第63話 雁字搦め
何故だ。法助と箱柳が抱き合っている。理解が出来ない。頭が追いつかない。どうしてそんなやつなんかに。
弦浦
「…なんでだ…。なんでなんだ…っ!」
弦浦は屋上の入口付近で抱き合う法助と箱柳を見据えている。唇は青ざめ、背筋は凍り、世界が萎んでいくのがわかる。ずっと好きだった。箱柳の事を節に想っていた。沢山アプローチもした。…だが振り向いてはくれなかった。
弦浦
「くそっ、くそっ、くそっ!!」
壁を叩く。校舎の壁を叩くも衝撃は吸収され軽い手の音が響き、手が痛むのみである。弦浦の心は萎れ衰弱していくのがわかる。覚束無い足取りで校舎内に引き返していく。
「君」
その時声を掛けられた。壁に誰かがもたれかかっている。
弦浦
「…あ?」
「君は弦浦君だね?」
弦浦
「なんだってんだよ…。俺になんか用かよ」
「実は折り入って頼みたいことがあるんだ。ちょっといいかな?」
弦浦
「チッ。今虫の居所が悪いんだ。また今度にしてくれ…」
「箱柳苗生君。君が好きな子だね?」
弦浦
「…!?」
「良かったら僕が間を取り持ってあげよう。それ相応の働きをしてくれればの話だけど?」
弦浦
「間を取り持つったって、苗生は既に別のヤツが好きなんだ。俺のことなんて見向きもしねぇよ…」
「そんなことは無いよ。水鳥法助君は僕の従姉妹である常磐雲母のことが好きだからね。君の取り付く島はあるはずだよ。それにね、僕は箱柳君の事、とても詳しいんだ。上手くいけば擦り寄ることが出来るかもしれないよ?」
何故そんなことまで知っているのだ。得体の知れない存在に微かな恐怖を感じる。
弦浦
「…あ、あんた一体誰なんだよ…」
弦浦は顔を引き攣らせる。すると影からゆっくりと男が現れる。
琥珀
「僕は常磐琥珀。なぁ弦浦君。君は箱柳君に恋焦がれている。僕と手を組まないか? 君に欲しい情報を与えよう。そうすれば箱柳君を君の好きにできるかもしれない。魅力的な報酬だろう? どうだい?」
弦浦はゴクリと固唾を呑んだ。
弦浦
「…頼む、苗生! 俺を仲間にしてくれ…!」
弦浦は放課後、箱柳に詰め寄った。
箱柳
「…は? なんの事?」
弦浦
「俺、実は知ってんだ。転校していった連中は今の生徒会長、常磐琥珀が裏で糸を引いてたってこと…」
箱柳
「そう。でも私には関係の無いことだけど。そんなこと私に聞いてどうすんの?」
弦浦
「…法助が、怪我をして学校に来ただろ。あれは生徒会長がやった事なんだ」
箱柳
「…」
弦浦
「法助は生徒会長の逆鱗に触れた。だから制裁を加えられたのさ。このままじゃヤツは転校していった連中と同じ道を辿るだろう。…苗生、お前法助の事が好きなんだろ?」
箱柳
「…法助の事、確かに好きだけど。仲間ってのはどういうこと? あと苗生って気安く呼ばないで」
弦浦
「それ以上詳しい事は知らない。だが苗生は法助をきっと助けようとしてるはずだ。そうだよな? だからその手助けがしたいんだよ。俺は苗生の事が好きなんだ。お前が1番なんだよ…! だから頼む、苗生が居なくなったら俺はおかしくなっちまうかもしれない…! 俺に苗生の手助けをさせてくれ…!」
弦浦は土下座して頼んだ。箱柳はじっとそれを見据える。
箱柳
「…裏切ったら、あんたの事殺すからね?」
箱柳は屈んで弦浦の耳元でそう囁いた。
各々は飲み物を頼んだ。4人は会話を始める。
雲母
「琥珀兄さんと舘椿さんは何らかのコンタクトを取っていたんですね…?」
