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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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第49話 やるべきこと

月姫

「…」


月姫は風邪を引いて寝込んでいる。雨に打たれたせいだ。憲助と抱き合ったあと、コンビニで暫く体を乾かしてすぐ家に帰った。頭がフラフラして体が熱っぽかったため休む様に憲助に言われたからだ。

自分があんな事を口にするとは思わなかった。ボロボロと涙を流し、憲助に対してお兄ちゃんと呼びかけた。決死の覚悟で放った一言だが、自分でもどうかしてるんじゃないかと困惑している。

あまりにも熱が入りすぎた。愛は人を狂わせる。恐るべき病。身をもってそれを体感した。ぼーっと天井を眺めながら憲助のことを考える。雨に打たれ全身が冷えていく中、憲助の微かな温もりだけを記憶の中から牽引し、布団をぎゅっと抱きしめる。耳から熱が放たれているのがわかる。

ドク、ドク、と鼓動も強くなってくる。抱き合ってしまった。たった数日しかあっていない相手と。それも付き合っていない相手と。友達には付き合っていると言ってしまったが、少し見栄が入ってしまいそのまま口に出してしまっただけなのだ。しかし、憲助に対してあんなことをしてしまったのだ。もう会ってくれないかもしれない。

逆だったらどうだろう。特に気のない男の人に姉ないし妹と呼ばれて抱きしめられるなんて。考えたくはないが普通なら拒否してしまう。だが憲助は自分を想って抱きしめてくれた。それほどまでに【お兄ちゃん】というワードが憲助にとっては特別なものだったのだろう。酷いことをしてしまった…。また会ったなら謝らなければいけない。


款太郎

「ただいま」


款太郎が帰ってきた。暫くすると自分の部屋のドアをコンコンコンとノックする。


月姫

「…はーい」


ガチャッ…ドアが開き款太郎が部屋に入ってくる。


款太郎

「…今日学校、休んだんだって?」


月姫

「…あ、うん。傘忘れちゃってさ…。雨に打たれたら体が冷えちゃったみたい」


款太郎は清涼飲料水とアイスクリームを机の上に置いた。そのままベッドの横に座り込む。


款太郎

「…月姫」


月姫

「うん? 何、お兄ちゃん」


款太郎

「最近、お化粧したり占いを気にしてたりしてたからさ…僕、何となく彼氏でも出来たんじゃないかなって思ってね」


月姫

「…うん」


款太郎

「いつかは来ることだと思ってた。彼氏が出来たなら応援してやろうと思ってた。月姫の幸せを祝福してやりたい、素直にそう思っていたさ。少し寂しかったけどな。だけど、先週の日曜を境に月姫が弱っていくのを感じてさ。それが心配で仕方がなかった…」


月姫

「…うん」


款太郎

「…月姫。今日まるで抜け殻のように元気がなかったから、兄ちゃん後をつけてたんだ…」


月姫

「…え?」


款太郎

「つけてる僕に気が付かない程月姫は心ここに在らずだった。何をしてるのかじっと見てたんだ。そしたら道路の真ん中で立ち止まってそこから動かなくなった」


月姫

「お、お兄ちゃん…?」


款太郎

「僕は見かねて月姫に傘を差しに行こうとした。そしたら高校の制服を着た男子学生が月姫の傘を月姫に差した。僕は隠れてじっと聞き耳を立ててたよ」


月姫は背筋に冷や汗が流れるのを感じる。款太郎は怒るでもなく、悲しむでもなく淡々と話し続ける。


款太郎

「月姫の彼氏なのかなと思った。だが何か様子が違っていた。彼は生徒会長の話を聞くために月姫と接触したと聞いた時、怒りで目の前が真っ赤になった。今すぐにでも殴りかかろうと思った。だけど、月姫がその男に抱きつき、想いを打ち明けているのを聞いた時、必死に自分を抑えた。ただ利用する為だけに近づいた男に、月姫が涙を流してまで愛する男に僕はどうしたらいいか分からなかった」


月姫は起き上がり款太郎の顔を確認しようとする。しかし見ることが出来ない。見てはいけない気がした。


款太郎

「男は自分には彼女がいると言って去っていこうとした。その時、月姫は言ったよね…」


月姫

「あ、あの…。お兄ちゃん…」


款太郎

「…お兄ちゃんって。あの男にお兄ちゃんと言って後ろから抱きしめた。僕の心は、正直穏やかじゃなかった。苦しくてバラバラになりそうだった。兄は僕なのに。月姫の兄は僕なのに、僕の居場所すらアイツは奪ってしまうのかって…」


