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勇者魔王短編作品

勇者と魔王が死闘を繰り広げますが、ご安心下さい。これは健康食品のCMです

掲載日:2023/04/13

 薄暗い魔王城の最深部にて、勇者と魔王が向かい合う。


 赤髪の勇者キナリスは、伝説の武器“勇者の剣”を握り締める。

 対する頭に角を生やす魔王グオンは闇の魔力で作り出した“暗黒の剣”を得物としている。


「行くぞ、魔王ッ!」


 キナリスの鋭い踏み込みから、戦いが幕を開ける。

 多くの魔物を討ち取ったキナリスの斬撃は柔軟かつ変幻自在で、グオンを追い詰めていく。

 やはり剣の勝負ではキナリスに分がある。


「やるではないか……」グオンはキナリスを褒め称える。「だが!」


 グオンの両目が光ったかと思うと、床から触手のようなものが伸びてきた。


「な、なんだこれは!?」


「魔王城の最深部はワシの体の一部のようなものでな……このように自在に操れるのだよ!」


 キナリスの足は触手に捕われてしまった。


「く、くそっ……!」


「フハハ、死ねい! 勇者よ!」


 右手の暗黒の剣で、グオンはキナリスの胸を突き刺そうとする。

 しかし――


「そうはいかない!」


 キナリスは瞬時に足元の触手を切り払うと、グオンを睨みつける。

 こうもあっさり立て直されるとは思っていなかったグオンとしては不覚だった。


「し、しまっ――」


「イナズマスラッシュ!!!」


 雷光の力を借りた一閃が、グオンの胸に炸裂する。


「ぐ、は……!」


「どう……だ!?」キナリスとしても全力を費やした一撃だった。


 しかし、倒し切れなかった。

 グオンはニヤリと笑うと、口から緑色の液体を吐き出した。

 まともに浴びてしまい、キナリスはもがき苦しむ。


「ぐあああっ……!」


「フハハハ、ワシの溶解液の味はどうだ!? 体ごととろけるようだろう!」


「ぐ、ぐぐっ……!」


 キナリスは膝から崩れ落ちる。


「さて、あとはトドメを刺すだけだが……まだ力を残していてはかなわんからな。安全策を取らせてもらおう」


 グオンは暗黒の剣を放り投げる。

 すると剣は空中でバラバラになり、無数の黒い針と化した。


「これを全身に突き刺してやる! ハリネズミのようになって死ね、勇者!」


 まもなく針は発射されるだろう。

 ここまでか――

 皆の期待に応えられないのか――

 俺には世界を救うことはできないのか――

 無念の気持ちで目をつぶるキナリス。


 いや待て――俺にはまだあれがある!


 キナリスはポケットから小瓶を取り出した。中には青い液体が入っている。


「な、なんだそれは!?」驚くグオン。


「これは世界樹になる青い果実を砕いて作った……『ブルー汁』だ!」


「ブルー汁!?」


 キナリスが小瓶の中身を飲み干すと、みるみるうちに傷が回復し、毒も癒される。


「な、なんだとおおお!?」


「貧血、動悸、めまい……。体に不調を感じたら……これを一本飲んでみよう! メディカ製薬ギルドのブルー汁!」


 改めて商品名を告げると、キナリスはグオンに斬りかかる。

 動揺していたグオンはなすすべなく斬られてしまう。


「ぐはぁぁぁぁぁ……!」


 キナリスの会心の一撃でついにグオンは力尽きた。

 このまま息絶えてしまうのか――

 ワシには所詮世界征服など無理だったのか――

 魔族を救うことはできないのか――

 歯噛みするグオン。


 いや待て――ワシにはまだあれがある!


 グオンは懐から一本のボトルを取り出した。


「お前もアイテムを!?」驚くキナリス。


「ワシにはこれがあった……発情期のコカトリスの全身からにじみ出る汗を抽出して生み出された『コカトリエキス』が!」


「コカトリエキス!?」


 グオンがボトルの中身を飲み干すと、瀕死だったはずの体に活力がみなぎっていく。


「そんな……!」


「あとひと踏ん張りしたいけど、体が言うことをきかない……そんな時にはこれ! メディカ製薬ギルドのコカトリエキス!」


 改めて商品名を告げると、グオンは立ち上がった。

 ここから第二ラウンドが始まると思われたが――


「なぁ、魔王。ブルー汁を飲んで健康になったら、戦うのがバカらしくなってしまった!」


「ワシもだ……健全な肉体は健全な考えをもたらす。コカトリエキスのおかげで争うことの無意味さに気づけた!」


 二人から戦意が消え、たちまち笑顔になる。


「これからは……仲良くしよう!」


「ああ、そうしよう……!」


 涙を流すキナリスとグオン。二人は声を揃えて、こう叫んだ。


「これもメディカ製薬ギルドのおかげだ! ありがとう、メディカ製薬ギルド! これからもみんなの健康を守ってくれ!」


 一瞬の沈黙。


「はいオッケー! お疲れ様でしたー!」


 メディカ製薬ギルドのスタッフが二人に歩み寄る。


「いやー、いい映像が撮れましたよ。これを全国の水晶で放映すれば、ギルドの評判が上がること間違いなしです!」


「そうですか、よかった」とキナリス。


「一発で上手くいって何よりだ」グオンも胸をなで下ろす。


 今回撮ったブルー汁、コカトリエキス、そしてメディカ製薬ギルドのCMは近々全国放送されることとなる。

 いい出来のCMとなったので、商品の売り上げやギルドの好感度上昇に一役買うことは間違いないだろう。


 スタッフらが解散し、キナリスとグオンは二人きりとなる。


「最近、CMに出てくれって依頼多いなぁ」とキナリス。


「まあワシらなら知名度抜群だからな。それにワシらとしてもこの平和な世界で食っていかねばならん」


「そうだな」


 人と魔族が和睦を結んでしばらく経ち、勇者と魔王が何もせずとも英雄のように崇められる時代は終わりを告げた。

 生きていくためには、働いて金を稼がねばならない。

 そのために最も都合のいい方法は、自分たちの知名度を生かすことであった。

 すなわち、タレント活動である。


 キナリスとグオンのスケジュール帳は明日以降も予定がぎっしり詰まっており、しばらくの間休むことはできなさそうだ。


「せっかくだ……ワシらもCM出演料のおまけとしてもらった健康食品を飲んで、英気を養おうではないか」


「そうだな。この平和な世界でお互い頑張ろう!」


 明日もまたCM撮影が控えている。

 忙しい日々に備え、キナリスはブルー汁を、グオンはコカトリエキスをぐいっと飲み干した。






おわり

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― 新着の感想 ―
平和だ…………。 それ以外何ものでもない。 ただなあ………ブルー汁はいいけどコカトリエキスはあまり飲みたいとは思えないよ。 飲んだらバッドステータスてんこ盛りを喰らいそう。
[良い点] 「キナリスはブルー汁を、グオンはコカトリエキスをぐいっと飲み干した」 CM出演した芸能人は人目のある場所で競合他社の商品を使ってはいけないというルールがある話を思い出しました。 [一言]…
[良い点] 平和。 [一言] 『最終決戦』のあとも人生は続きますからねぇ。良かった、良かった。めでたし!
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