表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
36/76

第35話 理解

法助は鞄を持ち文化部の部室へ急ぐ。


法助

「…はぁ、はぁ」


銀子

「あ、法助」


海鼠

「惚気二等兵ですぅ〜」


天響

「法助二等兵はまだ惚気けてはいませんデス。海鼠先輩」


海鼠

「コラ!森永一等兵、私のことは海鼠副隊長と呼ぶです〜」


法助は雲母の姿を探す。しかし雲母はいない。


法助

「ご、ごめんなさい…! ここに常磐さんは来ませんでした!?」


銀子

「あの圧政者の事か? いんや? きてねぇけど?」


法助

「ありがとうございます!」


法助はすぐに部室から退散する。


天響

「あ、出て行ったデス」


海鼠

「恋のから騒ぎです〜」


天響

「から騒ぎって…法助二等兵からしたら大事なことかもデスよ?」


法助は急いであちこち探し回る。彼女がいる所…職員室? いない。生徒会室? 違う。トイレに行っていて教室に戻ったのか? 戻っていない。ならば何処へ?


胸騒ぎがする。まさか…。動悸が激しくなる。自分の足は屋上へと向かっていた。


法助

「はぁ、はぁ…!」


屋上を見て回る。他の生徒もチラホラ居り、各々食事を取ったり遊んだりしている。箱柳を探す。居た。【雲母も一緒にいる。】法助は慌てて駆け寄る。


箱柳

「あ、遅かったじゃん」


雲母

「…」


法助

「…あ、あの。常磐さん」


雲母

「法助…。箱柳さんの言っている事は、本当なの…?」


法助

「言っていること…? 今朝のことなら違う! 僕達は付き合ってはいない!」


箱柳

「私が言ってることを信じるかどうか、それは常磐さん次第かな。だけどね、法助だって辛いと思うよ。それをいきなり現れた常磐さんがまるで捨て猫を哀れんで愛でるように扱ったって法助は救われないと思う。ね? 常磐さん。どうすれば法助が幸せになれるのか、真剣に考えてみたらどうかな?」


雲母

「…」


雲母は押し黙った。箱柳に何を言われたというのか。


法助

「…常磐さん、常磐さん、常磐さん! お願い…! お願いだから僕を信じてくれっ!」


法助は雲母の肩を掴んで頭を垂れる。どうしようもないやるせなさに今にも泣きそうだった。何がどうなっているのか、雲母は何を言われたというのか。どうすれば信じてもらえるのか。ただただ信じて欲しい想いを雲母に伝えた。


雲母

「…法助、い、痛いよ…」


法助

「ご、ごめんなさい…」


箱柳

「常磐さん、良かったら一緒にお昼ご飯食べない? 貴女も法助と仲良しなんでしょ? 積もる話もあると思うし、ね?」


雲母は顔を背けてしまう。法助と顔を合わせられなかった。雲母は法助の手をそっと離す。


雲母

「ごめん、法助…。今はあなたと冷静にお話できそうにない…」


法助

「…な、なんで」


雲母は屋上から去ってしまう。追えない。追えっこない。初めて、初めて雲母に拒絶されてしまった。胸がキリキリと痛む。そして次第に頭に血が上ってきた。


法助

「箱柳…!」


さん付けをやめ、呼び捨てする。


箱柳

「ん。苗生でいいよ。私達もう付き合ってるんだから」


法助

「僕は君のことが、大嫌いだ。あんなデマを言って僕と常盤さんの仲をかき乱そうとする君を許せない。決してやっていいことでは無い。それに、僕は君の秘密を知ってるんだぞ? 僕がそれを常磐さんにバラしたらどうするんだ?」


