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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
3/76

第2話 苦渋の選択

法助

「…」


法助は相手にせず日誌をつらつら書いていく。男子生徒は無視され更に怒りが増した。


男子生徒

「おい、聞こえなかったわけじゃねぇよな。堂々と無視か」


女子生徒

「もうやめてよ。マジウザイって」


女子生徒2

「わざわざ聞くことでもないじゃん。アイツは誰にも興味無いって」


男子生徒

「そりゃそうか。コイツが誰か好きになるはずなんてないよな」


いちいち突っかかってくるコイツらには嫌気が指してくる。何故放っといてくれないのか。


男子生徒

「おい。日誌は明日書くもんだろ。今書くんじゃねぇよ」


男子生徒がこちらにやってくれば法助の日誌をひったくった。


男子生徒

「コイツも嫌なこと押し付けられて適当書いてやがんだ。こういう卑怯なやつが社会人になってから内部資料を適当に改竄したり横領したりして会社の足引っ張るに違いない」


法助は流石にムカッと来た。それこそお前に関係ない事だろうと。例えそうだとしても同じ会社に入る訳でも無いのに。どうせクラスの皆やっている事をわざわざ自分が悪いかのように指摘しだした。


男子生徒

「もう大分書き終えてるな。ホースケ、教室状況・清掃状況は良好なのか? 明日の事がもうわかってるんだな。まぁお前が掃除するんだもん。そう書くわな」


法助はハラワタが煮えくり返ってきた。わざわざ絡んできて日誌の内容にイチャモンを付け始めた。確かに今しがた渡されたものを今書いた。だが他のページを見返してみてもそう変わらないものだ。自分がイジメられていようがその教室状況・清掃状況は良好で皆見て見ぬ振りだ。


法助

「…返してくれないか?例えどんな日誌になっていても他の日も変わらないだろ。ちゃんと書いてる分まともだと思うんだけど」


男子生徒

「返して欲しいか? だが嘘つきには罰を与えなきゃいけないよな。さっきはよくも無視してくれたなホースケ。傷付いたぞ?」


法助

「もし明日違う内容になったら書き変える。嘘と決めるのは提出してから先生が判断することだから、嘘つき呼ばわりはやめてくれ。あと僕に好きな女の子はいない。さぁ、これでいいだろ?」


男子生徒

「いいや。よくないな。何さらっと当然のように先生が判断するって決めてんだよ。この日誌はみんなの目に触れるものだ。だから間違いがあったら不味いよな?今後こういうことをしないようにお前を躾なきゃならない。俺も心が痛いよ」


法助

「…チッ。何が躾るだよ」


法助は小声でこぼした。


男子生徒

「また舌打ちしやがったな。おいホースケ。前々から思ってたがお前他人を舐めてんだろ」


法助

「舐めてない。自分と他人を線引きしてるだけだ」


男子生徒

「はは、線引きだって? 俺とお前の間に線があるのか?ほらほら、越えてきたぞ。何かしてみろよ」


男子生徒は法助の頭をゴスゴスと小突いた。法助は男子生徒を睨みつける。


男子生徒

「お前がそういう態度を取る限り教室状況は変わらねーぞ。みんな日直が回ってくる度に日誌に嘘を書くことになる。仕方無しにみんなお前に合わせてんだ。いい迷惑だよな?」


流石に男子生徒に対する同意の声は上がらなかった。明らかに楽しんでいる男子生徒に対し周囲の空気は若干引き気味であった。その空気を感じ取ったのか男子生徒は法助の胸倉を掴む。パンッ! と日誌が地面に落ち音を立てた。


男子生徒

「おい、俺が悪いみたいになってんじゃねぇかよ…。どうしてくれんだ!」


法助は目を伏せ返事もしなかった。今日も今日とて嫌な思いをさせられた。昨日は唾を吐きかけられ今日は胸倉を掴み一方的になじられた。どんどん生きているのが嫌になってくる。


法助

「ならどうしたらいいんだよ。僕は何もしてないじゃないか」


男子生徒

「どうしたらいいか…? ならさっきの質問に答えろ。アイツが好きかどうかだ」


法助は立ちくらみがした。一時の気の迷いのような発言をコイツは執拗に正当化させようとしてくる。なんだかんだでコイツもギリギリなんじゃないのか?


法助

「好きじゃない」


男子生徒

「ほー。だが答えが違うな。俺はお前にアイツが好きじゃないかと聞いたんだ。なら好きだと答えるのが筋じゃないのか?」


女子生徒2

「もうやめなよ。そんな事してどうなるの?」


男子生徒

「黙ってろ。今ホースケと話をしてんだ。ホースケ。アイツが好きじゃないってんなら誰が好きなんだ?言ってみろよ。お前のママか?」


法助

「…グッ!」


法助は男子生徒の手を押しのけようとした。母親を好きだと言うのは自分の中で最も屈辱的な答えであったからだ。それを言うのだけはイヤだった。


男子生徒

「抵抗してんじゃねぇよ!」


男子生徒は法助の左頬を殴った。男子生徒の頭にも血が登りもう引っ込みがつかなくなったようだ。法助は頭が真っ白になる。殴られた。確かに痛かったが、痛いというよりも言い返す気力も抵抗する気力も今ので失われてしまった。

