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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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第46話 偶然偶然偶然

月姫

「おはよ」


「あら、今日は早いわね」


月姫は朝食の支度をする母親に挨拶をする。


款太郎

「お、今朝は早いな。兄ちゃんと登校する為に早起きしたのか?」


月姫

「違いますー」


トースト、目玉焼き、ベーコン、コーンスープ、シーチキンサラダ。トーストの上にベーコン、目玉焼きを乗せて頬張る。テレビをつければ朝の占いをチェックする。


月姫

「おとめ座は…2位!」


款太郎

「しし座は8位か。負けちゃったなー」


月姫

「ふふ、私の勝ち」


月姫は朝ご飯を食べ終われば歯磨きをし、ヘアアイロンで癖毛を伸ばす。化粧台へ向かい、化粧水をつけ、日焼け止めを軽く塗る。


款太郎

「月姫〜。先に行くからな〜」


月姫

「はーい。行ってらっしゃーい」


款太郎に挨拶を済ませば、下地で整え、ファンデーションで軽く、ケバくない程度に小綺麗に化粧をしていく。コンシーラはあまり目立たないように、ルーンパウダーでおしまい。


「あら…お化粧しちゃって。どうしたの?」


月姫

「…うん? たまにはいいかなーって。へへへ…」


月姫は照れながら返事をする。


「あらー?気になる子でも出来たのかしら」


月姫

「そんなんじゃないって〜。…お兄ちゃんに変なこと言わないでよ?」


「あの子に言ったらすごく取り乱すと思うわね。でもまぁ、月姫は可愛いし、そのうち彼氏くらいできるわよね。款太郎もそこら辺は覚悟してると思うし、それが早いか遅いかの違いよね」


母親はボヤくようにそう言った。


月姫

「だから違うって…。あ、もうこんな時間。行ってきます!」


月姫は足早にバスまで向かう。月姫が到着してしばらくすればバスがやってきた。今日は席に座る。手鏡で顔を見ればおかしいところがないかチェックする。うん。大丈夫、だろう。普段の自分より整った顔立ちになっている。

自身の顔を念入りにチェックしている内に目的のバス停に到着した。月姫はキョロキョロ辺りを見回して探している。クラスメイトではなく、ハンサムこと憲助がいないかどうか。


月姫

「…いないなぁ」


月姫はクルクルと回転しながら道行く人の中に憲助が居ないかどうか確認する。昨日のこの時間帯であった。そう、この辺で生徒手帳を拾ったのだ。だが、勿論生徒手帳は落ちていない。


月姫

「…ふぅ〜」


月姫はしょもんとした。憲助を見つけられなかった。この時間、この場所にもしかしたら憲助がいるのではないかと思いお化粧までした。憲助に会いたいが為に。憲助には自分の自信がある姿で会う為に。また会いたかった。今日も見たかった。ありふれた日常に花を咲かせたかった。太陽に向かって花開いた向日葵が、日が落ちて頭を垂れるように月姫も頭を垂れた。