法助は凄みながら箱柳を睨みつける。


箱柳

「デマじゃないよ。私、法助の事、本当に好きなんだから」


箱柳は弁当を2つ取り出す。


法助

「…僕は、食べないぞ」


箱柳

「…そう」


箱柳は寂しそうな表情をする。


箱柳

「私はね。常磐の事なんてどうでもいいの。深郁のリクエストなのよ。アイツを苦しめるのは。わかってくれる?」


法助

「分からない…。分かりたくもない…。もう行くから」


法助が踵を返そうとする。しかし箱柳が後ろから抱き止める。


箱柳

「…法助、常磐のことはもう諦めて。あいつは関わっていい相手じゃない。ね? 私を選んで。その方がいい。きっと幸せになれるよ」


法助

「やめろよ…!」


法助は払い除けようとする。


箱柳

「あっ」


箱柳は払い除けられれば後ろに倒れる。


法助

「…! ご、ごめん…!」


法助は慌てて箱柳を抱き抱えようとする。箱柳はすかさず法助の【唇にキスをした。】


箱柳

「…えへへ。ファーストキスだよ」


法助

「…ふざけるなよ!」


法助は箱柳を押しのければそのまま行こうとする。


箱柳

「…ねぇ! ここまでしたのに、行っちゃうの…?話も、聞いてくれないの…?」


法助はピタリと止まる。


法助

「…君は間違っている。それだけはわかる。僕達はきっとまともに話し合えたはずだ。でもそれを君は選ばなかった。それを君が否定したんだ。間違った方法で、誤った方法で、手段を選ばなかった。それが君の落ち度だ」


箱柳

「…こうでもしないと法助と普通に話せなかったから…。あんたはカチカチに固まって誰も信用しなかった。自分だけの世界に閉じ篭ってた。私だって考えたんだよ…? あんたと話し合える方法を。ずっとずっと考えてた。でも無理だった…」


法助

「…」


箱柳

「そんなどうしようもない自分がどんどん歪になっていくのがわかった。あんたに認められたくても、あんたと仲良くなりたくても、あんたに愛されたくても、その方法が分からなかった…」


涙声が混じる。法助は眉を下げてゆっくり振り返る。


箱柳

「法助…。ねぇ法助…? 私はあんたを残酷に、冷酷に虐げた。でもそんな自分が止められなかった。常磐と仲良くなってから気持ちだけが焦って、あんたを独占しようと躍起になってた。あんたを深く傷付けたかもしれない。嫌な思いをさせたかもしれない…」


法助

「…」


箱柳

「私はね、あんたを理解したかった。そして私の事を理解して欲しかった。そのきっかけが欲しかったの」


お互いを理解する。そのきっかけが欲しい。僕と雲母にとってはあの日の教室での出来事がそうだった。


箱柳

「…ごめんなさい」


法助は母親の言葉を思い出す。その子とよく話し合い、相手に自分のことを知ってもらって、自分も相手のことをよく知ること。その事が頭に浮かべば自分にも落ち度がなかったか考える。こうなった以上冷たく突き放すのでは問題解決にはならない。例え雲母との仲が修復したとして、箱柳を冷たく突き放したという事実は後悔として残る。それではあまりにも後味が悪い。そんな自分は好きになれない。自信を持つことなど出来ない。自分を信頼することは出来ない。


法助

「…わかった」


頭に血が乗っていたのが徐々に落ち着いてくる。


法助

「…僕達はお互いを良く知ろう。そうすればきっと考えも変わるはずだよ。君は僕に執着して、自分の心の在り方に目を向けられてなかったんだ。君の、その想いだけが先行して、どうやって正しいきっかけを作るべきか思い付かなかったんだ」


箱柳

「…」


法助

「箱柳、君が僕や常磐さんにした事を許してあげる。だから君の心の痛みに気付かなかった僕を許して欲しい。…どうだろう、僕達はここから初められないかな?」


法助は膝を付き、箱柳に手を差し伸べる。


箱柳

「…う、うぅぅ、ぁぁぁ…」


法助に抱きつけば堰を切ったように箱柳が泣き始める。辛かったのだろう。その辛さは自分には計り知れない。今は理解できない。僕は何より相手を思いやる余裕が無かった。相手を好きになる余裕が無かった。自分の生まれ持った性質や、置かれた境遇により仕方なくそうなったかもしれない。だがそれによって別の誰かに辛い想いをさせているという自覚も当然無かった。

酷なものだ。相手が辛く当たってくるから、相手と自分の間に線引きをして遠ざけるのは当然のこと。なれば歩み寄ろうとしてくる者が居ても近寄れるはずもない。次第に僕は暖かさを忘れ、熱のない石になってしまった。こうなったのも自分の所為、と言えばそうかもしれない。否定したいが否定しきれない。


だから…。


法助

「…」


法助は箱柳を優しく抱き寄せた。泣く子をあやす様に、寒さに震える相手を暖めるように、きっとお互いが分かり合えるように。


箱柳

「…ぐす、ぐす」


箱柳は鼻をすすり、法助を抱き締め返す。周りの生徒もそれをに注目し始める。冷やかしたり野次を飛ばしたりはしなかったが、2人から目が離せなかった。

僕は正しかったのだろうか? 間違っていたのだろうか? 彼女を、箱柳を遠ざけるべきだったのだろうか? どうすれば雲母と幸せになれたのだろうか? これでよかったのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