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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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第25話 蛇のように潜んで

安栖里

「あらら、悪質ユーザーに絡まれちゃったのね」


雲母は辛気臭そうな顔でモニターとにらめっこしている。


安栖里

「どうする? バックアップを復元する?」


雲母

「…それは動画撮影前の状態に戻すってことですか? だ、だめです!」


安栖里

「なんで? また作り直すのは手間だよ?」


雲母

「悪質ユーザーに会う前に他のユーザーさんからプレゼントや資材、メッセージを受け取ってるんです…。それまでなくなっちゃうのは悔しいです」


安栖里

「あー、なるほどね。ま、こんなこともあると思って仕切り直しなよ。落ち込まないでね」


雲母

「…はい、大丈夫です。でも…悔しい。ゲームってこんなに悔しいものだったんですね」


安栖里

「みんなそうやって慣れていくんだよ。切り替えていこう」


天使

「ふー、終わった終わった」


天使が伸びをすれば腰に手を当て雲母の方へ歩み寄ってきた。


天使

「どうしたの?」


安栖里

「ん、これみてあげて」


安栖里は言葉で説明するより動画を再生させ天使に視聴させた。


天使

「何よこいつ…。動画を盛り上げるだなんて言って雲母ん家ふきとばしてんじゃない。いい迷惑だわ」


雲母

「まあ、こういう人もいるって勉強になりました。次からはもう少し頑丈な家に…」


天使

「何言ってんの」


天使はぴしゃりと言い放った。


雲母

「え?」


天使

「あんたはこれからこいつにぎゃふんといわせるために準備すんのよ。安栖里、こいつにPotti貸してやんなさい」


安栖里

「ええ、Pottiを? …別にいいけど」


雲母

「え?ぽっちとはなんですか?」


雲母は頭を傾げた。


天使

「携帯型ゲーム機よ。これで土曜日の休みのうちに悪質ユーザーを撃退できるようにタウンを仕上げてくるの。やるわよね?」


雲母

「安栖里さん、Potti、貸してくれるんですか?」


安栖里

「ああいいとも。見事復讐を成し遂げてくれたまえ」


雲母

「…はい!」


雲母はPottiにデータを移せば家に持ち帰った。雲母は初めて家でゲーム機を触った。母親にバレないよう帰宅した後と翌日の土曜日、携帯サイトでタウンクラフトの対人攻略法を学び自分なりにアレンジを加え、罠や装備を整えていく。動き方や道具の性質を理解し、一生懸命自分のタウンの作成に励む。


雲母

「…できた」


土曜の晩、ようやく納得のいくタウンまで仕上げることができた。心には穏やかな満足感があった。


雲母

「なんだか愛着がわいちゃったな…」


雲母は自分のキャラクターを眺めながら動かしている。これが自分の分身だと思えばこの中で自分とは違った人生を歩んでいる。そう考えるとこのキャラクターが羨ましくも思えた。そもそもこのキャラクターと自分、ゲームという隔たりをとっぱらってしまえば何が違うのか分からない。どちらも自分の意思で行動している人の形をしたものである。ならば自分がゲームの中のキャラクターであっても構わないのではないだろうか。安栖里からURLの記載された報告が届く。


雲母

「あ、動画出来たんだ」


雲母は自分の動画を拝見する。サムネイルは爆発の部分を切り抜き、バニラ・フロートがとても驚いた表情をしている。


雲母

「…あはは、私すごい驚いてる」


自分でも驚いているとわかる程度の反応を示していた。


バニラ

『…絶対許さない。絶対、絶対やり返してやる』


あの呟きがバッチリ入り込んでいた。その部分についてのコメントが幾つか目に入る。


「めちゃくちゃ悔しそうにしてる。バニラちゃん可哀想」


「本当にゲームやったことない人かもしれないね。ま、バックアップを復元すればいいでしょ」


「ざまぁ。知らない奴を入れるからこんなことになるんだよ」


「結構根が深い人なのかもしれないね。その点も含めてゲーム楽しめてそう。次が楽しみ」


雲母

「根が深いかぁ…。的を得てるかもしれない」


雲母はしょんぼりしながらコメントを眺め、コメントに目を通せばバニラ・フロートのアカウントでいいねボタンを押していった。


翌日。


雲母

「安栖里さん、ありがとうございます」


雲母はPottiのデータをパソコンに移せば安栖里に返却した。


安栖里

「うん。どうだった? 満足のいくタウンは出来た?」


雲母

「はい。何とか。迎撃できるように練習も演習もしてきました」


森永

「なんだか手の込みようが凄いわね…。これは期待できそうよ」


安栖里

「それじゃあバックアップを取って悪質ユーザーが来た時に備えようか。上手くいくといいね」


雲母はまた撮影を開始する。初日より登録者数も増えてきた。


雲母

「安栖里さん、1つ提案があります」


安栖里

「なにかな?」


雲母

「あの悪質ユーザーが接触を試みてきたらライブ配信に切り替えることは出来ますか?」


安栖里

「え? なんでそんな事をするの?」


雲母

「私、このバニラちゃんが自分の事のように愛着が湧いちゃったんです。だからみんなに見て貰いたい。みんなに見て貰えればこの子の事、みんなに知ってもらえる。そうすればこの子の人生も報われるような気がするんです」


安栖里

「ほう」


雲母

「あの悪質ユーザーを撃退する事でバニラちゃんは何かを成し遂げた達成感を得られるはず。そう思えばその場面をみんなに見て貰って共感してほしい」


天使

「…あんたもなかなかにハマってるわね。私も負けてらんないわ」


天使の心に奇妙な競争意識が産まれた。


安栖里

「いいね。ライブ配信のやり方も教える。その告知もしよう。アイツが現れるまで蛇のように潜んでいようか」


安栖里が不敵な笑みを浮かべれば雲母は力強く頷いた。一緒に遊んだユーザーを遡り、ベリックのアカウントにメッセージを送り返信を待つ。

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