第57話 ポーカーフェイス
放課後。海鼠はまた生徒会室へ赴く。
琥珀
「いらっしゃい。ゆっくり話すって言って帰ったのに先週の金曜は来なかったからどうしたのかと思ったよ」
海鼠
「ちょっと体調がすぐれなくて、金曜は早退したです…」
琥珀
「そうなんだ…。もう大丈夫なの? 暑くなってきたし体には気を付けるんだよ?」
琥珀は煎茶と和菓子を差し出す。
海鼠
「ああ、ありがとうございます。頂きますです」
和菓子は琥珀糖で、砂糖がまぶされておりパリパリとした食感で海鼠には美味しく感じられた。
海鼠
「それじゃあ報告しますです」
琥珀
「うん。頼むよ」
琥珀はメモ帳を取り出し、メモの準備をする。
海鼠
「法助二等兵の好きな人は生徒会長の従姉妹の常磐雲母殿です。あと文化部の皆も好きだって言ってましたです」
琥珀の顔がひくひくっとひくつく。知っているが改めて言われると来るものがある。
琥珀
「…ええ? 本当かい? 雲母の事を好いてくれているんだね。クラスではあまり上手くいってないみたいだから心配してたんだ。彼が雲母と仲良くしてくれたら雲母も助かるんじゃないかな」
心にもないことを言うとはこの事である。まぁ、慣れてはいるが。
海鼠
「クラスではあまり仲がいい人はいないみたいです。あと最近は雲母殿とも距離を置いているらしいです。理由は分かりませんですが…」
琥珀
「…ふーん。まぁ、本人達の問題だからね。水鳥君が好きでも雲母が嫌がってるならクラスで仲良く一緒、とはいかないかもしれないね」
海鼠
「そうですね〜。それと法助二等兵は生徒会執行部の仕事に興味があるって言ってましたです」
琥珀
「え? それは本当か…?」
それは意外な事実だ。生徒会長である自分の下で仕事をする事になるのにわざわざ生徒会執行部に入りたいと言うなんて普通は考えられない。法助は何か企んでいるのだろうか…。
海鼠
「法助二等兵の兄は以前この学校で生徒会長をやっていたらしいです。今から奉仕活動を行えば或いは庶務とか議長になれるんじゃないかなって話してたですー」
琥珀
「彼が生徒会執行部に、か。自ら役職を得てリーダーになりたいって人案外は珍しいからね。うんうん、水鳥君はああ見えて結構エネルギッシュな子なのかもしれないな」
勿論雲母とは一緒に仕事をさせる訳にはいかないが、本人が望むなら自分の下につけて仕事をさせるのも或いは良いかもしれないと目を細めてメモ帳に記載する。海鼠が嘘を言っている様子もないし、嘘をつく理由もない。こういったやり取りをしているとバレる要素も見当たらないのでこの情報は正しいとみていいだろう。法助自身がどう考えているかは定かではないが。生徒会執行部の1人を法助にけしかけて釣ってみるのもいいかもしれない。
海鼠
「今日はこんなもんですねー」
琥珀
「うん。ありがとう。なかなかいい事を聞いたよ。じゃあ今度は僕の話をしようか。どんな話が聞きたい?」
海鼠
「少し気になってることがあるのです。生徒会長は法助二等兵の事をどう思ってるです…?」
海鼠がメモ帳を取り出す。
琥珀
「水鳥君の事?」
この世から消し去りたいほど頭にくる相手だ。とはっきり言ってしまいたいものの、その発言を口にするかどうかはまた別の話であって、その辺の分別は弁えている。
琥珀
「実は虐めの問題も含めて彼のことは少し心配していたんだよ。学校の事が嫌になって不登校になってしまうんじゃないかなって。だから空手部に入ったり、文化部に入ったり、さっき言ってくれたみたいに生徒会執行部に入りたいって聞いた時は安心したよ」
海鼠
「そうなのですか〜…。法助二等兵をそこまで気に掛けるだなんて、生徒会長は偉いです」
琥珀
「うん。同じ学生の1人である僕達にしか出来ない事もあるからね。彼も生徒会執行部に入ったりしてこの学校に貢献してくれる可能性もあるって考えたら、今僕と君でやってることは決して無駄じゃないと思うんだ。それも含めて彼の事はとても大事に思っているよ。勿論海鼠君だってそうだ。こうやって僕や彼の為に協力してくれているんだから」
海鼠
「わは、ウチ生徒会長の事尊敬しますです。琥珀会長は生徒会長の鏡です〜!」
琥珀は自分の口が片側につり上がってないか気になり口をちょっと抑える。大丈夫、いつもの笑顔だ。
海鼠
「…ウチ、ちょっと誤解してたです〜…」
琥珀
「え? 何がだい?」
海鼠
「生徒会長が法助二等兵の事を好き…なんじゃないかなって…」
琥珀
「え? は…?」
琥珀は目を丸くして海鼠を見た。今法助を好きだと言ったか?
海鼠
「いきなり法助二等兵の事を報告してとか、法助二等兵の好きな人とか仲良しを聞いてとか、普通男性が男性には聞かない様なことを聞きましたですから。それもこんな形で…。ちょっと勘違いしちゃってたです。ウチの誤解だったのです〜」
琥珀はバッ、と立ち上がり後ろを向いて片手を腰に当てる。もう片方の手で表情が強ばるのを必死に抑えようとする。
琥珀
「…うーん。確かに誤解を生じさせるようなお願いをしてしまっていたかな…。結構そういう多様性の許容されている時代だから、好きかもしれないって答えに行き着くのもゼロではなかったね…」
正直頭がキレそうだったが、ここで感情的になってはいけない。そもそもああいう絵を描く連中なのだ。本気でそういう妄想を信じる可能性があるかもしれないと自分を落ち着かせる。
海鼠
「うん? どうしたです?」
琥珀
「…いや、なんでも? 他になにか聞きたいことはあるかい?」
正直帰って欲しかったが、それなりに有益な情報も得られたのでもう1つくらい答えてもいいかなと思い、内心穏やかではなかったが表情を戻せば着席した。
海鼠
「今日はもう大丈夫です〜。また今度聞きたいことを考えてきて聞くです。その時までストックするです」
琥珀
「そうか…」
これ以上法助についてのことで変な事を聞かれれば頭がおかしくなってしまうかもしれないと不安になっていたが、また今度にすると言われた為ホッとした。
海鼠
「それじゃあまた明日です〜」
琥珀
「ああ、また明日」
海鼠は手を降れば生徒会室を後にした。