周りを見渡す。誰も止めには入らない。コイツと僕がこの教室の中注目されている。まだ昼休みになってから20分程度。先生が来る気配もない。


男子生徒

「誰が好きなんだよ! 言ってみろコラ!」


そんなに怒って聞く事でもないだろうとむしろ笑えてきた。弛緩した思考はコイツ馬鹿だなぁ、と第三者視点で思いつつ、法助はクラスを見渡す。昨日よりも皆が注目している。誰も止めやしない。この状況のままずっと残り20分程度このまま何も答えずにいる事も考えた。しかし法助は既にどうでも良くなってきていた。自分の中にある倫理観や体裁なんかあってないようなものだと思い始め、なんなら適当に好きな相手を言った方が早く解放されるんじゃないか。我ながらクズな選択だと思いつつ【教室状況を判断する。】


男子生徒

「なにニヤニヤしてやがる。気持ちわりぃ」


法助

「なにって。好きな相手が知りたいんだろ?言ってやるよ」


男子生徒

「居ないって言ってたのは嘘だったんだな…?まぁそんな事はいい。誰が好きなんだよ。言ってみろよ」


法助

「…常磐、雲母さんだ」


男子生徒

「…ぷ、くくく」


男子生徒はクスクスと笑いだした。周囲の何人かのクラスメイトもクスクスと笑い始める。


男子生徒

「まぁ、そうだな。悪かった。そりゃあ言えねーよ。お前の感性はまともだ」


当の本人を見てみる。こちらに振り向きもせずお弁当を食べている。何とか乗り切った。殴られたものの母親が好きだというよりもまだマシな答えを言って事を荒立てずに済んだ。【そう思った。】


男子生徒は満足したのか自分の席に戻って行った。法助は日誌を拾いため息をつく。今書けばまた因縁をつけられるかもしれない。午前の授業で出た宿題を残り時間に費やすことにする。


授業が全て終わり掃除の時間になった。毎日のように掃除を押し付けられる。クラスメイトが全員居なくなったのを確認すれば掃除を開始する。しかし常磐雲母は自分が好きだと言われて振り向きもしなかった。もう慣れっこなのかもしれないし、自分のような存在にどう思われていようが関係ないのかもしれない。それ以上彼女に対して考える事もなかった。さっさと掃除を終えてしまおう。

教室中のゴミを掃き、掃除ロッカーの前に集める。そして塵取で回収すれば毎日パンパンに溜まっているゴミ箱へ捨て、ゴミ袋を引っ張り出す。ゴミ箱に新しいゴミ袋を取り付ければ取り出したゴミ袋の口を結んでゴミステーションに持って行こうと振り返ったその時、【教室の真ん中に常磐雲母が立っていた。】


法助

「あ、えっ!?」


法助は驚いた。常磐雲母はこちらをじっと見据えている。目の下に泣きぼくろがあり、整った顔立ち。スタイルも良く身長もそれなりに高い方である。ポニーテールに結ばれた長い髪はシュッと整っている。その目は切れ長で本人の艷めきを更に際立たせている。普段なら多少驚く程度であったが今日の今日だ。本人はこっちをしっかり見据えている。間違いなく何かを言うつもりをしている。法助は何かの間違いかもしれないと教室を出ようとした。


雲母

「水鳥さん」


ドキッとした。呼ばれてしまった。反射的に反応してしまったため無視は出来ない。今日の事を言われるのは間違いない。


法助

「…あ、今日のお昼。すいませんでした」


雲母

「何故謝るんですか?」


法助

「咄嗟に好きな相手を言われて常磐さんの名前を口にしてしまいました。…迷惑だったよね?」


雲母

「いいえ? 別に」


法助は驚いて目を見開いた。【別に】と言った。自分に気があるのか? いや、違う。なら日誌の事か? 適当書いたから指摘されるのではないか?


法助

「では…なんの用ですか?」


雲母

「いえ。しないのかと思って。告白」


法助は頭が真っ白になった。告白をしないのか?と問われた。たしかに好きだと言ったがあの状況で仕方無く言った、というのを彼女は読み取れなかったのだろうか。


法助

「常磐さん。僕は常磐さんのことを…好きではないんだ」


雲母

「そうなんですか。分かりました」


雲母はそういうと踵を返し教室へ出ようとする。あまりにあっけない返事だったので法助は止める。


法助

「あ、ちょっと」


雲母

「はい?」


雲母は立ち止まり振り返る。法助は次の言葉を出したらいいのか出さないのがいいのか気になり沈黙する。雲母は法助の答えを待っている。


法助

「どう、思いました? 僕に好きだと言われて」


雲母

「水鳥さんに好きだと言われてどう思ったかですか?」


法助はゴクリと息を飲んだ。なぜこんなことを聞いたのか自分でも分からない。そしてそのままの言葉を雲母が返したことに若干違和感を感じた。


雲母

「特になんにも?」


法助

「…なんにも?」


雲母

「あなたのことは好きじゃないし、好きと言われたからどうと思う事もないです。ときめきもなければ怒りもありません。だから告白をされたならちゃんとお返事をしようと思っていました」


法助

「…あはは、はは。そうなんですか。まぁ、特に気にしてないようで安心しました…」


法助はコイツ変わってると思いつつ、なら聞くだけ聞いてみようと思い雲母に聞いてみた。


法助

「所で僕が今常磐さんに告白したならどうお返事を返していたんですか?」


雲母

「断ってましたよ」


法助

「ぷ、そうですよね」


法助は話が済んだと思いゴミ袋と自分のカバンを持つ。


雲母

「付き合いたいですか?」


法助

「あ、え?」


雲母

「私と付き合いたいですか?」

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