん。これで朝から三大欲求コンプリートだな」
「全く、他人が寝てる間に何やってんのよ⋯⋯って言いたい所だけど、自然の摂理だからまあ仕方ないわね」
おお、理解ある私ちゃんムーヴ。
助かるわぁ。
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仕事を終えた夕方。
あれ、おかしいな⋯⋯?
俺、とっても童貞捨てたいぞ⋯⋯?
よし、割れ神捜索頑張るぞ!
早速行動開始だ、渋谷さんへと電話する。
「はい、渋谷です」
「あ、渋谷さん。今から行って良いですか?」
「はい、お待ちしてます」
というか、今の時間定時過ぎてるよな。
警察官も大変だね。
俺は昨日案内された『局』の部屋へと【転移】した。
局の部屋には、渋谷さん、灘さん、依田さんの三人がいた。
「こんにちはー、あ、お土産あるんですよ」
俺はアイテムボックスから取り出したケーキを並べた。
渋谷さんが複雑そうな表情を浮かべる。
「⋯⋯昨日、私が奢った奴ですね」
「ですね! で、昨日頼んでた奴できました?」
「はい、用意してます」
渋谷さんからUSBメモリを渡される。
特対が把握している『帰還者』及び『来訪者』がリストアップされているらしい。
本当はもちろん表に出せない物だが、なんせ世界を滅ぼす『邪神』捜索だからね、特別待遇だ。
「ちょっとPC借りても?」
「どうぞ」
PCにUSBを挿し、ファイルを開く。
名簿をざっと数えると、十八人。
それぞれの氏名、年齢、性別、住所、職業などが記載されている。
「一年に一人二人って事ですが、意外といるもんですね」
「はい、ここ十年のリストなので」
なるほど。
事前に試したところ、こういった『名簿』には【個人情報開示】は使用できない。
あくまでも、本人が作成したアカウントや、本人自体に直接使用しないと効果がないのだ。
さて、これを個別に訪問するなりしなければならないか。
この中に割れ神がいるかどうかは不明だ。
だが、俺が『特対』と繋がっているように、能力者同士の繋がりがあるかも知れない。
──と。
「あれ、この四人は同じ高校?」
「はい、あとこの人物は同じ学校の教師です。彼らの帰還は一年前ですね」
「⋯⋯」
そういえば女神が言っていた。
『クラス転移』
『割れナーロッパ』でしかできない召喚。
となると、この中に割れ神が紛れている可能性は高いな。
よし、コイツ等から洗うか。
じゃあこの集団にどうやって接触するか、だな。
一つはこの場、つまり『特対』に呼び出してもらう事。
ただその場合当然警戒される。
この生徒や教師の中に『割れ神』が混ざっているとして、ここに呼び出して見つけられなかった場合、警戒が厳重となり、発見は困難になるだろう。
アニメやラノベなんかだと教師として赴任、みたいな感じだろうが、俺は今のホワイト職場を辞める気は一切ない。
なら、まずは彼らの情報をもっと集めなければならない。
「あのー、彼らとのやり取りをするためのメッセージアプリとかは無いですかね?」
「アプリでのやり取りってのは無いですね」
ふむ、そう都合よく行かないか。
「例えばなんですが⋯⋯お三方の中から、この学校に教師として赴任して頂く、みたいなのは⋯⋯?」
「うーん、我々も通常業務がありますので⋯⋯もちろん、世界の危機ともなればそんな事は言ってられない、というのも百も承知ではありますが」
渋谷さんが申し訳なさそうに言ってくる。
「いえいえ、あくまでもこの中にいるってのは現時点では俺の予想なので」
しかし、こう考えてみると意外と難しいな。
「わかりました、ではとりあえず俺が調べますので⋯⋯渋谷さんって、この教師に会った事あります?」
「はい、最初に接触したのは私なので、軽く面識はあります」
「わかりました、ありがとうございます」
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まずは教師である田辺龍一の家、そこから1km離れた場所に転移した。
