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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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第51話 琥珀と一二文

天響

「法助二等兵、コマ割りはどんな感じデス?」


法助

「もう少しです」


法助は放課後文化部で創作の手伝いをしている。銀子や海鼠が描いたネームを元に天響と法助が協力してコマ割りや背景を書いていく。


銀子

「こういう地道な作業が後々役に立つんだぞ。いきなりキャラクターを描かせてもらえると思うなよ〜?」


法助

「…あ、はい」


法助は黙々と定規でコマ割りを書いていく。普段やったことの無い慣れない作業なので、目が疲れたり肩が凝る。出来るだけ背筋を伸ばしてミスがないように慎重に描いていく。1枚あたりのコマは6つだ。7でもいけるがそれ以上だと見にくくなる。結構繊細な作業で、コマの間隔がズレると一気に汚くなる。最初が肝心なのだ。


法助

「出来ました」


天響

「ありがとうデス。次はこのネームのコマ割をお願いしますデス〜」


法助

「了解です」


法助はアセアセしながら次のコマ割りに取り掛かる。普段はデッサンやら模写をやっているが、放課後の部活動となると漫画創作の手伝いをさせられる。こんな風に一生懸命何かに取り組むのは久しぶりかもしれない。


法助

「ところで銀子部長」


銀子

「コラ、隊長と呼べ」


海鼠

「銀子隊長ですよ〜。法助二等兵〜」


法助

「ぎ、銀子隊長。この男の人ってモデルがいるんですか?」


銀子

「モデル…?」


法助が何気なくネームの男性のモデルを伺ってみた。銀子の目がやや鋭くなった。


銀子

「ああ、いるぞ。…生徒会長の常盤琥珀だ」


法助

「…生徒会長」


常盤琥珀。その名前を聞いた時、心臓がドクリと脈打つ。あの時のことは今でも脳裏に焼き付いている。恐らく死ぬ迄忘れないだろう。


銀子

「水泳の授業の時に仮病使ってデッサンしてやったのさ。それ以降男性の裸体のモデルは琥珀のヤツを使ってる」


法助

「ええ? 勝手にですか?」


銀子

「そうだ。奴の事は昔っから気に入らないからな」


法助

「そうなんですか…?」


海鼠

「法助二等兵をモデルに描いて欲しいですか〜? ウチは大歓迎なのです」


法助

「ええ? 僕の体なんて筋肉は無いし、細いしでなんの魅力もないですよ…?」


海鼠

「ふふふ〜。関係ないです〜。モデルにしてやるのです〜。さっさと脱ぐのです〜」


法助

「もう、嫌ですよ〜」


天響

「海鼠副隊長、法助二等兵が困ってるデス…」


静かになれば法助はコツコツ作業を進める。


法助

「銀子隊長」


銀子

「なんだ?」


法助

「なんで生徒会長が気に入らないんですか?」


銀子

「…あいつオレの髪の色をいつも指摘してくるんだ。黒く染めろーって。そんなのオレの自由だろ」


銀子は一瞬眉間に皺を寄せたあとそう答えた。銀子の髪の色は派手な銀色でショートヘアである。確かに目につく髪色ではあるが。


法助

「あはは、確かに生徒会長って立場上そう言わざる得ないかもしれませんね」


海鼠

「法助二等兵は生徒会長のことが気になるのですか?」


法助

「…え? いや、そこまで気にはしていませんけど?」


少しドキッとする。気になると言われればかなり気になる。加えて絶対に近寄りたくない人物でもある。情けないことだが、また目の前に現れれば足が震えて動けなくなるかもしれない。あんな事をされたのだ。精神的なダメージはまだ癒えていない。部活動が終われば4人は部室を閉めて帰宅の準備をする。校門に差し掛かった時海鼠があることに気付く。


