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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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第28話 罰

雲母は落ち込んでいた。テストが上手くいかなかったのだ。常に学年トップをキープしていた成績がガクリと落ちてしまった。原因はわかっている。ゲームの楽しさを知ってしまったからだ。


雲母

「はぁ…。やっちゃった…」


勿論ゲームが悪い訳では無い。普段触れていないものに触れてしまい夢中になってしまった。それも取り返しがつかないテスト期間中に。そして母親に日曜日外出していた事を詰められた。


「おはよう」


背の高い爽やかな男性が雲母に挨拶をする。この男子生徒は3年生の生徒会長、常磐琥珀(ときわこはく)。雲母の従兄弟である。


雲母

「あ、おはよう」


苦笑いをしつつ挨拶をする。


琥珀

「まさか僕が雲母の監視を命じられるなんてね。おばちゃんには参ったよ」


雲母

「暫く部活動を自粛しなさいだなんて酷いよね…。確かに成績が落ちちゃったけど別に琥珀兄さんを巻き込む必要はないじゃない」


頬を膨らませて顔を顰めた。


琥珀

「いや、まぁ部活動を辞めろとまでは言われなかったのはラッキーかもよ? 次のテストまで頑張って勉強して成績を取り戻せば何とか上手くいくと判断した結果じゃないかな」


爽やかに琥珀は答える。口調は兎も角、その内容は中々手厳しいものである。自分の処遇は当然のもので母親の下した罰はまだ温情があると判断した、とも捉えられる。


雲母

「でももう中学2年生だよ…? 少し異常だよ」


雲母はしょんぼりと項垂れる。


琥珀

「仕方ないよ。僕達は完璧を目指さなきゃいけないんだ。それも遺伝子レベルで決定付けられたこと。優秀かつ容姿の優れたパートナーを見つけて後世に紡いでいかなくちゃいけない。だから一般教養で躓いてちゃダメ。その為には高い地位について優れていることの証明が必要なんだよ」


毅然とした態度でそう言い放つ。この人はまるで男性の姿をした自分の母親だ。流石お目付け役に選んだだけはある。自転車で登校する事を禁じられて琥珀と徒歩で学校まで歩かされる。


雲母

「…私、普通がいい」


雲母の母親はクラスメイトと関わりを持つことを否定している。義務教育で仕方なく一般家庭の生徒と同じ授業を受けさせているとはっきりとそう言われたことがある。


琥珀

「雲母、これから辛い時代が必ずくる。雲母の言う普通ではまともな人生を歩むことすら出来ない。なら僕達に出来ることは自分の血を分けた子供達が豊かに生活出来る環境を整えてあげることだ。それは理解出来るね?」


【理解出来るね? 】明らかに自分より下のものに言い聞かせているような口振りである。態度や姿勢、表情は自然そのものである。琥珀は相当女性に人気があるであろう。しかし当人は交際を持ち掛けられたとしてそれを全て断っている。


雲母

「琥珀兄さんは辛くない? 息抜きしたいと思わないの?」


琥珀

「そりゃあ遊びたいとは思うさ。だがそれは今じゃない。いずれ時間が有り余る時がくる。その時になれば僕達が好きなことをすればいい。雲母は育児に一生懸命になるのもいいし、仕事に打ち込むのもいい。雲母の旦那がお金を稼げたなら子供に専属の教師を雇ってもいい。そうなれば自分の時間が作れる。どう? 合理的じゃないか?」


雲母

「まぁそうかもね…。その点に関しては疑問に思ったことはないよ。…じゃあさ、好きな人とか、出来たことは無いの?」


琥珀

「ないよ」


雲母

「え?」


琥珀

「好きな人が出来たことはない」


琥珀は笑顔ではっきり言い放った。雲母は少し停止する。琥珀は気にせず歩み続ける。


雲母

「…そっか。ないんだ」


琥珀

「今まで僕が魅力的に思えた女性はいないかなー。まぁそれも都合がいいのかもね。僕にはいずれお見合い相手をあてがわれるだろうし。僕自身それでいいと思ってる。どうしてそんな事聞くの?」


