第65話 ビトレイヤル
箱柳は予め入力しておいたチャットメッセージをポケットの中で弦浦に送り、電話をワンコール掛ける。
弦浦
「…うん?」
箱柳
『トイレに行くふりして職員室でマスターキーを取ってきて。そのまま生徒会室のドアの鍵を開けに行って』
どういうことだろう。2人の話し合いに割って入れというのか。箱柳がこういうのだ。とりあえずそれに従う。
弦浦
「…ちょっと便所行かせてくれ」
舘椿
「あそこが男子トイレですね」
弦浦
「わかった。ありがとう」
桑緒里
「…」
いじめっ子2人は弦浦の動向を確認しつつ男子トイレの前で待った。
雲母
「や、やめなさい!」
雲母は両手を拘束されながら悠郁の手を抑えようとする。しかしそれは上手くいかず、【胸を服の上から鷲掴みにされる。】ゆっくり撫で回すように揉まれれば雲母は頭の中で重たいものが落下したかのような衝撃を覚える。
悠郁
「ああ、良い形です。そしてこの感触…。下着の上からでも分かります。張りがあり、その大きさにも関わらず反り代えるように」
雲母
「ちょっと黙って!」
雲母は悠郁を蹴飛ばそうとする。げしっ! と蹴りを加えれば悠郁を押し退ける。悠郁はふふふ、と笑みを浮かべながら雲母を怪しい視線でじっと見据えている。
深郁
「抵抗すんじゃないよ。私等はあんたのおかげで大変な目にあってんだからさ。これくらい、の!」
深郁は雲母の右手だけを完全に抑え込む形に切り替える。そのまま後ろに引き倒した。
深郁
「ね? ちょっとだけのことだから。すぐ終わるんだから大人しくしてなさいよ」
悠郁
「いいですよ深郁。そのまま抑えていなさい」
弦浦
「…見張られてんのか?」
トイレから外へ出ようとするも外で待っている気配がある。このままでは職員室へ行くことが出来ない。またメッセージが入る。
箱柳
『バレてもいいからそのまま職員室まで走って』
弦浦
「…マジかよ」
箱柳
「あ! そういえばさぁ!」
箱柳が何かに気付いたかのような大きな声を出す。
弦浦はそれが合図と分かれば男子トイレから急いで出て職員室へ向かう。
御籤
「あっ! あいつ!」
桑緒里
「やっぱり職員室に行こうとしてやがったのか!」
現在は3階。職員室は2階。階段は2つ存在し、弦浦はトイレ横の階段ではなく、向かいの非常階段から下の階へ走って向かう。
悠郁
「雲母。あなたは完璧な体をしています。女性でも魅力的に映るそのしなやかな肢体、その端正な顔立ち、その艶やかな眼差し、美しく長い髪。凛とした態度で勉学に望むあなたの虜になるのは時間の問題でした」
雲母
「あ、あなたなんかに褒められても全然ときめかないよ! いい加減にしないと怪我しちゃうからね!」
悠郁は雲母に覆い被さるように体を重ねる。雲母は残された左手で押し退けようとする。悠郁は左手を掴めば【自分の胸へ宛てがった。】
雲母
「…!?」
悠郁
「…どうですか? 女の子同士で触れ合うのは初めてでしょうか? こんなこと、普通はしませんので?」
気が動転して目が左右に揺れる。何か手に柔らかい感覚があるもののいまはそれどころでは無い。
雲母
「ちょっと! まともじゃないッ! そんなことをされて、私は、私の気持ちはどうしたらいいの!?」
悠郁
「雲母の気持ちが介入する必要はありません。あなたはただ受け入れればいい。それだけの事。私に身を任せなさい」
悠郁は雲母の腰のベルトにもう片方の手を伸ばそうとする。
弦浦
「チッ! 2階のドアはしまってやがるッ!」
弦浦は急いで下へ降りる。上から桑緒里が降りてくる。
桑緒里
「まちやがれ!」
弦浦
「お前はもうちょっと女の子っぽい言葉遣いをしろよ!」
桑緒里
「なに騒ぎに乗じていちゃもんつけてやがんだ!」
