第6話 職員室
女子生徒
「なになに? さっきアイツを空手部に勧誘してたの?」
女子生徒が先程のやり取りを見れば華山に話しかけた。
華山
「ん? ああ。ホースケのやつを空手部に誘ったぞ」
女子生徒
「なんで? アイツを部活でシバくために誘ったワケ?」
華山
「うるせぇ桐邑。俺がホースケに何をしようが俺の勝手なんだよ」
この子は桐邑深郁。先日法助と華山の一悶着に巻き込まれた女子生徒である。
桐邑
「法助のやつ、常磐さんと一緒に居たみたいだね。昨日の一件で距離が縮まったのかな」
華山
「知らねぇー。本人に聞いてみればいいだろ。俺には関係ねぇからよ」
桐邑
「ぷくく。常磐さんとねぇ…。常磐さん、かなり変わり者だから誰とも馴染めなかったんだよね。案外お似合いかもしれないね」
華山
「どっちにしろクラスに馴染めないやつ同士一緒になったってだけだろ。良かったじゃねぇか」
桐邑
「我が強いっていうか、自分のルールから外れる人とは仲良くならないっていうか? 自分は他の人とは違うみたいな? そういう人って結局誰とも馴染めないんだよね。どうせ法助もそのうちポイされるんじゃない?アイツはアイツで自分が無いようなヤツだからさー」
華山
「別にヤツらの肩を持つ訳じゃないが、よく知らない相手の事を偏見でベラベラ話すのはいたたげねぇな。みっともないぜ」
桐邑
「は? 何それ。じゃーアンタは違うっての?」
桐邑は華山を睨む。
華山
「それより法助が持っていた日誌が無くなったらしい。お前何か知らないか?」
桐邑
「知らないしー。それより今日無くされたら私も責任取らされんじゃん?アイツだっる〜…」
職員室。
法助
「あの、玉菊先生…」
先生
「どうしたの水鳥くん。常磐さんも一緒?」
雲母
「先生。今日法助…水鳥くんが日直だったんですけど、日誌が無くなってたんです。今朝書いてたらしいんだけど、誰かが取ったのかもしれないんです」
玉菊
「誰かが取った、ねぇ…」
2年A組の先生、玉菊亜美。雲母から日誌の話を聞けばメガネの位置を調整する。目線を下に落とし若干辛気臭そうな表情をする。
玉菊
「ふぅ。日誌を無くしたなんて生徒は水鳥くん初めてよ。確かに日誌はまた新たに作ればいいかもしれないけど、あれはあなた達が卒業した時に記録として残るものなの。だからおいそれと新しいのを出すわけにはいかないわよ」
法助
「すいません…。もう少し探してみます」
玉菊
「疑うような言い方をしちゃうけど、もしかしたら朝書いていたのは思い違いなのかもしれない。だから家に帰ったら探してみて」
雲母は憤り唇を噛んだ。
雲母
「…先生。先生は水鳥くんがクラスメイトに執拗に虐げられている事をご存知ですか?」
玉菊は怪訝な顔をして雲母を見る。
雲母
「今日水鳥くんは私と図書室に行っている間席を外していました。その間誰かが日誌をとったとしても不思議じゃありません。クラスメイトはあの手この手で水鳥くんを責めようとしているんです」
職員室がどよっとした。玉菊は苦い顔をし雲母を見る。
雲母
「今日ならまだ間に合います。だから先生から日誌が無くなったことを帰りのショートホームルームで言って貰えませんか?」
玉菊
「水鳥くんがクラスメイトとあまり馴染めていないのは知っているわ。個人面談でも問題がある子に話をした事もある。だけど先生から話をしても進まない話だってあるの。それが十数人で集まったクラスというグループなら尚更ね…?…わかった。とりあえず今日のショートホームルームで日誌が無くなったことを言うわ。…水鳥くん、それでいいかしら?」
玉菊は法助の方をみる。法助は冷や汗をかいている。
法助
「…」
雲母
「水鳥くん…? どうしたの?」
玉菊
「…水鳥くんにとってもデリケートな問題なのよ。常磐さん、あなたが良くても水鳥くんにとってはそれをする事で余計にクラスメイトの風当たりが強くなるかもしれない」
雲母
「そんな…。波風立てずに問題をそのままだなんて…!それじゃあ法助が辛いままじゃないですか!?」
つい感情的になり法助と呼んでしまい、慌てて口に手を当てる。
玉菊
「…ふぅ、常磐さんの気持ちは偉いと思う。先生だって助けてあげたい気持ちは勿論あるわよ。だけど水鳥くんを特別扱いをすることもできないし、彼だって特別扱いをされて救われるわけじゃないの」
雲母は奥歯を噛んだ。これ以上強く言うことが出来なかった。
法助
「…常磐さん、玉菊先生。気を遣ってくれてありがとう。ショートホームルームでは…言わなくていいです」
雲母
「そんな! それじゃあ日誌は見つからないかもしれないよ!?」
法助
「…華山に手伝って貰う」
雲母は驚いた目をした。1番ありえない選択肢を法助が選ぼうとしている。
雲母
「だ、ダメだよ! どうなるか分からないんだよ!?」
法助
「それでもこれからクラスが変わるまでクラス中でこの事を責められる事になるならそれを選ばざる得ないんだ…。先生、そういうことだから」
雲母は罰が悪そうな顔をして目を伏せた。
玉菊
「…華山くんが日誌を探すのを手伝ってくれるのね…?一度それにかけてみる?」
雲母
「…先生! そんな単純な話じゃないんですよ!?」
法助は首を振る。
法助
「常磐さん、あんまり大袈裟にとらえなくていい。華山は体験入部でもいいっていってたし」
玉菊は不思議そうな表情で法助を見る。
昼休みが終わるチャイムが鳴った。
玉菊
「時間みたい。じゃあ先生も午後からの授業があるから、どうなったかまた聞かせてね」
雲母も法助もそれ以上引き下がるわけにはいかないと教室へ戻る。
法助
「…華山」
華山
「ん? なんだ?」
法助
「一緒に日誌を探してくれ」