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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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第29話 愛とは

法助

「…」


1時限目の授業を受けている。昨日、雲母が男と一緒に歩いて帰っているのを目撃してしまった。しかし今朝普通に挨拶を交わそうとしてきた。見間違えだったのか? いや、雲母を見間違えるような事はしない。


法助

「…ぐず」


思い出せば涙が出てきた。鼻水まで出てくる。ティッシュを持ってなかったか確認する為おもむろにポケットに手を突っ込むと【雲母のハンカチが出てきた。】


法助

「…あっ」


玉菊

「うん? 水鳥くん、どうしたの?」


法助

「いえ、なんでもありません」


つい大きめの声が出てしまう。このハンカチ、返し忘れていた。サッと机の中に隠す。何故隠す? 隠す必要などないではないか。ちゃんと返してやればいい。彼女のものなんだから。


法助

「…」


法助はハンカチをじっと眺める。なぜ返し忘れたのかを思い出す。デッサンの絵を雲母に見せていた。その時、雲母は箱柳に似ているとズバリ当ててしまった。その後雲母に何故学校に残っていたのか聞いた。


法助の頬が熱くなってくる。その後、彼女に手を握られた。


【私があなたを守ってみせる。】


法助の目から涙が溢れてくる。嗚咽が漏れそうになるのを必死でこらえる。ダメだダメだ、思い出してはいけない。何故何故、何故なのか。何故こんなにも胸が苦しいのか。僕が何をしたというのか。何故諦めさせてくれないのか。自分には無理だと、届かぬ存在だと心をへし折ってくれないのか。以前ならば不貞腐れて彼女を恨み憎むことも出来たはずだ。なのに、何故こんなに心が熱いのか。彼女はなんなんだ。僕のなんなのだ。


叫びそうになる。手を、離してくれない。彼女がまだ手を握ったまま離してくれない。離してくれない、離してくれない、離してくれない、離してくれない…。


法助

「…あ、うぅ、ぐ…。あぐ…」


胸が苦しい。まだ癒えていない。胸が締め付けられる。諦められない。胸が張り裂けそうになる。堪えきれない。


はっと気付く。


雲母

「…」


雲母と目が合った。見られてしまった。不味い。血の気が引いていく。固唾を飲む。泣いているのを見られてしまった。息が荒くなる。


目を瞑る。【相手が視界から消えたら死んだと思うことだ。】森の中で倒れた木は誰にも認識されていないのなら、そもそも倒れていない。なら雲母を認識しなければそもそも存在しないのだ。


法助

「…」


ハンカチに手が触れる。余計悲しくなってきた。馬鹿か僕は。そんなわけがあるはずは無い。


法助

「…ぶふ」


ちょっと吹き出してしまった。


玉菊

「…水鳥くん、やっぱり何か…」


法助

「…か、花粉症なんです。ごめんなさい。涙と鼻水が止まらなくて」


法助の発言に他のクラスメイトも吹き出す。何とか乗り切れた。


お昼休み。法助はデッサンと模写の絵を持って席を立つ。昼ご飯も文化部、あそこで食べよう。雲母の視線を感じるだけで涙が溢れそうになる。ふと彼女の席の方をちらりと見る。いない。何処かへ行ってしまったようだ。


法助

「…ふぅ」


そっと胸をなで下ろした。身が持たない。正直かなり堪える。彼女が視界に入れば心臓が締め付けられるように痛む。こんな経験をまさか自分がするとは思わなかった。あまりにもあんまりだ。人生何が起こるか分からない。きっと時間が解決してくれる。彼女をゆっくり忘れていこう。それがいい。雲母に思い入れすぎた。特別視しすぎた。いつも意識していた。故に視野が狭くなったのだ。彼女しか見えなくなった。


法助

「…」


廊下を歩きながら外を眺める。僕は雲母に相応しい存在になりたいと思った。そして遠ざけ気味になっていた。弓道部の誘いも断った。あんなにも心配してくれていたのに。雲母の制止も聞かず空手部に入部した。あんなにも大事にしてくれたのに。雲母のお陰で前に進めたのに。僕は、恩知らずもいい所だ。


法助は文化部の部室のドアを開ける。


法助

「…失礼します」


銀子

「お、来たな」


海鼠

「お待ちかねですぅ」


雲母

「待ってたよー」


天響

「いらっしゃいデス」


法助

「あはは、そんな大袈裟な…っ!?」


法助は目を疑う。雲母がそこに居た。何故文化部の部室に雲母が居るのだ?


法助

「…あ、う」


法助は頬を紅らめそっぽを向く。


雲母

「銀子部長、このように法助の様子がおかしいんです」


銀子

「ふん、圧政者め、何自然に馴染んでやがる。要件が済んだらすぐ帰りやがれ」


天響

「昨日からデス。なんか頭いたそうでしたデス?」


海鼠

「外からヘッドショットされたんですね〜」


法助

「花粉症なんだ…。気にしないで…」


雲母

「私から花粉が飛んでるのかな?」


雲母がくんくんと自分の身体の匂いを嗅ぎ始めた。違う。違うんだ。


法助

「…」


埒が明かないので法助は銀子に提出物を提出する。


銀子

「お、ちゃんと描いてきたな」


銀子が提出物に目を通す。すると雲母もヒョイっと身を乗り出しそれを見ようとする。


法助

「あ、あ、うぅ」


銀子

「なぁに見ようとしてんだ!」


法助が慌て出せば銀子がスっと引っ込める。


雲母

「え、何? まさか、恥ずかしいものを描いたの…?」


雲母が怪訝な表情をする。違う違う違う。


法助

「常磐さん…」


雲母

「うん? 何?」


キョトンとした表情で法助を見つめる。違う、違う、違う、違う。法助は、堪えられなくなった。


法助

「常磐さん、僕達…少し距離を置かないか」


手は自分の胸を握り締めている。心臓の鼓動は高鳴り続ける。目の前に雲母がいるだけでこの鼓動はそのまま潰えてしまいそうだ。こんなにも恋しいのに、愛おしいのに、苦しい。


雲母

「…ど、どうして…?」


愛とは、こんなにも辛いものなのか。

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