第56話 銀子と天響
海鼠はその日部活動には来なかった。急遽放課後の部活動は休みにして法助を帰宅させる。1度解散した後、銀子と天響は2人で会議を始めた。
天響
「いやはや生徒会長殿と法助二等兵の絡みを薔薇騎士物語でやるとは。開いた口が塞がらなかったデス」
銀子
「ああ、オレも最初はたまげたが事態は思っているより深刻らしい。琥珀は海鼠になんらかのアプローチを仕掛けてやがる」
天響
「ええ? 生徒会長が海鼠副隊長にデスか? 何故そんなことをデス」
銀子
「海鼠に法助を監視させるとかそんな事をさせているに違いない。それも理由をしっかり伝えず綺麗事を並べてな」
天響
「法助二等兵を監視…?」
銀子
「そうだ。アイツは昔からそういう事をする【癖】がある。悪意や敵意の無い人間を使って情報を収集するのさ。上からの立場を利用して。そしてその対象が法助だったって事だ」
天響
「ええ…。確かにここ数日の海鼠副隊長の様子は常軌を逸していましたデス。それが生徒会長の仕業だったなんて…」
銀子
「アイツは学園長との繋がりがある。憶測でしかないが、何らかの条件の元そういった調査を請け負ったりしているのかもしれねぇな」
天響
「生徒間同士で監視されているだなんて息苦しいデス…。隣に座ってる生徒や友達がもしかしたら自分を監視してるなんて思ったら仲良くできないデスよね…」
銀子
「ああそうさ…! だからオレは教室が嫌いなんだ…。クラスメイトの裏にアイツの影が見え隠れする、そんなことがあったなら誰も信じられねぇ」
天響
「それが今回海鼠副隊長に仕掛けられたって訳デスね…。でもどうしたらいいデス? 海鼠副隊長か法助二等兵にその事を打ち明けたらいいデス?」
銀子
「ダメだ。それだけはやっちゃいけねぇ。海鼠に関してはその事を伝えたら生徒会長に密告するだろう。或いは下手に探りを入れかねねぇ。頭の冴えるアイツのことだ、少しでも臭わせれば勘づいちまうだろうな。そしたらオレ達は何らかの罰を受けさせられるかもしれねぇ。法助にそれを言えば巻き込んじまう上に文化部に居辛くさせちまう…。法助は純粋にオレの創作物を褒めてくれた。潰れかけのオレ達の居場所を守ってくれたヤツだ。そんなアイツにここで嫌な思いをさせるのは許されねぇ」
天響
「銀子隊長…。やはり貴女は素晴らしいお方デス。でもどうしますデス? このままでは海鼠副隊長は部活動に参加するのも億劫になってしまうデス。それに下手に海鼠副隊長と法助二等兵を参加させれないデス」
銀子
「少し作戦を練らなきゃいけねぇな。今の海鼠は純粋に法助の報告をしているだけだ。なら逆に誤情報を吹き込めば上手く立ち回れるかもしれねぇ」
天響
「なるほど、海鼠副隊長を利用するわけデスね。それで何とか海鼠副隊長に利用価値が無いと思わせられればいいのデスが…」
銀子
「やりようは幾らかある。例えばその事を全校生徒に周知してもらうとか、秘密裏に琥珀に対して不満を持っている連中を集めるだとかな。前者はオレ達が悪者にされる可能性もある。アイツは奉仕活動に従事してて先生にも全校生徒にも基本信頼が厚い。それにいきなりそんなことを言われても信用出来ないからな」
天響
「ただの陰謀論者で終わってしまいそうデスね…。危険思想を持つ生徒として重い処罰を受けそうデス」
銀子
「そうだな。前者は準備を進めてようやっと切れる手段だ。それもかなりリスキーだが…。そして後者は楽に見えてそれなりに危険でもある。何せ誰彼構わず下手に口にすれば琥珀に密告される恐れがあるからな」
天響
「こうやって話し合いをしてるのも危ないってことデスね…」
銀子
「ああ、そうだ。だからまずは安牌をとるために海鼠にこちらに有利な情報を流すのがいい」
天響
「なるほどデス。まずはどうしたらいいデスか?」
銀子
「…」
銀子と天響は海鼠に流す情報について話し合った。
翌週の昼休み。
海鼠
「…法助二等兵、この間は申し訳なかったです…。冷静さを欠いていましたです」
法助
「あ、いや。大丈夫ですよ? 何かあったんですか?」
海鼠
「ううん、何も無いです。ウチが勝手に暴走しただけです。ごめんなさいなのです」
