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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
28/76

第27話 水鳥法助の世界

テストが終わり法助は文化部の部室へ向かう。


銀子

「お、来たか」


天響

「テストお疲れ様デス」


海鼠

「お待ちかねなのです〜」


法助

「これ、描いて来ました」


法助が銀子にデッサンと模写を提出する。


銀子

「アニメっぽく描いてるな。もっとリアルに寄せてもいいんだぞ」


法助

「いえ…まだちょっと自信が無くて。ついアニメっぽく描いてしまいました」


銀子

「なら次の課題はなるべくリアル寄りの絵を描くこと、だな。ちなみにこのモデルは誰なんだ?」


法助

「クラスメイトですね。…何故かモデルになりたいと」


銀子

「そいつお前にホの字じゃね?」


法助

「ぶっ…!」


法助は思わず吹き出してしまった。


海鼠

「案外隅におけないですねぇ、法助二等兵は」


法助

「い、いや、それは違いますよ…! そんなはずは、有り得ません…」


銀子

「嫌に否定するな。髪型的にこないだの副生徒会長とは違うみたいだし、お前女の子の友達が多いのか?」


法助

「…僕にも分かりません」


文化部女子3名は顔を見合わせた。本人がこう言っている以上何かしらの話は引き出せそうにない。


銀子

「まぁ、いいモデルが見つかったじゃねぇか? 生身の人間が手伝ってくれるって中々幸せな事だと思うぞ。オレはモデルなんて嫌だからな」


海鼠

「銀子隊長絶対モデルになってくれないんですぅ。困った隊長です」


天響

「背が低いのが恥ずかしいデス。誰もそんなこと気にしてないデス」


銀子

「うっせぇ! おめぇらは部長の命令を素直に聞いてりゃいいんだよ。後妙な勘繰りをするんじゃねぇ。法助に勘違いされちまうだろうが!」


海鼠と天響は呆れて肩を竦めた。


銀子

「さてと」


銀子が立ち上がる。


法助

「どこか行かれるんですか?」


銀子

「部活動報告を提出しなくちゃいけねぇ。あのうるさい副生徒会長さんに念を押されたから仕方なく、だがな」


法助

「ははは、そうですか」


銀子

「お前らもついてこいよ。どうせ暇なんだから」


海鼠

「暇は一言余計ですがついて行きますです〜」


天響

「…先生に何か言われないか心配デスネ」


銀子

「何も気にするこたァねぇ。どーんと構えてやがれ」


法助も銀子と共に職員室へと向かう。


銀子

「あ、玉菊先生」


銀子と海鼠が前に出る。


玉菊

「あら? 銀子ちゃんと海鼠ちゃん、え? 法助くん? なんで?」


法助

「あ、先生。僕兼任で漫画研究…文化部に入ることにしました」


玉菊

「友達が増えたみたいね…。とても良い事だわ。よく頑張ったわね」


銀子

「ん?やけに手厚いな」


玉菊

「いえ、なんでもないわよ。部活動報告書ね。受理しておくわ」


銀子

「…ドキドキしたぁ…。何も言われねぇで済むんだな」


銀子が胸をなで下ろした。


玉菊

「ここで何か言ったところで仕方ないじゃない。ちゃんと提出して、結果を出したなら文句は言われないわよ。これからも頑張ってね」


銀子

「ん? 結果なんてまだ出てないが?」


玉菊

「部員が増えたじゃない。漫画もちゃんと描いてるみたいだし。何も大会に出ろとか、入賞を目指せとかそういうんじゃないのよ。勿論そういう部活の方が人も入りやすいし、生徒総会でも予算も割けるけどね」


銀子

「ま、何はともあれ問題はなかったみたいだな。じゃ、さっさと帰るか」


法助

「お邪魔しました」


海鼠

「ありがとうございますですぅ」


天響

「ありがとうデスー」


玉菊

「森永さんもいたのね…。天使ちゃんをよろしくね」


天響

「…よろしくされても困るデス〜」


4人は職員室を出る。


銀子

「ふぅ、初めて部活動報告書を提出したぜ」


法助

「…それってまずいんじゃ」


銀子

「今まで何も言われなかったからな。別に出さなくて良いもんだと思っちまってよ」


天響

「副生徒会長様に言われてお尻に火がついたデス〜」


4人はおしゃべりしながら文化部の部室へ戻ろうとする。ふと法助が窓の校舎の外に目線を落とした。


ズガン。


頭の中で何かが響く音が聞こえる。法助はその光景に釘付けになってしまった。


天響

「うん? どうしたデス?」


【常磐雲母とうちの学校の制服の男が一緒に歩いている。】常磐雲母は楽しげに笑っている。その隣の男も笑っている。


銀子

「…ん? おい、青ざめてるぞ?」


法助

「…」


口の中がカラカラに乾く。世界が左右に揺れる。胸から何か大量に溢れ出す感覚を覚える。【世界が次第に赤く染まっていく。】身体から血の気が引いていく。グッと後ろに引かれるような感覚がすれば法助はくらっと立ちくらみがした。