月姫

「お兄ちゃん、違うの…! 私が悪いの…! 私が憲助さんのことを勝手にそう呼んだだけで…。あの時は必死だったの…!」


款太郎

「いや、いいんだ。元はと言えば僕が蒔いた種だったのかもしれない。生徒会長は他人の恨みを相当買ってしまっている。その繋がりで僕が月姫を巻き込んでしまったんだ。だからね…」


款太郎は笑顔で振り向いた。


款太郎

「僕は僕のケリをつけに行く。月姫は安心して待ってて。月姫を不幸にするヤツは誰であろうと許さない。兄ちゃんが守ってやるからな」


月姫

「…え?」


月姫は言葉が出なかった。兄妹だから分かる。笑顔だが、深い悲しみに暮れている。そんな雰囲気を感じられた。款太郎は部屋から出ていこうとする。ベッドから立ち上がり、款太郎の裾を掴む。


月姫

「お兄ちゃん…。私のお兄ちゃんは、款太郎お兄ちゃん1人だけだから! 憲助さんは違うの! だから、何もしなくて大丈夫だから…!」


月姫は真剣な表情でそう伝える。


款太郎

「おうよ。月姫のお兄ちゃんは僕1人だ。それは間違いない。だが僕は僕のすべきことをやりに行く。ただそれだけだ。月姫は何も気にせず待ってたらいい。後はお兄ちゃんに任せろ」


すべきこと? 分からない。任せろ…? まさか憲助に仕返しに行くつもりでは?


月姫

「お兄ちゃん、まさか憲助さんを…」


款太郎

「…月姫。僕が憲助という人を殴りに行くと思っているな?安心しろ。そんな荒事をしに行くつもりはない」


月姫

「…信じてるからね」


款太郎

「月姫はゆっくり休んで風邪を治すといい」


款太郎は頭を優しく撫でた。目をパチパチしながら款太郎を見る。


款太郎

「おやすみ月姫。また明日な!」


月姫

「…」


ドアはバタンと閉められた。残された清涼飲料水とアイスクリームをじっと見つめながらその日は休息をとる。


翌日。


月姫

「おはよ…」


「あら、おはよう。風邪は良くなった?」


月姫

「うん。まだちょっと体がダルい程度かな」


款太郎の姿を探す。


月姫

「…お兄ちゃんは?」


「もう行っちゃったわよ。なんでもやることがあるんだとか」


月姫

「もうでちゃったの!?」


月姫は慌ててご飯を食べる。化粧はしなかった。占いも見ずにバタバタと登校の準備を整えて家を出る。


月姫

「行ってきまーす!」


「慌てちゃダメよ! 気をつけてねー!」


今日は早めのバスに乗る。気持ちが落ち着かないまま目的のバス停に着けば下車する。兄の姿を探す。もしかして高校に行ってしまったのか? 何処にいるのかさっぱり分からない。昨日雨に打たれていた場所に行く。いない。ひとまずいつもの時間まで待ってみる。憲助も現れない。ただ、今はそれどころでは無い。款太郎を探さなくてはならない。


月姫

「…お兄ちゃん、どこいっちゃったの?」


月姫は款太郎に電話を掛けてみる。出ない。仕方ないので学校に登校する。3年生の下駄箱を確認する。まだ款太郎の靴が入っていない。


月姫

「空手部かな…?」


月姫は空手部の部室へ向かう。


月姫

「…あ、あの」


「うん? どうしたの?」


道着を着た学生が月姫に気付く。


月姫

「梵款太郎は居ますか?」


「部長? ああ、昨日といい今日も来てないね。もしかして妹さん?」


月姫

「はい、妹です。兄は居ませんか…。ありがとうございます。失礼します…」


妹である事を知っているのか。何故か気になったがその事を気にしても仕方がない。慌ててその場から離れる。款太郎は何処に行ったのか。靴がない以上外でまだ登校中の筈なのだ。一心不乱に校内をぐるぐる探し回る。


月姫

「はぁ、はぁ、お兄ちゃん、何処にいるの…?」


学校の裏手、非常階段の下に差し掛かった所で【款太郎とうちの制服を着た憲助の姿を見つけることが出来た。】


月姫

「見つけた…!」


すぐに駆けつけず、校舎の影に隠れて聞き耳を立てる。何をしているのか。なんの話しをしているのか。月姫は気が気ではなかった。

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