法助
「そんなに畏まらなくていいですよ。何か誤解させてしまったみたいですし」
銀子
「1時の気の迷いってやつだ。なぁ、海鼠」
天響
「私達にはよくある事デス。仕方ないのデスよ」
法助
「…うーん。どんな創作物だったのか気になるなぁ…」
銀子
「なに、大したもんじゃねぇよ。だから先週のことは忘れろ」
海鼠
「そ、そうなのですよ。法助二等兵には関係の無い創作物だったのです」
天響
「所で法助二等兵、法助二等兵は将来どんな仕事に就きたいのデス?」
法助
「どんな仕事に? うーん、まだハッキリしてないですね」
銀子
「そこはハッキリ漫画家って言えよ。今から描きなれておけば立派な漫画家になれるぜ。ここで頑張ればイラストだって漫画だってかけるようになる。アシスタントでも食っていけるはずだ」
法助
「ふふ、でも営業に近いですよね漫画家って。売れなかったら仕事もないわけですし…」
天響
「やりようは幾らでもあるデスよ、法助二等兵。肉体労働や単純作業は歳をとってからでは辛いデス。今のうちに自分のセンスを売れるようにしなくてはデス」
海鼠
「法助二等兵は、どんな漫画が描きたいですか?」
法助
「そうですね〜。自分に合ったスタイルを探すのが先だと思いますが、バトル物でも日常物でもかけたら楽しいと思います」
海鼠
「恋愛物は描かないですか〜?」
法助
「恋愛物ですか…」
法助は少し言葉に詰まった。自分の経験した恋愛は常軌を逸したものばかりだ。箱柳に、雲母に、天使と日陰のやり取り。果たしてまともな恋愛物の漫画がかけるのだろうか。
銀子
「悩んでるならこんなのはどうだ?」
銀子が本を取り出し法助に渡す。
法助
「うん? これは冒険物ですか?」
銀子
「そうだ。主人公はある日突然異世界に行ってしまうんだ。そこで未知の生物に触れたり、そこで生活する人間達と協力して目的の元の世界に戻るんだが、その世界が魅力的過ぎて…」
天響
「…銀子隊長、全部言っちゃったら法助二等兵がつまらなくなっちゃいますデス〜」
銀子
「おっと、そうだった。悪いな。良かったら読んで選択肢の一つに加えてみてもいいんじゃないか?」
海鼠
「法助二等兵、漫画家を目指して見たくなってきたですか?」
法助
「そうですね。趣味で出来たら良いかもしれません。皆さんはどうです? 漫画家になりたいですか?」
銀子
「オレ達の好きなジャンルだけでは食って行けそうにも無いから、新しいジャンルを開拓していかなきゃいけないな。手段は色々あった方がいいし」
銀子は天響の顔を見る。天響はコクリと頷く。
天響
「そういえば法助二等兵は生徒会の仕事をしなくてもいいデス? 入部前は副生徒会長と一緒に活動していたように思うのデスけど」
法助
「…うーん。実は今雲母とちょっと距離を置いててですね。彼女から仕事を任されない限り生徒会の仕事は回ってこないんですよ」
天響
「そうなのデス? 何か事情があるみたいデスね」
海鼠
「女心は秋の空ですね〜」
銀子
「生徒会の仕事が出来るならやってみたいよな。そういう経験がネタのエッセンスになるだろうし?」
天響
「そうデス〜。法助二等兵は生徒会役員になるデス〜」
法助は考えた。雲母と一緒に仕事が出来るならそれは嬉しいことだ。しかし琥珀が居る今年はそういった活動は決して出来ないだろうと思われる。
法助
「うーん。今年は難しそうだけど、お2人がそう言うならやってみてもいいかもしれないですね。僕が生徒会に選ばれるかは別として…」
海鼠
「…法助二等兵は生徒会役員になりたいですか?」
銀子
「オレは法助を応援するぜ。来年は卒業しちまっていないけどよ」
法助
「僕の兄はこの学校で生徒会長をやってたらしいです。今から何か奉仕活動をしてみれば可能性は出てくるかも、しれませんね」
銀子
「生徒会執行部は全員で12人。生徒会長にならなくても庶務やら議長やらで仕事は出来そうだからよ。来年立候補するのも悪くないと思うぜ。内申書にも影響すると思うし?」
銀子と天響は顔を見交わす。どうやら上手くいったと頷いてみせる。