ドン。


誰かにぶつかる。


月姫

「あ、ごめんなさい…」


憲助

「あ、月姫ちゃん」


月姫

「あ…!」


心にぱぁっと花が咲いた。会えた。今日も会えた。ハンサムに会えた。月姫の顔がとても明るくなる。


月姫

「おはようございます♪」


憲助

「ああ、おはよ。いつもこの時間に登校してるの?」


月姫

「そうですね。さっきのバスに乗って登校してます。憲助さんはこの近くに住んでるんですか?」


憲助

「うん。結構近くだよ。高校まですぐだから歩いてるんだ」


月姫

「へぇ。近いのはいいですね。羨ましいです」


憲助

「そう? バス通学も僕には新鮮な感じがするけどね」


月姫

「慣れると暇を持て余しちゃまいますね。どうやって時間を潰すか考えものです」


月姫はじーっと憲助の顔を見つめる。憲助はそれに気がつけばキョトンとして月姫を見つめる。


憲助

「今日は何処かにお出掛けするの?」


月姫

「あ、え? なんでですか?」


憲助

「ふふ、昨日より綺麗だなって思って」


憲助は微笑みながらそう答える。


月姫

「…そ、そんな…! ちょっと気分転換にお化粧をしてみようかなーって」


月姫は頬を紅く染める。昨日と違うことに気付いて貰えた。嬉しさにぴょんぴょん跳ね回りたい気持ちをぐっと抑える。2人は何気ない会話をすれば学校の前に着く。


憲助

「僕はあっちだから。またね、月姫ちゃん」


月姫

「…はい!えーっと…」


何を言えばいいのか返答につまる。勉強を頑張ってください?違う。明日もまた会いましょう? 違う。我ながら引き出しの少なさに辟易する。憲助が目をパチパチさせながら返答を待つ。


月姫

「…ま、また…お話、しましょうね」


ドキ、ドキ、ドキ、と鼓動が高鳴る。いやいや、攻めすぎではないか? 自分は女の子なのに、こんなに前衛的でいいのか? だがその気持ちに偽りはない。また会いたいし、お話したい。間違っちゃいないはずだ。しかし顔はボーッと熱くなる。ミスってしまったか? 大丈夫か自分。


憲助

「うん。勿論。またお話しよう」


憲助はニッコリ笑い、高校がある方へ歩いて行った。


月姫

「…ほっ」


月姫はホッと胸を撫で下ろす。憲助に変なふうに思われていなかったか。不自然じゃなかったか。意識しているように思われなかった。頭の中でそれらの言葉がぐるぐるすれば、自分の頭の中で反省点をチェック欄にチェックしていく。

何をやっているんだ自分は。おかしいぞ。憲助にあってから少し様子がおかしい。お化粧までして。登校時間を意識して。憲助を探して。偶然だ。偶然なのだ。憲助と会えたのは。今日だってたまたま会えた。明日会えるとは限らない。探しても見つからなかった。しょげながら不注意でぶつかってやっと見つけられた。偶然なのだ。


月姫

「…偶然?」


月姫は下駄箱で靴を履き替える。いや待てよ。それらが偶然ならば、【或いは運命なのではないか? 】そもそもどっちも似たようなものだ。偶然憲助に会ったのならば、そもそもコンビニで会うこともなかった。その偶然が3度立て続けに起こったのだ。偶然が3回起こるものなのか? もしかしてこれは運命なのではないか?


ド、ド、ド、ド…。


と心臓の鼓動が早くなってくる。席に着き、授業の準備を始める。ノートに描いたハンサムを見つめる。ハンサムが描かれているノートは数学なのだが、一時限目は歴史である。月姫はノートに描かれたハンサムを見つめ続ける。


月姫

「…」


どうしよう。今度会えたら、どうしよう…。憲助は自分の事をどう思ってくれているのだろうか。たまたま会っただけの、すれ違っただけの人物なのだろうか。ずるい、ずるいよ。何故女の子は自分から行動を起こしたら不自然なんだろう。もっとずっと一緒に居たいのに。もっとお話したいこと、いっぱいあるのに…。今度会えたらなんて言おう。今度会えたらどうやって関係を繋げよう。月姫は憲助のことで頭がいっぱいになっていた。ノートの最後のページにこれからの作戦を書き出していく。どうやって誘おう。どうやって話を繋げよう。どうやったら憲助との関係が進展するのか、場面と展開を分けて書き出していく。

月姫は全く授業を聞いていない。


放課後。


今日は雨は降らない。だが、足は自然とコンビニのイートインに向かっていた。さも当然のように月姫は席に座る。なんのために? 当然、ここで憲助が来るのを待っている。約束などしていない。ハッキリ言って来るかも分からない。頬杖つきながら外を眺める。学生達が登下校をしている所を横目に憲助が居ないか探す。いない。見つからない。憲助と同じ制服を着た生徒はチラホラ見受けられる。しかし憲助の姿はない。


