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第43話 バッタの生涯(加藤鷹司の末路)③(7/27更新分②)

「鷹ちゃん、二人で会うなんて久しぶりだね。話したい事って何?」


 香苗をあまり人がいない喫茶店に呼び出した。

 忠之抜きで、香苗と二人で会うのはいつぶりだろう。

 もしかしたら、頬を叩かれたあの日以来かも知れない。


 しばらくは近況などを話していたが⋯⋯徐々に昔の思い出へと話題をシフトした。

 香苗が二人の関係を意識しなおしたであろう頃、鷹司は彼女の手を軽く掴んだ。


「ちょ、ちょっと鷹ちゃん⋯⋯?」


「ごめん、俺、気付いたんだ⋯⋯今でもお前が好きだって。俺が好きなのは、やっぱりお前なんだって」


「えっ、ちょっと⋯⋯今更何言ってるの?」


「あの時は、忠之に悪いと思ったんだ。それに、お前は結局告白を断ると⋯⋯俺を選んでくれると思って⋯⋯ハッキリさせるのが怖かったんだ、ゴメン」


「本当、今更過ぎるよ、そんなの⋯⋯」


「わかってる。お前を忘れようと美沙と結婚したけど、ダメなんだ⋯⋯どうしても」


「でも⋯⋯」


 この反応、押せばイケる。

 鷹司は内心でほくそ笑んだ。



 それからは美沙の目を盗み、香苗との逢瀬を重ねた。


 会社では『初恋を実らせ、令嬢を射止めた男』として扱われ、プライベートでは不倫に勤しむ。

 そんな二重生活の中、水野祥子から電話があった。


「ちょっとアンタ、香苗と不倫してるって⋯⋯どういう事?」


 ちっ、香苗の奴。

 面倒くせえ女に言いやがって。


 何とか取り繕うために、言い訳した。

 元々香苗が好きだったが、忠之を思い身を引いた事。

 香苗を忘れるために、美沙と付き合った事。


 水野との電話では、見栄を張るために考えていた嘘が、次々と口から出て行った。


「でも、あのまま付き合うとは思わなかったわぁ、アンタたち」


「本当さ、真面目ぶった女と一回やりたかっただけだっつうのに、妊娠なんてしやがってよー」


「うわ、その言い方ひどーい」


「だいたいアイツとやりたかったのも、俺じゃなくて忠之に惚れてるってのが、なんかムカついてただけなのにさぁ。おかしいじゃん? そんなの」


「いや、そこは別におかしくはない(笑)。だってアンタ最低男じゃん。ちょっとくらいならいいけど、東村くんにバレないうちに、他の女探しときなって。美沙とは別れないんでしょ?」


