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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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第70話

雲母と法助はワルツを踊っている。1、2、3とテンポを刻めば雲母がリードしながら法助は雲母の歩みに合わせて移動する。


雲母

「1…2…3、1…2…3」


法助

「とと…」


法助は雲母の足を踏まないように気をつける。机を華麗に避ければあの日の教室での事を法助は思い出していた。一頻り踊れば休憩する。法助は汗をかいている。雲母がハンカチを取り出せば汗を拭った。


法助

「あ、ありがとう」


雲母

「私も汗かいちゃった」


雲母はそのまま自分の汗をハンカチで拭いた。法助は少し驚いてその様子を見る。


雲母

「どうしたの? 私、別に気にしないよ?」


法助

「ああ、あはは、そうだね…。なんだか現実味がなくってさ。女の子と、こう」


雲母

「今まで一緒にいることがなかった…?」


法助

「…そうだね。僕、きっとみんなに嫌われて除け者にされたまま大人になって、孤独に暮らすんだろうなって。こうやって女の子と一緒にお話することも無くずっとそのままで…」


少ししゅんとした。


雲母

「…法助。このハンカチ、いつか返して」


雲母は法助にハンカチを渡した。


法助

「え? どういうこと? 洗って返すけど…」


雲母

「…違うよ。ずっと持ってて。それでいつか必ず私に返すの。約束。それまで無くさずに持ってて」


雲母は照れくさそうにハンカチを押し付けた。


法助

「…」


雲母

「そのハンカチ。私だと思って大事にして…」


法助はゆっくり頷いた。


法助

「うん…。そうするよ。このハンカチを見る度に雲母を想う」


法助はハンカチを折り畳めばポケットに入れた。


法助

「…本当に僕と雲母だけの教室になっちゃったね」


雲母

「…そうだね」


法助

「あの時雲母はみんな追い出して、僕と雲母だけの教室にしようって言ってたね…。少し驚いちゃったよ」


横目でチラリと雲母を見る。


雲母

「…屋上で箱柳さんと話したあの後、あの日の事を思い出したんだ。法助が私に告白した日。それで、私と法助だけになったらいいなって。私が法助に勉強を教えて、一緒にお弁当食べて、教室を掃除して、それで毎日一緒に帰ろうって」


法助

「…うん」


雲母

「箱柳さんに言われたことが心に突き刺さって、法助を自分のものにしたいと強く強く思うようになってたの。法助は私のことが好きなのに、法助は私と一緒にいたいはずなのに、法助は私のものなのに…って」


法助

「…そうだったんだ…」


あの出来事がなければ、或いは雲母との距離はここまで縮まらなかったかもしれない。箱柳の行った行為が、2人の愛をさらに深めたと思えば眉を下げる。雲母は法助の手を握った。


雲母

「それであんな出来もしないことを言っちゃったの。それに、もっと恥ずかしいこと、言ってた気もする…」


雲母は頬を紅らめた。


法助

「…雲母は、一心不乱になって止まらなくなることがあるんだね」


法助は雲母の手を握り返す。


法助

「雲母がね、もしまたああやって止まらなくなって、間違えそうになったり、足を踏み外しそうになったら…」


手をそっと持ち上げる。


雲母

「…え?」


法助

「また僕がリードしてあげるからね」


雲母の手の甲に優しくキスをした。


雲母

「…えへへ。ありがとう」


雨雲が立ち込め、外は徐々に暗くなっていく。


法助

「…僕ね。ずっと思ってたことがあったんだ」


雲母

「…うん? なぁに?」


法助

「僕がこんなんじゃなかったら、雲母を取り巻く環境がもし違ってたら、僕達は愛し合わなかったのかもしれないって…。僕は1人で孤独で、きみはほかの誰かと友達になって、そして一緒になって、幸せになって…」


法助は雲母の手をぎゅっと握り締める。


雲母

「…法助、あのね」


法助

「…うん?」


雲母

「私、法助と一緒になれたのは運命だと思ってるの」


法助

「運命…?」


雲母

「そう。物事の1つ1つのピースが違えば私たちは一緒になれなかった。だけどそれは偶然じゃなくって、予め準備されていた事なんだって。だからね法助」


雲母は法助を引き起こす。


雲母

「私たちは何千何万、何億回生まれ変わったとしても、こうして愛し合う運命だったの。何度も何度も輪廻を重ねても必ず法助と巡り会う。こうして愛し合う運命。きっとそうだよ。そう思う。だから安心して? 私たちは巡り会うべくして巡り会えたんだから」


