第67話 2人のために
体育館に全校生徒が集まり終業式が始まる。校長の挨拶の後、各学年の抱負と目標を発表する。生徒会長、常磐琥珀の最後の発表が始まる。
琥珀
「今年中学最後の年になり、私達3年生の中学生活も残すところ半年になりました。周囲の沢山の仲間達に支えられてここまで頑張ってこれました。誠にありがとうございます。私自身仲間達の期待に応えられるように、学校行事、奉仕活動共に率先して取り組み、生徒のお手本となるよう残りの学生生活も励むことを抱負にしたいと思います。そして今後の目標として、自身の行った業務の雛形を作り、後輩達に役に立てるよう形として残せたら幸いです。これから非常に暑い時期が続きますが、皆様健康には特に気を使ってください。何よりも自身の体が大事です。短いですが以上で終わらせていただきます。ありがとうございました」
全校生徒の拍手が起こる。式は終わり、作戦が静かに始まる。
法助
「…僕は何処で待機してたらいいかな」
華山
「人の目もある。作戦が始まるまでトイレで待ってろ」
法助
「わかった。気をつけてね」
華山
「ああ、お互いな」
華山が自転車で行こうとする。
華山
「あ、そうだ。ホースケ」
法助
「うん? なに?」
華山
「…イジメて悪かったな」
法助
「…え? どうしたんだよ急に…」
華山
「俺はお前を昔の自分と重ねてイライラしてたんだ。まるで弱い自分を見ているみたいだったからな。…無抵抗なホースケに一方的に不満をぶつけてた。ホースケ自身にイジメられる理由なんてなかったのに、今まですまなかった…」
法助は照れくさくなった。
法助
「…こんな時にそんなこと。いいよ。僕で良かったら相談事に乗るから、今まで通り僕と接してよ」
華山は法助の返事を聞けばそのまま何も言わず校門を出ていく。
生徒会室にて。
琥珀
「…ふぅ。中学生最後の夏休みか。たまには水泳部に泳ぎに行ってもいいだろうか」
鳥栖
「きなよきなよ。琥珀くん生徒会の仕事ばっかりでしょ? たまには息抜きしないとね」
琥珀
「はは、学園長が身内だから手を抜けなくてね。そう言って貰えると助かるよ」
琥珀は笑顔で鳥栖に受け答えしている。
鳥栖
「…琥珀くん、あ、あのさ」
鳥栖がはにかみながら琥珀に尋ねる。
琥珀
「うん? なんだい?」
鳥栖
「来週の週末…夏祭りに、一緒に行かない…?」
ああ、誘われてしまった。
琥珀
「おや? 僕を誘ってくれるのかい?」
鳥栖
「…う、うん。琥珀くんと一緒に行きたいなって…」
琥珀
「他に誰か、一緒に行くの?」
鳥栖
「…」
2人で、か。
琥珀
「僕と2人で?」
コクリ…と頷く。初々しく、あどけない鳥栖をじっと見据える。
琥珀
「…そうか。時に鳥栖君」
鳥栖
「…うん?」
琥珀
「君は、僕が好きなんだろう?」
鳥栖
「…え?」
鳥栖は頬がカーっと紅くなる。恥ずかしそうにモジモジし始めた。鳥栖は答えられずにいる。琥珀は続ける。
琥珀
「それで、僕は君が好きなのだろうか?」
鳥栖
「え? …えっと、そ、それはどういう…?」
琥珀
「君は僕の気持ちが分かる?」
鳥栖はどう答えたら良いか困惑した。
鳥栖
「…琥珀くんが、私の事…好きか、嫌いか?」
琥珀
「そうだね。どっちだと思う?」
なんと意地悪な質問か。それを鳥栖自身に答えさせようとしている。
鳥栖
「えと、その…。どうだろう…」
琥珀は鳥栖に顔を近づける。
琥珀
「さぁ、答えてご覧?」
鳥栖
「…え、ええ?」
鳥栖の心臓がドキドキと高鳴る。
鳥栖
「と、とと…」
琥珀
「…と?」
鳥栖
「…とと、と、友達として、好き…とか…?」
震えながら鳥栖は答える。
琥珀
「ぷふ!」
琥珀は顔背けて吹き出した。
琥珀
「はは、意地悪して悪かったね。僕も鳥栖君の事が好きだよ」
鳥栖
「…あ、ええ? それは、友達…として?」
琥珀
「夏祭り、一緒に行ってもいいよ」
琥珀は背を向けて手を振った。
琥珀
「君が友達として僕と一緒に行って欲しいのなら?」
鳥栖
「…ああ! もう! ズルいよ!」
鳥栖はぷーっと頬をふくらませた。
琥珀
「膨れっ面も素敵だよ鳥栖君」
鳥栖がプンスカ怒っているのを尻目に生徒会室を後にしようとする。すると電話が鳴った。
琥珀
「…雲母?」
雲母からの電話だ。何故今掛けてきたのだろう。何か特別な用事でもあるのだろうか。勿論電話に出る。
