第47話 また明日
月姫
「おはよ」
款太郎
「おはよう。今日友達と映画見に行くんだってー?」
月姫
「そうなの。お兄ちゃんと行けなくてごめんね」
款太郎
「まぁ友達なら仕方ないし、大丈夫だよ。また今度一緒に見に行こうな」
月姫
「そうだねー。また今度にしよ」
月姫は朝ご飯を食べれば服を選ぶ。憲助はどんな服装が好みなのか。服装もそうだが、自分に合ったものでは無いと変に背伸びして見られればあまり良くないかもしれない。
美人というより、可愛く見られたい気持ちもある。ならばフリルとかリボンのついた可愛らしいガーリー系を基調とした服の上にゆったりとしたベストを着るのはどうだろう。色々と試行錯誤した後ナチュラルな感じの服装に落ち着いた。癖毛をヘアアイロンで伸ばし、お化粧をする。ふと鏡を見ていると後ろで款太郎がじーっと自分を観察しているのに気がついた。
款太郎
「…」
月姫
「な、なに? お兄ちゃん」
款太郎
「いやー? なんか入念におめかししてるなーって思って?」
月姫
「そういうお年頃なんだよ。あんまりジロジロ見られると恥ずかしいよお兄ちゃん…」
款太郎
「おっと、デリカシーに欠けてたな。すまんかった」
款太郎は自分の部屋に戻って行った。何か勘づいたのだろうか。もし自分に彼氏が出来たとして、款太郎はどんな反応をするのだろう。悲しむだろうか。怒るだろうか。喜んでくれるだろうか。少し気掛かりになりつつ出発の準備が整う。ドキドキと胸が高鳴る。待ち合わせ時間には余裕を持って出発することにする。
月姫
「行ってきまーす」
款太郎
「気を付けてなー」
バスに乗り、30分程で目的地に到着する。噴水広場が待ち合わせ場所だ。
月姫
「ふぅー、ふぅー…」
後10分程で待ち合わせ時間だ。ドクドクと高鳴る心臓を深呼吸して落ち着かせる。憲助が来るまで手鏡を見て化粧が乱れていないかチェックする。大丈夫そうだ。服装も問題ないだろうか? 兄にチェックしてもらえば良かった。デートの服装をチェックさせるのは些か酷かもしれないが。
憲助
「おはよう」
月姫
「あ! おはようございます!」
憲助が現れれば月姫はぴょんと飛び上がった。
憲助
「さて、映画だっけか」
月姫
「そうですね…! 席の予約をしに行きましょうか」
憲助
「おっけー」
2人は映画の席の予約をする。憲助が料金を払ってくれた。
憲助
「映画が始まるまで少し時間を潰そうか」
月姫
「何しましょう?」
憲助
「ゲームセンターでも行く?」
月姫
「いいですね! プリクラ取りましょう♪」
憲助
「プリクラかぁ。まるで彼氏みたいになっちゃうけど、月姫ちゃんはいいの?」
月姫
「…いいですよ?」
月姫は上目遣いでそう答える。
憲助
「ははは、じゃあまずはプリクラを取りに行こうか」
2人はプリクラを撮る。普通にピースしたり、変顔をしたり、月姫のリクエストで2人の手を合わせてハートを作ったりした。幸せだった。憲助との繋がりができたような、そんな幸福な一時だった。
絶対に安全なコーヒーカップの中で憲助と一緒にゆっくりと回転しながら一緒に過ごしている、そんな風な気分。憲助は楽しんでくれているだろうか。自分と一緒にいて、幸せを感じていてくれているだろうか。自分はこんなにも幸せなんだから、きっと少しくらいは幸せを感じてくれているだろう。月姫はそう思うことにした。ゲームセンターでひとしきり遊べば映画開始10分前になる。2人はポップコーンとジュースを買い入館する。
月姫
「…」
憲助
「…」
館内では話をすることは出来なかった。だが、隣で一緒に映画を見てくれているという事実が月姫をときめかせた。映画のワンシーンで主人公とヒロインがキスをするシーンがある。そのシーンに自分と憲助を重ねてみる。頬と胸がキューっと熱くなる。また心臓の鼓動が高鳴ってくる。気を紛らわすためにジュースを飲もうとした時に憲助の手と自分の手が触れる。
月姫
「あ…」
憲助
「ん?」
月姫は反射的に手を引っこめる。憲助はそっとその場から手を離した。手が触れただけ。だが憲助の手の感触が残り続ける。手を、握りたかった。憲助の手を握っていたかった。だが、自分からそれをするのは違う気がする。流石にそれを求める術はないように思われた。改めてジュースを飲めば気分を落ち着かせる。映画はクライマックスに入り、エンドロールが流れる。
憲助
「終わったね」
月姫
「…そうですね」
館内が明るくなれば月姫は立ち上がる。
月姫
「…お、とと」
憲助
「おっと、大丈夫…?」
少しフラ着けば憲助が肩を支えてくれた。
月姫
「…ありがとうございます」