舘椿
「はい。私は琥珀さんに最初クラスの状況、とりわけ常磐さんを見張るように言われていました」
雲母
「…私を?」
舘椿
「絡城君の事、覚えていますか? クラスで常磐さんと一緒に生徒会に入っていた男の子です」
雲母
「はい。家庭の事情で転校を決めたと聞いていますが」
舘椿
「実は生徒会長が何らかの条件を提示して転校するように誘導したみたいです。本人はそこまで気にしていない様子でしたが、その後がよろしくなかった」
雲母
「…あの2人ですか」
舘椿
「そうです。桑緒里さんと御籤さんです。常磐さんの事を目の敵にしてましたよね」
雲母
「ええ。トイレに入れば上からバケツで水をかけられたり、私の水着を目の前でズタズタに引き裂いたりしました。もっと沢山嫌がらせは受けてましたけど」
箱柳
「結構酷いことされてるんだね」
雲母
「先生も注意しにくかったみたいだし、しばらく我慢してたよ。そしたら急に転校が決まったみたい」
舘椿
「2人とも元から常磐さんに嫉妬してたし、絡城君の事も常盤さんが悪いって決めつけてました。それを報告すれば琥珀さんはウンウンと頷いて『対応しておくよ』とだけ…」
雲母
「…」
雲母はなんとも言えなかった。正直2人とも嫌いであったし、転校して内心ほっとしていた。自分の母親の仕業だと思っていたが、琥珀が一枚噛んでいたようだ。
舘椿
「どういった理由で転校させられたかは存じませんが琥珀さんの力が及んだのは確かですね」
弦浦
「…そんで次は桐邑悠郁か…」
舘椿
「…そうです。深郁さんの姉の悠郁さんは桑緒里さんと御籤さんとコンタクトを取り琥珀さんに行き着いたみたいです。そこで何かをしようとしたけどそれが仇となり…」
雲母
「…私は何もされなかったですが、琥珀兄さんと悠郁さんの間で問題が生じていた、ということですね」
舘椿
「…私は、怖くなりました。琥珀さんが裏でやっている事を知っている私は、いつか何らかの方法で制裁を受けるんじゃないかと…。転校をさせられる程の影響力がある琥珀さんのことです、自分の家族にまで被害が及ぶと思うと怖くて怖くて…」
雲母
「そして自主的に転校をした、と…」
箱柳
「…そっちでは上手くやってんの?」
舘椿
「…はい。ただ残りの4人にはこの事は伝えてません。伝えれば報復を受けるかもしれない。そう思えば踏み出せなくて…」
箱柳
「絡城ってヤツのことは知らないけど、桑緒里と御籤に関しては間違いなくやり返してきそうだよね」
弦浦
「どうする誰から声をかける?」
箱柳
「まずは事の発端の絡城って男子から話をつけない? 恨みもなかったら仲間に引き入れられそうもないし」
舘椿
「絡城君なら部活動で学校にいるはずです。私が呼んで来ます」
雲母
「舘椿さんは、何故協力してくれるの…?」
舘椿
「…私、実は元の学校に戻りたいんです。それに3人にもちゃんと謝りたい。このままじゃこのことを永遠に引き摺ったまま謝る事も出来ずに大人になってしまう。それは自分にとっての呪いになります。…償いが、したいんです」
箱柳
「真面目だよねー。だから傀儡に選ばれたかもだけど?」
弦浦
「とんでもねぇな、常磐さんの従兄弟の生徒会長はよ」
雲母
「…はい。常軌を逸しています。あんな人だとは知る由もなかった」
話が済めば、4人は会計を済ませ隣町の中学校まで赴く。制服の舘椿が校舎に入れば絡城を呼び出しに行く。
雲母
「…来てくれると、いいんだけど」