琥珀
「…もしもし」
雲母
『…琥珀兄さん』
琥珀
「どうしたんだ?」
雲母
『…私、今何処にいると思う?』
どこにいる? 箱柳からも弦浦からも特に目立った報告はない。
琥珀
「いや、分からないけど?」
何か胸騒ぎがする。雲母から電話をかけてくる。さらには様子が少しおかしい気がする。何故だ。どういうつもりだ雲母。
雲母
『琥珀兄さん。私、ね。今、街の二丁目のハズレにある廃ホテルにいるの…』
琥珀
「…え?」
廃ホテルだと? 全く意味がわからない。場所はよく知っている。ここから自転車を使えば30分程で着く場所にある。
雲母
『…誰と一緒に居ると思う?』
まさかまさかまさか。そんなまさか。
雲母
『…法助が、私のいるこの部屋に来る。今、法助が来る準備をして待ってるの』
琥珀の表情が徐々に凍りついていく。
琥珀
「雲母」
スマートフォンがメキッと音を立てる。
琥珀
「…雲母雲母雲母、早まるな。おい、待つんだ雲母」
ビキビキと心にヒビが入るような感覚を覚える。
雲母
『…ああ、法助…。もう待ちきれない。琥珀兄さんが悪いんだよ? …だってそうでしょ? 私と法助にあんな事をしたんだもの…。あれからずっと法助のことを考えてた。琥珀兄さんに私の気持ち、分かる? 琥珀兄さんが私の事を好きなように、私も法助の事が好きなの。琥珀兄さんが私と法助を引き離そうとするからだよ。琥珀兄さんがそうしたように、私も法助を好きにしたい。琥珀兄さんもそう思ってるんでしょ? 私を好きにしたいから、あんな事をしたんでしょ…? だから私が好きな法助に、法助の好きなように…』
琥珀はゆっくりとスマートフォンを離す。通話終了ボタンを押して、箱柳に電話を掛ける。箱柳が電話に出る。
箱柳
『はいはーい』
琥珀
「おい」
箱柳
『ん? なーに?』
琥珀
「君に、雲母を見張っとけって言わなかったか?」
箱柳
『帰ったのは知ってるよ? どこに行ったのかは知らない』
琥珀
「君は今どこにいる?」
箱柳
『えっとー。一丁目のジャンクフード店でランチ中かな』
琥珀
「二丁目の廃ホテル、知ってるだろ? 今すぐ行け。そして雲母と水鳥を探して足止めしろ。わかったな? 出来なかったらお前の父親の首を切るよう父に持ちかける」
箱柳
『なんか不機嫌だね。了解だよー』
そこで通話を終了する。
琥珀
「鳥栖君、ちょっと頼みがあるんだけど。悪いけど自転車貸してくれないかな?」
琥珀は笑顔で生徒会室に戻り鳥栖に聞く。
鳥栖
「え? いいけど?」
職員室前の廊下にて。悠郁、舘椿、桑緒里、御籤はこの学校の制服を着ている。周囲の生徒にもバレていない。
悠郁
「…生徒会長は出て行ったみたいだね」
悠郁は窓の外を眺め、生徒会長が出ていくのを確認する。
舘椿
「…いよいよですね」
桑緒里
「足が震えてきたぜ…」
御籤
「ああ、どうなるのか全く検討もつかないわ」
悠郁が職員室に笑顔で入る。
悠郁
「ごきげんよう。先生方、お話があります」
皆一応にそちらを振り向く。すると何人かの先生はギョッとして悠郁を見た。
悠郁
「生徒会長、常磐琥珀さんに関するお話があって本日お伺いさせて頂きました」
玉菊
「あ、あなた達は!」
悠郁
「お久しぶりです玉菊先生。相変わらずお変わりなさそうで。私、とっても会いたかったんですよ」
悠郁はそう言うとニッコリと笑った。
廃ホテルにて。
安栖里
「む、どうやら来たみたいだよ」
天響
「うわぁ、ドキドキしますデス」
外で生徒が屯している。生徒は4人。1人は琥珀である。
安栖里
「連中を罠にかけて無力化すればいいんだね」
天響
「そうデス。捕まえてこの薬の入った水を飲ませるデス」
安栖里
「飲ませる…? それはかなり難しいんじゃないか?」
天響
「少しでも飲み込ませればOKらしいデス。まぁなんとかやるデス」
2人は変装マスクを被った。
法助
「…」
終業式後ということもあり、校舎内の生徒は既に帰宅している。外で部活動をしている生徒はいるものの、校舎内はとても静かだった。作戦開始のメッセージが届く。法助はトイレから出れば2年2組の教室へ赴く。【教室の真ん中には雲母が立っている。】
雲母
「…始まっちゃったね」
法助
「そうだね…。僕達も準備をしようか」
雲母と法助だけの何度目かの教室。2人は琥珀を出迎える為の準備に取り掛かった。




