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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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最終話 女子生徒2

法助は箱柳を追う。屋上にたどり着いた。雨は止んでいるものの、まだ空は暗く曇っている。


法助

「はぁ、はぁ、はぁ」


箱柳

「どうしたの? 息切らしてさ」


法助

「だって、それ…」


箱柳

「これ? これが何?」


法助

「はぁ、はぁ、それをどうするつもり…?」


箱柳

「教室で見つけたんだ。なんだろーなーって」


法助

「こっちに寄越すんだ」


箱柳

「…」


箱柳はじっと法助を見据えた後、薬の蓋を開けた。


箱柳

「…法助。私さ。きっと【女子生徒2】なんだよね」


法助

「女子生徒2…?」


箱柳

「そう。誰でもいい脇役。女子生徒2。適当に話合わせて相槌うって、そうだね、はい、また明日って。それだけの存在」


法助

「何を言ってるんだ? 箱柳は箱柳だろ…?」


箱柳

「苗生って…呼んでくれないんだね」


法助

「…」


法助が箱柳に躙り寄る。


箱柳

「近付かないで」


箱柳が中の物体を取り出す。


法助

「やめ、やめるんだ!」


箱柳

「ねぇ法助。私生徒会長に駆け引きをしろって持ち掛けられたんだ。法助の両親は教師だから、それをダシに自分との交際を持ちかけろって」


法助

「生徒会長はもう終わりだ…。そんなことをしても無意味だよ」


箱柳

「元からするつもりもなかったよ。ナンセンスだし? そうやって手に入れられるものじゃないと思ってるし」


雲母がやってくる。


雲母

「…箱柳さん!」


雲母は箱柳の置かれている状況を理解した。あの薬を持っている。【自殺を仄めかしている。】


箱柳

「見てたよ雲母さん。法助と教室でイチャイチャしてたね。羨ましかったなぁ…。法助、雲母さんの場所に私がいた未来は、あったのかなぁ」


法助

「分からない…。だが箱柳が今してることは間違っている。それだけはわかる」


箱柳

「苗生って、言えよ」


箱柳の表情に怒りが込み上げくる。


箱柳

「苗生って言えよっ!」


法助

「…!」


箱柳

「法助、苗生って、呼んでよ…」


涙声で引き絞るようにそう口にする。


法助

「…」


法助は呼べずにいた。足が震える。どうすればいい。どうすれば箱柳を救えるのか。どうすれば箱柳を思いとどまらせることが出来るのか。


箱柳

「法助さ…。小さい頃、私の髪を褒めてくれたよね…?」


法助

「…え?」


箱柳

「あんた覚えてないかもしれないけど、パパが褒めて撫でてくれる髪を、あんたが褒めてくれたの。その時から少しずつ法助の事を意識し始めた。それが始まり」


法助

「…ごめん…。覚えてない」


箱柳

「そうだよね。ほんの些細なことなんだもん。覚えてないのは無理もないよ。私、あんたに嫌がらせ沢山したし、その時素っ気ない態度取ってたし」


何かを言うより、まずは話を全て聞いて落ち着かせないといけない。そう思えば法助は次の言葉を待つ。雲母が箱柳に詰め寄ろうとする。しかし法助は頭を振ってそれを阻止する。


箱柳

「それから頭の片隅にはずっとあんたがいた。虐められてるあんたを嫌いになれない私が確かに存在していたの。あんたを虐めれば虐めるだけ私の心は歪になっていった。好きな相手に意地悪をする。自分に素直になれずその気持ちを抑え込んであんな風に辛く当たってしまっていたんだ」


法助

「いい、大丈夫だよ箱柳。僕は君を恨んでなんていない。君のことはもう許している。だから思い詰めないでくれ」


箱柳

「はは、思い詰めるだなんて。それに私あんたに許されようなんて思ってなかった」


雲母

「勝手だよ…。みんな勝手過ぎるよ」


箱柳

「私はね、法助。あんたに復讐されたかったの。私を恨んで、憎んで、心の底から嫌われて、ね? そこで弱みを見せた私をめちゃくちゃに、乱暴に仕返しする。そう望んでいたんだ」


法助

「…そんなことは、出来ない…!」


そんな余裕はない。自分の事で精一杯だった。やめてくれ、それ以上僕を追い詰めないでくれ。


箱柳

「ねぇ法助。あんたの好きなところ、もう1つ言ってあげる」


法助

「…」


箱柳

「あんた、とっても慈悲深いじゃない? 昔、破られた絵を憂いて涙を流してたそうじゃない。教室でもそう。本を侮辱されて涙を流していた。あんたが、他人を想って流す涙。あれはこの世の中で嘘偽りのない本当のものだと思った。綺麗な、美しい涙…。雲母さんも分かるんじゃない? 法助の涙には愛が溢れている」


雲母

「…」


そうだ。法助のことを好きになったのはあの涙を見たからだ。泣いている法助自身の事を愛おしく心惹かれてしまった。あの涙は私の涙。そう思えば法助に強く強く心惹かれてしまった。