弦浦が正面玄関の前に降り立つ。すると舘椿が玄関の鍵を掛けている。
舘椿
「…ごめんなさい弦浦さん。これも仕方ないことなんです」
弦浦
「あんた、気が弱そうに見えて意外とえぐいことするんだな!」
舘椿
「こうでもしないと私の罪滅ぼしは出来ないから…。常磐さんだってそれを承知でここに来たはず。少しだけ我慢して貰ったら全部解決しますので…」
弦浦
「何言ってんだよ! 意味わかんねぇよ!」
後ろから桑緒里がやってくる。
桑緒里
「はぁ、はぁ、まちやがれ! この軟弱野郎!」
弦浦
「きやがった! …えっ!?」
桑緒里はスタンガンを構えている。バチバチと鳴らせば弦浦はギョッとして桑緒里から逃げ出す。
悠郁
「このベルト、外しにくいですね」
ベルトは1周した後内側に巻かれている。悠郁はなんとかそれを片手で解除しようと試みる。
雲母
「離れてよっ!」
雲母は悠郁を足で挟み込めば横に倒そうとする。組み付かれている右手に痛みが走る。
雲母
「…ッ!」
深郁
「大人しくしていた方が身のためだよ。これ以上動いたら肩が外れちゃうかもしれないんだから。脱臼は痛いって聞くよ?」
雲母
「…ふんぬぅっ!」
雲母は悠郁を思いっきり足で締付ける。
悠郁
「ああっ! 凄い力ですね…! 本当に同じ女の子とは思えません」
雲母
「2対1で卑怯だよッ!」
深郁
「卑怯とか今は関係ないからね?」
悠郁
「…っ! まいりましたね…。このまま締め付けられ続ければ不味いことになります」
雲母
「今もとっても不味い状況だよ! これ以上不味い状況になんてなり得ないんだから!」
悠郁
「あなたもご存知の通り、女性はあまり圧迫されれば出るものが出てしまいます…。少し加減して頂けませんか?」
雲母
「し…! 知らないよっ! あんまり巫山戯るのもいい加減にしてよね!」
雲母はさらに悠郁を足で締め付ける。
悠郁
「く、あああ…!」
更に締め付ければ悠郁は苦しそうに呻く。
悠郁
「だ、ダメです雲母…! ああ…っ! そんなに締め付けらたら本当に…!」
御籤
「きっとマスターキーが所望なのよね…」
御籤は職員室からマスターキーを取る。
御籤
「生徒会室の鍵は私が持ってる。マスターキーも私が。アイツはどうあっても鍵を手に出来ないわ」
箱柳
「そうだね。安心だね」
御籤
「…アイツもしかして琥珀の傀儡なんじゃない? あんたまんまと嵌められたわね。何とか口封じしないと大変なことになるわよ…?」
箱柳
「そうだね。大変なことになるかもね」
御籤
「…なんか返事適当じゃない…?」
箱柳
「そんなことないよ?」
御籤は怪訝な顔でポッケにマスターキーを入れる。その時ある違和感に気づいた。【生徒会室の鍵が無い。】
御籤
「…あ、あれ? 生徒会室の鍵がないんだけど…」
箱柳
「え? どっかで落としたんじゃない?」
御籤
「そ、そんなはずは…。ちょっと、探すわよ!」
箱柳
「えー? 私が?」
御籤
「はぁ? 今どういう状況かわかってる!? 鍵を取られたらおしまいなんだよ!?」
箱柳
「なんで?」
御籤
「な、なんでって…! もう知らない! 勝手にしなさいっ!」
御籤は鍵を探しに元居た場所を戻っていく。
深郁
「いい加減にしなさいっ!」
深郁が右手を離せば今度はチョークスイーパーを掛ける。
雲母
「う、うぐ…!」
雲母の足の力が弱まった。ドク、ドク、ドク、と頭に血が上っていけば意識が徐々に白濁していく。
悠郁
「く、はぁ、はぁ、危なかったです。下着を汚してしまったら不味いことになっていました」
悠郁は雲母のお腹を抑え、そのまま起き上がる。雲母は両手を深郁の手を外そうと掴みかかる。悠郁は雲母の両手を抑えればそのまま深郁に両手を抑えさせる。壁を背もたれにして立ち上がる。
雲母