優しい。ジュースと残ったポップコーンを代わりに持ってくれた。
憲助
「それじゃあご飯にしようか。ポップコーン、ちょっと食べちゃったけど、まだ食べれる?」
月姫
「はい、食べれますよ。何処に行きましょうか」
憲助
「そうだねー。オシャレにパスタ屋なんでどうだろう」
月姫
「ふふふ、オシャレですね。行きましょうか」
2人はパスタ屋に入る。少しお昼を回っていたため人は疎らだ。適当に座ればメニューを見て選ぶ。
憲助
「…僕、別の店でイカスミパスタを頼んだことがあるんだけど、パスタの種類をほうれん草風味にして頼んだんだ」
月姫
「イカスミパスタですか。歯が黒くなりそうですね〜」
憲助
「ふふふ、舌も歯も真っ黒。そしたら通常のパスタが届いてさ。まぁいっかって食べようとしたら、店員さんが間違いに気づいてもうひと皿追加してくれたんだ。お代は1皿分で」
月姫
「そうなんですね? お得ですね♪ でも、2つ食べきれないですね…」
憲助
「ああ、その時は参ったよ。イカスミパスタ自体初挑戦で頼んだものだったのに、追加でお代わりが来るなんてね」
月姫
「ふふ、美味しかったですか?」
憲助
「うん。シーフードテイストだったね。ほうれん草の味はほとんどしなかったよ」
月姫はオルトラーナを、憲助はペスカトーレを頼んだ。
憲助
「月姫ちゃん。少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
月姫
「はい? なんですか?」
憲助
「月姫ちゃんは生徒会とかに入ってるの?」
月姫
「生徒会ですか? 私は入ってないですね」
憲助
「そうなんだ。実は僕、中学校の時生徒会長をやっててね。月姫ちゃんの中学校は僕の母校でもあるし、今の生徒会長はどんな人なのかなーって思ってさ」
月姫
「生徒会長ですか? えーっと」
月姫は生徒会長の事を思い出す。
月姫
「背が高くて、学校行事に熱心な人で、みんなに支持を得てる人ですね。それに結構モテそうな見た目してますよー?」
憲助
「そうなんだ。みんなに支持を得てる? そんなに期待されてるの?」
月姫
「はい。各クラスの問題を解決する為にアンケートを取ったり、問題がある人に部活動の斡旋をしたり、指導したりもしてます」
憲助
「ええ…? 生徒会長ってそんなことまでするの?」
月姫
「普通はやんないですよね。でも…目立った活動をしていない部を潰したり、指導したにも関わらず改善の見られない生徒に罰として課題を課したりするみたいです」
憲助
「…明らかに越権行為だね。生徒会長が本来やる仕事とは掛け離れている気がするけど?」
月姫
「なんでも学園長とは親戚同士らしいんです。なのでそういった権限を一部行使出来るんだとか。進学先で優位になったりするのかな?」
憲助
「各学年で問題がある生徒をどうやって見分けてるんだろう。自分のクラスならまだしも、違うクラスなら表面化してない限り分かりにくいだろう」
月姫
「アンケートもそうですが、生徒会長に協力して報告する人もいるみたいです。問題があるクラスメイトを監視して報告させてるんだとか」
憲助
「…その話、誰から聞いたの?」
憲助が真剣な表情になる。
月姫
「お兄ちゃんがそれをしてるみたいです。自分のクラスと、後輩に1人乱暴な生徒がいてその子の面倒を見てるんですって。名前はなんだったかな…。華山さんだったかな?」
憲助
「…ふーん。華山さんはどういった課題を出されているか聞いている?」
結構根掘り葉掘り聞いてくるな。まぁ、別に話しても問題ないしいいかなと思いながら話し続ける。
月姫
「その子、空手部に入ってて結構強いらしいんです。ですので時期主将として育てたいらしいので、それを課題として練習に取り組んで貰ってるみたいですよ。憲助さんは生徒会長の事がなんでそんなに気になるんですか?」
憲助
「いや、自分の母校でもあるし? ちょっと変わった中学校だったから気になってね」
2人はご飯を食べ終わる。
月姫
「今日はありがとうございました…! 憲助さんが良かったら、またデート…しましょうね?」
憲助
「ああ、また会えたらその時約束しよう。それじゃ、【さようなら】」
月姫
「…はい、それじゃあまた」
月姫は憲助のさようなら、と言った言葉が気掛かりになった。また会えるといいね。じゃあ日曜日。それじゃ、【さようなら。】
トン…。と何故か自分の心の中が一人ぼっちになったような、物悲しさがあった。また会えるといいな。その気持ちだけを思う為、さようならという言葉を自分の中で出来るだけ合理的に処理するように、プリクラを眺めながら憲助との思い出で彩っていく。また明日、会えると信じて。