海鼠

「あ、ごめんなさいです〜。部室に定期入れ忘れちゃったですぅ」


海鼠は部室にバスの定期入れを忘れてしまった。


銀子

「待っててやるから早く取りに行ってこいよ」


海鼠はパタパタと慌ただしく文化部の部室へ戻り、定期入れを回収する。そして廊下に出て部室の鍵を閉める。


「君」


急に背後から声を掛けられた。


海鼠

「ひゃっ!」


海鼠は驚けばぴょんっ、と飛び上がった。恐る恐る振り返る。するとそこには生徒会長の常磐琥珀が居た。


琥珀

「君は海鼠一二文君だね?」


海鼠

「あ、はい…。そうですぅ…」


海鼠は更に小さくなって、オドオドとしながらそう答えた。


琥珀

「そう畏まらなくていいよ。気を抜いて、楽にしてくれたらいい」


海鼠

「は、はい…」


琥珀

「少しお伺いしたいことがあるんだけど、文化部に水鳥という部員が居るね?」


海鼠

「あ、法助二等兵のことですかぁ? 法助二等兵がどうしましたです?」


琥珀

「…助二等兵? そうだ。水鳥法助君だ。彼は最近文化部に入ったみたいだね。同じ時期に空手部に入ったのに掛け持ちをしているみたいだ。その理由は知ってるかな?」


海鼠

「法助二等兵は銀子隊長の創作物に感銘を受けて入部を決めたですぅ。少しずつ絵も上手くなっていってるです〜」


琥珀

「…香炉君のあの絵を見て感銘を受けただって…?」


海鼠

「そうです〜。入部を即決したのです」


琥珀は眉をひそめて信じられないといったふうな表情をした。


琥珀

「…コホン。それはさておき海鼠君にお願いがあるんだ。…ちょっといいかな」


海鼠

「はい、なんでしょう?」


琥珀

「実は水鳥君の部活動の様子を教えて欲しいんだ。簡単なことでいいから僕に連絡して欲しい。些細なことでも、なんでもいい。勿論お礼はするつもりだよ」


海鼠

「法助二等兵の様子ですかぁ? 生徒会長のお仕事ですか〜? ちなみにお礼って何ですぅ?」


琥珀

「そうだね。海鼠君が欲しい情報を代わりに提供するってのはどう? …例えば好きな男子はいる?」


海鼠

「…いませんです〜」


いきなりこんな事を言われても。いたとしても答えたくは無い。


琥珀

「…じゃあ、嫌いな生徒は?」


琥珀が目を細めて聞く。


海鼠

「嫌いな生徒ですか? うーん…」


何故そんなことを聞いてくるのだろう。生徒会長はやたら法助の事を知りたがっている。


琥珀

「それじゃあ…」


琥珀が何かを言おうとする前にパッと思いついた。


海鼠

「あ、ウチは生徒会長の事が知りたいですねー」


琥珀

「…え? なんで?」


海鼠

「生徒会長はきっとモテますですぅ。いい創作のネタになりそうです」


琥珀

「はは、僕をネタに描くつもりかい? それは控えて頂きたいところだね」


琥珀はフッと鼻で笑えば肩を竦めた。


海鼠

「安心するです〜。まんまそのまま創作物にするつもりは無いのです〜。真実はほんのひとつまみでいいんです。完全なるフィクションより物語の深みが増しますです」


琥珀

「そうなの? うーん…」


自分の事をわざわざ話す事になるとは思わなかった。だがあの閉ざされた空間で自分の傀儡として機能できそうなのはこの海鼠しか居ない。作り話でもいいのならコイツに話しても別に構わないだろう。


琥珀

「わかった。僕の話でいいなら聞かせるよ。ただし、水鳥君の様子をちゃんと報告してくれたら、ね? それと当然の事だけど、この事は水鳥君には内緒だよ? じゃなきゃ海鼠君に頼む意味が無いからね」


海鼠

「覆面調査的なやつです? 生活態度の観察なんですね〜。かしこまりましたですぅ。部活動の様子をきちんと報告しますです〜」


琥珀

「ああ、よろしく頼むよ海鼠くん。期待してるからね…」


海鼠は敬礼をすればパタパタと3人の元へ戻って行った。

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