「…はぁ、はぁ、なんて必死なの!? あなた達本当にバカだよ!」
悠郁
「3人だけの秘密を作れば今後の関係も変わっていきます。雲母もいずれ慣れるでしょう。大人しく身を委ねなさい」
雲母
「絶対に嫌! あなた達に頼るくらいなら自分で何とかする…! 私が間違ってた! あなた達はなるべくしてそうなったんだよ!」
深郁
「違うね。雲母、あんたの家族がそんなんじゃなければ私達はこんな事をすることも無かった。愛は人を狂わせるの。出来ることはなんだってやろうって気になるの。あんたは悠郁の愛をそのまま受け入れればいいのよ!」
雲母
「違う、違うよ! こんなの普通じゃない! 悠郁さん、あなたの想いは愛なんかじゃないっ! ただの…! んぐっ…!」
雲母は悠郁に唇を奪われた。雲母は永遠とも思える一瞬の時を感じればぐるぐると目眩がし始めた。
悠郁
「…ぷは、私の愛をあなたに否定させはしません。まずはこれが私とあなたの最初の愛の証です。3人で永遠にこの秘密を…」
先程と違う部屋の様子に悠郁は気付く。ドアが開いている。
悠郁
「…? ドアが開いている…?」
深郁
「え? 気付かなかった」
雲母
「…う、うう。げほ、げほ…」
悠郁が部屋を見渡す。すると背後の机の上に【箱柳が座っているのを確認する。】
箱柳
「どうしたの? 続き、しないの?」
悠郁
「箱柳さん…!? 何故そこに居るんですか!?」
箱柳は動画を撮っている。
箱柳
「え? 別に気にしなくていいじゃん。続けなよ」
深郁
「…苗生ぁぁっ!! 裏切ったなァっ!!」
深郁が雲母を解放し箱柳に飛び掛ろうとする。しかし足で蹴飛ばす。体勢を崩し転んでしまった。雲母はそれに気付き直ぐ様悠郁をとりおさえる。
雲母
「動かないで。深郁さんもだよ。動いたら脱臼させるから」
悠郁は何故か力が入らない。肩を抑えられれば完全に鎮圧されてしまった。
パンっ!雲母が箱柳の頬を平手打ちする。桑緒里も御籤も舘椿もその場に戻ってきている。弦浦はドアの前で背後を見張っている。
箱柳
「…」
雲母
「あなた、何をしたのか分かってる…?」
箱柳
「何をしたかだって?」
箱柳は微笑みながら答える。
箱柳
「なによ。上手くいったじゃない。これでこの5人は私達の言いなりだよ。この事が他にバレればタダでは済まない。これで法助を助けられる。雲母さんはそれに一役買ったんだから、不満に思う必要なんて1つもないんじゃない?」
雲母
「…や、やり方ってもんがあるでしょ!?」
箱柳
「雲母さん、あんた…」
箱柳は詰め寄る。
箱柳
「危険を冒してでも法助を助けるって言ったじゃない。それを今更何言ってんの?」
雲母
「…くっ」
法助を持ち出されれば強く否定できない。
箱柳
「今私をひっぱたいたのでチャラだよ。これ以上なにか言えばあんたのこと許さないから」
それ以上何も言い返せなかった。握りこぶしに力を入れて怒りをぐっとこらえる。
弦浦
「上手く、いったのか?」
箱柳
「そうだね。これで生徒会長を倒す作戦に移れる。あんた達の働きにも期待してるからね。怖気付いて逃げたら容赦しないから。分かってる?」
桑緒里
「…」
舘椿
「…」
御籤
「…畜生。なんてやつなの…」
悠郁
「私達はまんまと利用されたわけですね。箱柳さんが一枚上手だったようです」
深郁
「ごめんお姉ちゃん…。苗生がこんなことをするなんて全く気が付かなかった…」
箱柳
「所詮人間の心は開けて見なきゃ分からないってことね。嘘なんていくらでもつけるわけだし? ねぇ雲母さん」
雲母は箱柳を睨みつける。箱柳はふんと鼻を鳴らしそっぽを向く。結果として深郁を含む5人の協力を得られたが、雲母の心に箱柳に対するわだかまりが深まった。
雲母
「…本当に、信じて大丈夫なんだよね…?」