場所を離したのは、俺と同じスキルを持っているか警戒するためだ。
【結界作成】。
俺はこのスキルを使用し、普段自宅の約500m圏内と、仕事場の500m圏内に【結界】を作成している。
結界は、範囲内に『特定の条件』を設定する事で、その存在を感知できるスキル。
異世界だと、人間と敵対していた『魔族』が結界内に侵入すると、結界を張った術者にその存在がバレる、という仕組みだ。
俺が普段張っている結界の条件は『スキル持ち』。
スキル所有者が結界内に入ると、その存在がわかる。
これを利用して、灘さんや渋谷さんの接近を感知したのだ。
まあ念のためだったけどね、まさか本当に俺以外に『スキル持ち』がいるとは思ってなかったが。
対抗手段は【結界感知】、【結界破壊】、またはそれに類するアイテム、となる。
念のため【結界感知】を発動しながら、目的地である田辺龍一の家へと移動する。
どうやら取り越し苦労だったようで、結界等もなく、田辺が住む教員用の社宅へと到着した。
彼らの学園である『景草高校』は有名私立で、社宅は分譲マンションの借り上げみたいだ。
入り口はオートロック。
ちょうど中から男性が出て行ったが、田辺とは別人だった。
男が角を曲がった所で、【幻視の指輪】で姿を拝借し、【万能鍵】で中に入る。
監視カメラ対策だ。
エレベーターで、田辺の部屋がある三階まで移動する。
田辺の部屋を【索敵】で確認したが、まだ留守のようだった。
部屋は廊下の真ん中だったため、通り過ぎてから反対側で【隠蔽】を使用した。
そのまま、田辺の帰宅を待つ。
【帰還】スキルで部屋に直接転移する可能性もあるので、【索敵】はこの間も併用だ。
しばらくして、田辺はスキルを使うことなく、普通に戻ってきた。
こちらに気付いている様子はないが、とぼけている可能性もある。
まあどちらにせよ、視認できれば関係ない。
【個人情報開示】。
本名:田辺龍一【タップで画像表示】
性別:男
年齢:34歳【タップで生年月日表示】
国籍:日本
身長:176cm
体重:64kg【タップでスリーサイズ表示】
職業:教師【タップで勤務先詳細】
住所:東京都目黒区鷹番×丁目××-× ブリリアント鷹番30×号室
電話番号:080-××××-××××
家族構成:独身
特記事項:元スキル所有者
なんだ? この特記事項。
元スキル所有者⋯⋯?
まあとにかく名前は一致しているし、割れ神ではなさそうだな⋯⋯。
田辺龍一が部屋に入ったのを確認してから、一度マンションを出る。
監視カメラの範囲外に出て、【幻視の指輪】で渋谷さんへと姿を変えてから、今度はインターホンを押した。
「はい」
「田辺さん、『特対』の渋谷です。ちょっと近くを通りかかったもので」
「ああ、ご無沙汰してます。それで、何か⋯⋯?」
「ちょっと直接お伝えしたい事がありまして。開けていただいても?」
「あ、はい。どうぞ」
オートロックを解除して貰い、部屋を訪ねる。
玄関先での対応を覚悟したが、部屋に上げてくれた。
そこそこ立派なダイニングセットがあったので、対面に座る。
「立派なダイニングですね」
「ああ、このマンションが家具付きで⋯⋯それで、伝えたい事っていうのは⋯⋯?」
「はい、伝えたい事というか、聞き取り調査をしているのですが⋯⋯田辺さん、我々に隠し事がありませんか?」
カマをかけてみる。
彼の個人情報には、【元スキル持ち】と書かれていた。
渋谷さんは以前、帰還者は厚遇すると言っていたが、それはスキルを持っていない場合にも当てはまるのか?
おそらく違うだろう。
俺のカマ掛けに、田辺さんは顔色を変えた。
「⋯⋯スミマセン! 報告しようかどうか迷っていたのですが」
「あ、いえ。事情もあるでしょうし⋯⋯今教えて頂ければ」
田辺さんはしばらく言い出し方を考えていたようだが、やがて口を開いた。
「⋯⋯どうやら生徒の中に、【スキルを奪う】人間が混ざってます」