海鼠

「法助二等兵、どうしたですー? 頭痛いです?」


法助

「…はぁ、はぁ、いえ…。なんでもありません」


まだ外の光景に目が離せない。法助は頭を抱える。【嘘だ嘘だ嘘だ。これは現実じゃない。なにかの間違いだ。】ギュルギュルと視界が萎んでいけば足が震え出す。


天響

「法助二等兵…」


法助

「ご、ごめんなさい…。僕、先に上がります」


吐き気を催すドス黒いものが胸から溢れ出てくる感覚を覚える。胸の不規則な鼓動を鎮めるために手で胸を握り締め、抑えようとするもとめどなく水鳥法助の世界を覆い尽くしていく。


【常磐雲母が男子生徒と歩いていた。それも楽しそうに。】


法助はカバンを回収すれば直ぐに自転車庫へ向かう。自転車に乗り込めば家路につく。


一瞬だけ、向かいの道路を歩く雲母と男性が横目に見えた気がした。雲母が気付いたかどうかは分からない。


この胸の異常を早く鎮める為に家に帰り、布団に潜り込まねば。さもなくば【自分が壊れてしまう。】


家に帰れば直ぐに部屋へ入る。まだ誰も帰ってきていない。部屋を真っ暗にすれば布団に潜り込む。


法助

「…はぁ、はぁ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…。なんでなんだ…」


法助は内心思っていた。雲母程の女の子、他の男と付き合っても仕方がない。僕は彼女と付き合っている訳では無い。彼女は僕の友達だ。だからこれ以上期待してはいけない。彼女は、彼女は、彼女は…。


法助

「…う、う、う、あう、ああう…ぐずっ、ぐず…」


法助の目から涙がこぼれる。熱い熱い涙が零れる。こんなにも胸が抉られるとは思わなかった。こんなにも辛いとは思わなかった。微かに望んでいた。彼女との幸せな可能性を。彼女との幸せな未来を。ほんの少し、ほんの少しの期待。ほんの少しの希望。ほんの少しの、明るい明日を。


法助

「…あああ、ああああぅ、ああああ…」


彼女が居たから世界に色が生まれた。彼女が居たから世界に光が生まれた。彼女が居たから明日が恋しかった。彼女となら乗り越えられる気がした。彼女となら、飛べる気すらした。彼女が、彼女が重たかった身体を軽くしてくれた。


法助の胸はバラバラになりそうだった。無惨に身体が引き裂かれるような気すらする。だが体は五体満足でまだ生きている。心臓も動く。だが息をするのも辛い。吸い込む空気が喉を、肺を焼き尽くすような痛みを感じる。


法助

「…はぁ、はぁ、うぐ、…ごほ、ごほ…」


死ぬ。このまま死ねるものなら死んでしまいたい。だが死にたくない。彼女を、心から求めている。彼女が欲しい。常磐雲母が欲しい。僕は、僕は常磐雲母が欲しい…。


法助

「…彼女は…」


常磐雲母は光だった。僕を泥の淵からすくい上げてくれた。大袈裟かもしれない。思い込み過ぎかもしれない。だがそれほどまでに自分に価値がなかった。【泥の底から引き上げてくれたのは常磐雲母だ。】


法助

「…彼女は…」


常磐雲母は世界だった。僕の世界に色を与えてくれた。大袈裟かもしれない。馬鹿げているかもしれない。だがそれほどまでに世界に価値がなかった。【世界の素晴らしさを、暖かさを教えてくれたのは常磐雲母だ。】


法助

「…常磐さんのいない世界なんて、僕には考えられない…」


ドク、ドク、ドク、ドク、ドック…。心臓の鼓動が落ち着いてくる。まだ生きている。水鳥法助はまだ生きている。こんなにも、産まれてきたことを後悔するほどの苦痛を感じてもまだ生きている。息を吸っている。目が見えている。


法助

「…」


法助はヘッドホンをつけて好きな曲を聴く。目からは涙が溢れ出続ける。法助は安堵した。強烈な感情の起伏に気付かされたことが1つある。


僕は常磐雲母を愛している。

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