月姫

「…はぁ、私何してんだろ」


流石に何も買わずに居座り続けるのは良くないと思い、ウォークインのコーヒーを引っ張り出せばレジへ向かおうとする。


憲助

「む?」


ああ、会えた。会えた会えた。会えてしまった。


月姫

「…あ、えへへ。偶然、ですね…」


月姫ははにかみながらそう答える。


憲助

「なんかよく会うね。たまたまなのかな?」


憲助はやや苦笑いしながら自分のコーヒーを取り出しレジへ向かう。


憲助

「奢ろうか?」


月姫

「いえ、大丈夫です」


憲助

「そっか。もう帰るの?」


月姫

「うーん。ちょっとそこで暇潰しでもしようかなって思って」


憲助

「そう。どう? 暇潰しにまたお話する?」


月姫

「はい!」


待ってましたと言わんばかりに月姫は承諾する。


月姫

「憲助さんは休みの日、何してるんですか?」


憲助

「勉強したり、ボクシング部の部活動に行ったりかな。日曜は友達と遊んだりしてるよ」


月姫

「ボクシング部なんですか。へぇ。強そう」


憲助

「まぁ、そうでも無いよ。まだ齧った程度だし。月姫ちゃんは何してるの?」


月姫

「…日曜は、私は暇してるかな〜。なんちゃって」


憲助

「そっか」


憲助はコーヒーをズズっとすする。月姫はジト目になりながら、いや、遊びに誘ってよ。と心中で憲助に念じたがそれは伝わらなかった。


さてどうすべきか…。


月姫

「実は…見たい映画があるんですよね」


憲助

「そうなの? なんて映画?」


月姫

「恋愛映画なんですけど、一緒に見に行く人が居なくって…」


大丈夫かこれ…。逃げ場なくないか? 流石に攻め過ぎではないか? 自分は女の子なのに、こんなに前衛的でいいのか? だが仕方あるまい。次いつ会えるかわかったもんじゃない。また会いたいし、一緒に映画を見に行きたい。確か兄が一緒に行こうと言っていたが、こっちは今後の人生がかかっている。致し方あるまい。


憲助

「映画かぁ…」


憲助は少し考える素振りをする。ダメか。まだ早いか。あって数日の小娘と映画を見に行くなんて気が早過ぎるか。流石にミスってしまったのでは無いかとしょげる。頭を垂れればコーヒー缶のプルタプをつんつんしながら押し黙ってしまう。


憲助

「…月姫ちゃん」


月姫

「…は、はい?」


憲助

「一緒に映画見に行く?」


月姫

「わ、はぁっ! はい! 行きたいです!」


ダメダメダメ。はいダメ。喜びすぎだって。意識していることがモロバレ。これは不味い。この態度が今後に関わってくる。折角承認して貰えたのに嬉しさが前に出てしまった。


月姫

「あ、ご、ごめんなさい…。ついつい声が上ずっちゃって」


憲助

「あはは、そんなに嬉しかったんだね。僕も嬉しいよ。じゃあ日曜日デートだね」


月姫

「デート…」


素敵な響きである。デート、デート。憲助とデート。これは偶然なのか? きっと偶然だ。偶然がたまたま重なったのだ。運命だなんて、そんな大袈裟な。月姫の心は嬉しさのあまりぴょんぴょん飛び跳ねている。自分も飛び跳ねそうになるのをぐっと堪えている。2人はその後ありふれた話をした後、家路に着いた。浮かれていることがバレぬよう、なるべく平静を保ちつつ、晩御飯を食べ、お風呂に入り、時間になれば部屋に戻る。月姫は顔を枕に填めながらキーっと声にならない声を上げて足をばたつかせた。日曜日が楽しみで仕方がない。その日はなかなか寝付けず、憲助との幸せな一時を噛み締めていた。

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