雲母は法助を抱き寄せる。


法助

「…うう…あぅ、ごめんね雲母…。僕、情けなかったね…。いつも不安だったんだ。僕は雲母とは釣り合わない。僕は雲母に相応しくない。そう思って身を引こうとしてた。でもそれは卑怯な事だったんだ。雲母を愛する自分の心から目を背ける行為だったんだ…。ごめん、本当にごめんよ雲母…」


法助の目からしとしとと涙が流れる。


雲母

「…いいんだよ法助…。今まで辛かったね。寂しかったね…。でもね、それは私も一緒だったの。けれど今は法助がいるから辛くない、寂しくない。法助と一緒ならどんなことだって乗り越えられる気がする。私はいつでも、いつまでも、どこまでも一緒だよ」


法助

「…ああ、あああ…うう、うう…」


涙がとめどなく溢れてくる。一緒ならばどんなことだって乗り越えられる。それは、自分が思っていたことだ。それは、自分が思っていたことなのだ。それを、雲母が口にした。救われた。心が救われた気がした。心がどこまでも軽くなっていく気がする。なぜだ。なぜこんなに心が痛むのか。理解された。雲母に理解された。誰にも理解されなかった自分の心を雲母に理解された。優しく抱き寄せられれば雲母の暖かさを感じる。全身に雲母を感じる。全身に収まりきらない程の愛を感じる。


法助

「…うん。僕達は、ずっと一緒だよ…。ぐす、絶対に離れない…。もう1人になんてさせないから…」


2人は暫くそのまま抱き合った後、お互い向き合う。


雲母

「…」


雲母は目を瞑っている。


法助

「…」


法助は理解した。キスをして欲しい。法助からの。自分からではなく、今度は法助からの愛が欲しいとそう思えば目を瞑る。


僕達は愛し合うために巡り会えた。僕達は愛し合うために試練を乗り越えた。僕達は愛し合うためにここまで生きてきた。


ならばそれを結実させるために愛を証明しよう。法助は唇を重ねようとゆっくり近づける。





琥珀

「ストップだ、法助君」


琥珀が壁にもたれ掛かり腕を組みながら2人を見据えている。


琥珀

「勝手に僕の雲母にキスをしようとしているな? それもまた君の方から」


雲母

「琥珀兄さん…」


法助

「生徒会長…」


琥珀

「また君を躾なければいけない。この間より入念にね。僕も心が痛いよ。一応確認しておくけど、君達まだヤッてないだろ?」


雲母

「…法助から、初めてを貰ったよ。そして、私の初めてをあげた。昨日の夜、あの廃ホテルでね」


法助はどういうことなのか理解出来ず驚いた表情で雲母の方を見る。琥珀の眉間に青筋が立つ。


教室の外、空に暗雲が立ち込める。教室がより一層暗くなる。


琥珀

「雲母。今から法助君を動けなくなるまで痛めつける。その後、雲母と【交わる。】その光景を特等席で観てもらおう」


雲母

「…」


琥珀

「きっと雲母は悲痛な悲鳴をあげるだろうさ。だが抵抗出来ない快楽からいずれ僕を求めてやまない嬌声に変わり、僕のことをこの上なく愛するだろう。法助君への愛の記憶は僕で上書きされ、永遠に僕を、僕の体を想い続けるはずだ。法助君はそれを見て堪えられず命を絶ちたくなるだろうなぁ…。だってそんなに雲母の事を愛しているんだもん」


琥珀は教卓の上にプラスチックの容器を置いた。


琥珀

「その手助けをしてあげる。固形のシアン化ナトリウムだ。この世を恨んで、この世に失望して、魂は苦痛の内に、肉体は逃れえぬ激痛を伴いながら死ぬといい。愛など仮初の産物だったと、所詮形のない空虚なものだったとこの世を憎み、裏切られたと絶望してなぁ…」


ビシャアンッ! と雷が鳴る。一瞬だけ照らされれば【そこには悪魔がいた。】

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