箱柳

「…私にも流して欲しいなぁって…。私の為に法助に涙を流して欲しいなぁって。法助、あなたの愛を私にちょうだい」


法助

「…む、無理だよ。そんな泣けっこない」


箱柳

「ま、そうだよね。じゃあ選んでよ」


法助

「え、選ぶ…?」


箱柳

「私が雲母さん。いえ、雲母と私、どっちが好きなのか。どっちと付き合うのか」


法助

「…そんな方法で君を選んだとして、君は満足なのか…? また、また君は間違えるのか箱柳…!」


箱柳

「間違いじゃないよ。私の気持ちを法助はわかってくれてない。この気持ちは間違いじゃない。こんなにも好きなのに法助はちっとも私の気持ちに気付いてくれていない…。ならこんな世界いらない。こんな灰色な世界いらない…。法助のいない世界なんて私にはいらない…。法助、私の事を愛して。私の事だけを想って。起きてる時も、寝ている時も、今日も、明日もずっとその先も…」


箱柳の目から涙がこぼれる。灰色の世界、色の無い世界、価値のない世界…。彼女は、僕なのか? 彼女は、雲母に救われなかった僕ではないか。


法助

「…箱柳、やめてくれ、頼む…。僕を、殺さないでくれ…」


法助の胸がぎゅっと締め付けられる。


法助

「君は、僕なんだ…。雲母を愛さなかった、僕なんだ…。だから、思いとどまってくれ、僕を、僕に気付いてあげてくれ…」


法助は少しずつ箱柳に近づいて行く。


箱柳

「…」


法助

「…僕は、ちゃんと君の中にいるんだ…。うう、僕を、そんなに虐めないでくれ、頼む、うう、ああ…」


法助は雲母が琥珀と歩いていた時のことを思い出す。心がひび割れ、世界中が自分の【血】で溢れた。強烈な痛みにより愛に気付かされた。彼女が、箱柳が僕を殺そうとしている。自分の中にいる僕に気付かず、僕を摘んでしまおうとしている。やめてくれ、やめてくれ、頼む、思いとどまってくれ。


法助

「…ああ、あ、あ、箱柳、僕が悪かった…。僕が君に気づかなかった、ぐず、僕を許してくれ…。ごめん、ごめんよ…」


法助の目から涙が溢れてくる。頬を濡らせばしとしとと地面に涙は零れ落ちる。


法助

「…だから、捨てないでくれ…。僕を捨てないでくれ…。君はそこにいるんだ。僕はそこにいるんだ…」


箱柳

「…」


箱柳は後退りする。


箱柳

「…法助。ありがとう。私の為に涙を流してくれて…。これで少しだけ勇気が持てた」


箱柳は優しく微笑む。


法助

「…え?」


箱柳

「…じゃあね今までの私。また明日…」











【握られていたものを自分の口の中に入れる。】


法助

「苗生っ!!!!!」


法助は駆け寄る。苗生を抱き寄せ唇を奪った。吸い出さねば、救い出さねば、僕を、苗生を、絶対に死なせたりはしない。僕を助ける。苗生を助ける。絶対に行かせたりはしない。逃がさない。そっちには行かさない。


苗生

「…」


ぎゅっと抱き締められる。抱擁されたまま世界の時が止まる。


【甘い。】


法助

「…?」


苗生から奪ったものを口の中でころっと転がす。


【飴だ。りんご味の飴。】


苗生

「…ふふ、美味しい?」


苗生は法助の涙を掬えば自分の口に運んだ。


苗生

「これは私の涙。私の飴をあげる代わりに、その涙を貰うね」


苗生は法助にプラスチックの容器を渡す。中には飴が沢山入っている。苗生は手を後ろに組み、嬉しそうに屋上の入口に進んでいく。


苗生

「私、法助の事諦めないから。雲母さんが今優勢だけど、絶対に奪い取ってみせる。だって法助は苗生のものなんだから。じゃあね雲母さん、法助。それまでどうぞお幸せに」


雲母は唖然としている。空いた口が塞がらないといった状態だ。


苗生

「私に【愛をくれてありがとう。】またね!」


苗生はそう言って屋上から校舎へ戻っていく。


法助

「…」


法助の頬が紅潮する。


雲母

「…ほ、法助っ!」


雲母が慌てて駆け寄る。


雲母

「キスしてっ!」


自分の口に指を当てる。


法助

「な、なんで!?」


雲母

「いいからキスしてっ!」


法助

「え、今はちょっと…。苗生、と間接キスになっちゃうよ…?」


雲母

「…うう、うーん、そうだけど…。そうなんだけど…」


雲母は凄くモヤモヤしている。


雲母

「…そう言えば法助とキスした後に琥珀兄さんが私にキスしたよね…?」


法助

「ああ、そうだったね」


雲母

「あれって法助と間接キスになるんじゃない…?」


法助

「それ、目覚めた本人には言わないでおこうか…」


2人も屋上から校舎へ戻る。雲から晴れ間が見え、夕方の空に綺麗な虹が掛かった。その美しいその虹は、太陽に2つの輪を作っており世界に確かな彩りをもたらしている。僕達の命はまだ続いていく。辛いことも続くかもしれない。だけど、この愛があればどこまでも行ける気がする。どんなことだって出来る気がする。そう思えば、絶望した世界に、確かな美しさを知れた気がした。

ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございました。心から愛しています。まだエピローグと後書きそのものを次話として書くつもりです。もうしばらく御付き合いください。

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