雲母

「あ、いや…。この機に琥珀兄さんの事を知ろうと思って…?」


雲母は上目遣いでチラリと琥珀を見つめる。


琥珀

「…ふーん。そっか。所で最近雲母が男子生徒と帰ってるのを見たって子がいるんだけど、それはホント?」


雲母

「え? あ、うん。友達だよ。優しくていい子なの。今度また私の絵を…」


琥珀

「その子ともう会わない方がいい。いや、関わっちゃダメだ。雲母はもしかしたらその子に影響を受けてるのかもしれない」


琥珀がピシャリと言い放った。


雲母

「な、なんで? 全然そんな事ないよ…。その子は生徒会の仕事を手伝ってくれてるだけだもん」


寧ろ弓道部の森永天使の悪い影響受けているのではないかと思いつつある。しかしどうであろうか、法助とは幾許か心の繋がりを感じる。認められている。頼られている。必要とされている。それは外見や能力からではなく、自分自身そのものを必要とされているような気がするからだ。法助と居ると心地が良い安心感がある。もしかすればもっと羽を伸ばしてもいいかもしれないと思わせてくれているのも法助なのではないかと。それに…。


琥珀

「…雲母、異性は同性の相手との付き合いとは訳が違う。雲母にとって確実に何かしらの影響を与える可能性がある。それも思春期の僕達にとって大きな枷になってしまうかもしれない。もう一度言うよ。その子は雲母にとって良くない影響を与えているかもしれない。関わり合うのを辞めるんだ」


雲母

「…大丈夫だよ。私、そんなやわじゃないもん。他人に影響されるぐらいならとっくにされてる。もっと歪に折れ曲がってるはずだよ。それにその子は私のことを必要としてるんだ。見捨てることなんて出来ないよ」


琥珀

「どういう事だい? 必要としている…? 恋人として?」


雲母

「…違う、と思うけど…琥珀兄さんには関係ない話だよ。琥珀兄さんはお母さんから私が弓道部に行かない事を監視するよう言伝られた。その男の子との関係は琥珀兄さんには関係ないはず。それは理解出来るよね?」


琥珀が目を見開いた。一瞬表情が凍りつくもののすぐ元に戻る。雲母はそれを見逃さなかった。


琥珀

「…ま、それもそうか。ちゃんと成績を戻せば僕も文句はないよ」


学校に到着する。


琥珀

「それじゃあ帰りもちゃんと待ってるんだよ」


雲母

「分かってるよ。じゃあね琥珀兄さん」


雲母が昇降口に入る。すると朝練から上がってきた法助と鉢合わせする。


雲母

「あ、おはよー」


雲母が笑顔で法助に挨拶を告げる。


法助

「…!」


法助が胸を抑え苦しそうにする。


雲母

「ど、どうしたの!? 大丈夫!?」


雲母が肩を貸そうとする。しかし法助にそれを拒否された。


法助

「…だ、大丈夫だよ。ありがとう常磐さん」


眉を下げ落ち込んだ表情。雲母と目を合わそうとしない。


雲母

「本当に大丈夫…? 保健室、行く?」


法助は頭を横に振り上履きを履いた。


法助

「…僕は大丈夫だから。…なんでもないから」


何かよそよそしい態度が目に付く。どうしたというのだ。


雲母

「…また誰かにやられたの?」


法助

「…ちがう」


雲母

「部活、大変だったの?」


法助

「……ちがう、よ」


少し涙ぐんだような声が混じる。


雲母

「…そう」


ちがう。ちがうというなら何故なのか教えて欲しい。何故そんなに辛そうなのか。自分はその理由を聞くに足る存在ではないのか? 雲母は少し寂しい気持ちになった。

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