第68話 きみとあなただけの教室
法助と雲母は机を合わせてお弁当を食べている。
雲母
「法助と一緒にお弁当食べたかったんだ♪」
法助
「そういえば1度も一緒にお弁当食べたことなかったね」
雲母
「そうだよ。文化部の部室でも結局一緒に食べられずにお話し続けちゃったし、屋上でも食べられなかったし?」
法助は屋上でのことを思い出す。あの日もお弁当を食べ損ねた。この数ヶ月、あまりにも現実味のない日常を送っていた事に気付かされる。
法助
「屋上でお弁当ね。そういえば今日あんまり天気が良くないね」
雲母
「午後から雨が降るらしいよ。すぐ止むみたいだけど?」
すると廊下でバタバタと慌ただしい音が聞こえる。
「まてー!」
天使
「待つわけないでしょうがっ! 日陰、何とかしなさいよ!」
日陰
「天使様! さすがに3人相手は手に負えません!」
天使と日陰が廊下で追いかけられている。どうやら傀儡達と交戦中のようだ。
法助
「…!」
法助は其方を向けば立ち上がろうとする。
雲母
「ダメだよ法助。私たちは、ここで大人しく待ってなきゃいけないの」
雲母は法助の肩に手を置けば椅子に座らせ、頬に手を当てる。今彼等を助けるということは、琥珀に牙を剥くという事に他ならない。よって傍観者に徹しなければいけないのだ。
法助
「…」
雲母
「今、私たちが出来ることをしましょう。そして、私たちが出来なかったこと。その穴埋めをしましょうよ」
法助
「うん…。わかったよ」
2人はご飯を食べ終わる。
雲母
「ふぅ。それじゃあ私の絵を描いてよ」
法助
「約束してたもんね。わかったよ」
雲母
「えへへ。楽しみにしてたんだ」
法助
「ちょっと待ってね。準備するから」
法助は雲母を描く準備をする。教室の真ん中に空間を作れば雲母を座らせデッサンを開始する。
法助
「…雲母。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
雲母
「うん? なぁに?」
法助
「人形の中身に興味がないって、どういうこと?」
雲母
「ああ、覚えててくれたんだ」
法助
「印象に残ったからね。いつか聞けたらいいなって思ってたんだ」
雲母
「私、女の子らしく育てられたの。髪を長くして、こんな風にちゃんと括って女の子っぽくするように?」
法助
「うん。雲母はとても素敵だと思うよ」
雲母
「ふふ、ありがとう。みんな外見を褒めるんだけど、中身に関しては誰も触れたがらないの。世間ではそういう風潮があるからかもしれないけど? ラブレター、結構貰うんだけどね? 内容は外見を褒めるばかりだから。私の事をよく知りもしないのに御付き合いしてくださいって、そう申されても…て感じ」
法助
「…琥珀さんがそういう風に仕組んだせいかもしれないね」
雲母
「そうかもしれない…。私とお話する前にみんな遠ざけられてたからかも」
法助
「そうだな、雲母はね…。真面目で、頭も良くて、包容力のある暖かい優しさがあって…」
法助はハンカチで顔を拭かれた時のことを思い出した。あの時の雲母はとても優しく暖かかった。
雲母
「…え? そうかな?」
法助
「うん。情熱的なところもあって、でも結構恥ずかしがり屋なところもあってね」
雲母
「ど、どうしたの?」
法助
「弓道をやってて、ダンスが得意で 、Fチューバーをやってたり、友達を大切に想ってて」
雲母
「法助、恥ずかしいよ…」
法助
「…それで僕の事が好きな所、かな。うん。雲母には良いところが沢山あるよ」
雲母の頬がほんのり紅くなる。
「大人しくしろっ!」
銀子
「離しやがれ! セクハラで訴えんぞ!」
廊下で銀子が誰かに拘束されて騒いでいる。
海鼠
「銀子隊長を離すですっ!」
海鼠は丸まったティッシュを投げつける。
「ぷっ! なんだってんだ!」
海鼠
「何に使ったか分からないティッシュです! とっても恐ろしいです!」
銀子
「喰らえっ! カラーボールモドキ!」
銀子が男子生徒の顔に玉を投げつける。パンと弾ければ顔が真っ黒になった。
銀子
「どうだ! 墨の味はよ!」
「くそ、やりやがったなっ!」
雲母
「じゃあ、今度は法助のいい所言うね」
法助
「え? 僕のいい所、あるかな…?」
雲母
「うん。沢山あるよ。悪口を言わない所でしょ。仕事を嫌な顔せず手伝ってくれるところ。文化部に廃部通告をしに行く時、一緒に行ってくれたし…」
法助
「雲母に恩返しがしたかったんだ…。その時から雲母の事を少しずつ意識し始めてたね」
雲母
「恩返しだなんて…。ま、まだあるんだよ。勇気があって、ちゃんと私の話を聞いてくれて、直向きに頑張る姿勢があって…可愛くて」
法助
「え? か、可愛い…?」
雲母
「…可愛い…。すっごく可愛い」
法助
「ええ…。可愛いって…。僕男なんだけど…」
法助は頭をポリポリ掻いた。雲母は文化部で手を引っ張った時に泣かれたのを思い出した。その時のことを思い出せばきゅうっと締め付けられる。
雲母
「…それでね。私の事を愛してくれてるところ。そこが1番好き」
法助
「…あはは、うん。僕は雲母を愛してる」
雲母
「私も、法助を愛してるよ」