「まあ、アイツの実家太いし。先々アイツの実家の会社俺が継げばさ、女なんていくらでも選べるっしょ」


「うわー、マジ最低ね。まあ、香苗も身体の相性いいとか言ってたし。美沙は真面目そうだから、ずっと目つぶって固まってそう(笑)」


「ほんと、マグロみたいなヤツでさ。勉強できるのか知らねーけど、もう大学行くこともないんだから、夜も勉強して欲しいわ」


「まあ、どっちにしてもほどほどにしときなよ?」


「わかってるって」



 水野から忠告をうけても、結局香苗と会うのは止めなかった。



 そして、香苗は二度目の妊娠。

 さすがに潮時かも知れない。

 相変わらず美沙は⋯⋯いや、以前よりも態度がやや硬化している気もするが⋯⋯。


 取りあえず、香苗の事は忠之に任せ、もっと美沙と向き合おう、そう思っていた。


 そして計画を実行する日。

 梁島家の前で久しぶりにあった忠之は、何か違和感を感じた。


 ただ痩せたとか、そんな事じゃなく。

 昔から知っているからこそ、それまでの忠之とは──別人のように思えた。


「本当二人、仲ええねぇ」


 香苗の言葉に、確認せずにはいられなかった。


「おー、そりゃ親友やけぇ。のう、忠之」


 忠之は間髪入れずに、答えてくれた。


「おお、親友だよ」


 その答えに安心し、車を出発させた。



 夜の飲み会で、香苗の態度は少しシャクに障った。

 香苗と忠之は結婚したとしても、あくまでもそれは『自分の女』が忠之と結婚して欲しいのであって、渡すつもりはない。


 誰がお前の男なのか、もう一度教えてやらなければいけないだろう、そんな気持ちだった。



 数ヶ月後、香苗と忠之は入籍し、出産前に式を挙げるとの連絡。

 良かった、と思った。


 あれからも香苗とは何度かあっているが、彼女が東京に行ってしまえば、さすがにその機会も減るだろう。


 その前に、香苗を自分の女だと『教育』しておかなければならない。

 二人が会う頻度は、むしろ多くなった。


 香苗によれば、忠之は相当な資産を手に入れたらしい。

 なら、香苗を利用して、それを貢がせるなんてのも良いかもしれない。


 忠之に対しては、歪んだ感情を向けていた。


 美沙の気持ちがこちらに向かないのは、お前のせいだ。

 そうだ、俺は何も悪くない。

 お前は俺から美沙を奪った罰として、そうとは知らず俺の子供を育てる義務がある。

 美沙もさすがに、お前が結婚すれば諦めもつくだろう。


 それさえしてくれていれば、俺とお前は、ずっと友達でいられる⋯⋯。




 忠之と香苗、二人の結婚式の前日、何故かやたらと首が気になった。

 それとともに、ここ最近、二回ほど記憶を失った日があるのを思い出す。


 首に痛みを感じ、車で一日中寝てしまった。

 こんな事が二回もあった。

 会社の人は変な病気なんじゃないかと心配してくれたが、むしろ次の日などは調子がいい。


 例えるなら、細胞が入れ替わったような──それこそ、生まれ変わったように、体力や気力が充実しているのだ。


「何なんだろうな、あれ⋯⋯」


 ただ、その違和感に対しての答えは出なかった。









 そして、結婚式。

 自身と香苗が、悪巧みを話している動画が流れ、焦っているうちに事態は次々と進行していった。


 何が起きているのかを整理する間もなく、気が付けば美沙から三行半が突き付けられていた。


 何故、こんな事に⋯⋯。

 少し皆からは距離を離し、打ちひしがれていると、ふと視界に影が差した。


 同時に、声を掛けられる。


「鷹司」


 顔を見上げると、そこには──あの笑顔があった。

 それを見た瞬間、全て理解した。


 あの動画を用意したのも。

 美沙に協力させたのも。


 コイツだ、コイツの仕業だ。

 あの動画は飲み会の日、コイツが撮影したんだ。

 もう、とっくにバレていたんだ。


 そして──これで終わるハズがない。

 

 鷹司の知る忠之なら、まだ何かやってくる。

 いや、もう何かやっているかも知れない。


 この男は、優しげで、人当たりが良く、争いを好まないが──その分キレたら何をするかわからない。


 謝罪しなければ──。

 

「美沙の奴さぁ、俺のデカいの知っちゃったら、もうお前の粗○ンじゃ満足できねぇってよ? 残念だったなぁ? このお粗末包茎雑魚チ○ポくん♪ 今回の事もよ、ベッドの上で腰をガン振りしながら絶叫してたぜぇ? 『手伝うに決まってるでしょ!? コレから私が離れられないって知ってるくせに! イジワル!』だってよ! はははははっ!」



 ああ、そうか。

 結局──そういう事かよ!


 忠之に煽られた瞬間、謝罪の意識など吹き飛んだ。

 衝動的に立ち上がり、叫んだ。


「忠之ィイイイイイッ! テメェエエエエッ! 結婚してからもずっと、おかしいと思ってたんだ、結局まだ、美沙は、美沙はやっぱり⋯⋯クッソォオオオオッ!」


 何より、コイツはここで止めなければ。

 そんな意識がどこかにあった。

 これ以上、コイツに好き勝手やらせると、自分は破滅してしまう。


 そして拳が届いた瞬間。

 久しぶりに振るった拳に、伝わってくる確かな手応えに反して──。


 ──忠之は笑っていた。


 顔面に拳を受けながら、それを意に介す様子もなく、相変わらずあの笑みを浮かべていた。


 次の瞬間、身体が引っ張られると同時に、股間に激痛が走った。


「ああああああっ! 痛ぇ、痛ぇよぉおおおおおっ!」

 

 何とかしなければならないのに、痛みの事しか考えられない。

 しばらくして、救急車に運ばれる。


 あまりの痛みにより、鷹司は車内で気絶してしまった。


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新作です!

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― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ面白い! 主人公が頭いいのに阿呆だし、話のテンションもちょっとシリアスだったり最高にはっちゃけてたりするし、バランスが最高です。 私は美沙さん好きだから、頑張れ勇者くん!
[一言] 美沙は鷹司にレイプされて親父たちの世間体のために無理矢理結婚までさせられて、最初からあんな男、好きじゃなかった、って伝えた方がいいんじゃないのか?と思うけど、2人より息子くんの方が先に両片思…
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