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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
23/76

第22話 あなたを守る

法助

「今日、部活あったの?」


雲母

「ううん。なかったよ。法助は?」


法助

「…なかった。美術室でデッサンしてた」


雲母

「ふふ、テスト前なのに熱心だね。どんな絵を描いたの?見せてよ」


法助はちょっと躊躇した。自分の描いた絵を見せて箱柳だとバレるだろうか。いや、アニメ調なので本人とは思われないだろう。いや、そもそも何故そんなことを気にする必要があるのだろうか。雲母は友達である。誰をデッサンしようとそれは関係の無い話。少し考えて描いたデッサンを見せることにした。


雲母

「どれどれ。石膏は途中で終わっちゃってるんだね。これは…」


雲母は少し考えた。誰のデッサンなのだろう。


雲母

「…これは誰をモデルにしたの?」


法助

「えと、美術室にいた生徒で…」


何故嘘つくんだ。自分が心苦しくなった。果たしてたまたま居た生徒が自分にデッサンの協力をしてくれるのだろうか。


雲母

「へぇ。可愛いね」


雲母はその絵をまじまじと見る。


雲母

「この人よくデッサンさせてくれたね。仲良しなの?」


雲母は何気ない感じで法助に伺う。


法助

「…いや、今日初めてあった人だよ」


雲母

「…そうなんだ」


じっとその絵を見る。ますますもどかしい気持ちになる。


雲母

「箱柳さんに似てる気がする」


ドキッとした。本人に似ている。確かに特徴を捉えるように頑張って描いたものの、特定されるのは予想外だった。


雲母

「名前はなんていうの?」


法助

「名前は…」


そこで言葉に詰まった。雲母は特に怒ったふうもなく返答を待っている。


雲母

「え? ふふ、聞かなかったの?」


法助

「いや、聞いたんだけど…僕名前を覚えるのが苦手でさ」


雲母

「ははは、わかる」


雲母はケラケラと笑った。その笑顔で法助は安堵した。何故安堵する必要がある? 僕は後ろめたいことなどしていないではないか。


法助

「…ね、ねぇ。常磐さんはなんで学校に残ってたの?」


雲母

「先生と話してた」


雲母の表情が曇る。


雲母

「教室で法助がうつ伏せになってたでしょ? あの時のことを聞いてたの」


法助

「あ、え?」


法助はぎょっとする。まさか弦浦や華山がその件について議題に上がっていたのではと勘繰る。


法助

「か、華山は」


雲母

「知ってる。悪くないんだよね。でもなんで?なんで華山くんをそんなに庇うの? あんなに嫌な事をしてきた人だよ?」


法助

「わかんないよ…。でも、でも僕にとって必要な奴なんだと思い始めてきたんだ」


雲母

「そんなことない」


雲母がピシャリと言い放つ。


雲母

「苦しんで、悩んで良いことに繋がるなんて事は早々無いんだよ? 法助、あなたは辛い想いをしてきたでしょ?なのに、なのになんでもっと辛い道を歩もうとしているの?」


法助

「…常磐さん、僕は君に感謝してる。とてもいい人だし、正直自分とはかけ離れた人だと思ってる。それに一緒にこうやって下校するなんて思いもしなかった。でもね…」


雲母

「…でも?」


法助は言葉に詰まった。色々な事実が思考を詰まらせる。思ったような答えを口に出来ない。暫く沈黙した後ようやく言葉をひねり出した。


法助

「僕、みんなと仲良くやりたいんだ」


雲母

「…法助」


法助から驚くべき言葉が出てきた。あんなにも酷いことをされた連中に、あんなにも冷たくあしらわれた連中に、まさか、よりにもよって【みんなと仲良くやりたいだなんて。】雲母は法助の前に立ちはだかる。


雲母

「それは無理だよ」


法助

「…どうして?」


雲母

「人は変わりっこない。卑しい人間はずっと卑しいまま。汚い人間はずっと汚いまま。表面上どう取り繕ってもそれは変わらないの。でも、あなたはとても心の綺麗な人だよ。無理に卑しく汚い人と関わる必要はない」


法助

「え…? どうしたの?」


法助はぎょっとした。まさか自分に対して綺麗だという言葉が出るとは思わなかった。雲母の様子がおかしい事が気がかりになり反応を伺う。


雲母

「だからあなたがあんな連中と連むを私は見過ごせない。もっと嫌な思いをする羽目になる。法助が悪い人達と同じように染まっちゃう。法助、彼等と関わってはダメ」


法助

「…そんなこと」


法助は歯痒い気持ちになった。【皆、不平不満や、憂いを一応に抱えている。】勿論自分だけが綺麗だなんて思わない。


法助

「常磐さん、僕は綺麗じゃないよ。それにみんなが汚いとか、卑しいだとかそんなふうに思っちゃダメだよ」


雲母

「あなたはとても、とても優しいね。…あんな目に遭ってもまだそんな事が言えるだなんて」


雲母が法助を見る目が変わった。法助にはどう変わったのかは分からなかったが、何故だか良くない気配を感じ取った。


法助

「…常磐さん? 君はもしかしたら誤解してるかもしれない。僕は確かに嫌な目にあった。だけど彼等を理解して正しくアプローチすれば、きっと仲良くなれる切っ掛けが掴めるんじゃないかと思ってる。…僕、何かおかしいことを言ったかな?」


法助はどんどん不安になってきた。雲母の中で自分の言ったことがどう整理されたのか彼女の中でどう変化がもたらされたのか。


雲母

「…いい。大丈夫だよ。心配しないで。…でも私はあなたに傷付いて欲しくない。だから決めたよ」


雲母は法助の手を握った。


雲母

「私があなたを守ってみせる」


何故、何故なんだ。常磐雲母はどういった人間なのだ。僕を守ってみせる?クラスメイトから?


法助

「守る…?」


一瞬何を言われたのか理解するまでに時間がかかった。雲母は守る。あなたを守ってみせると言った。


法助

「…い、いや、僕は君に守られる自分が恥ずかしいんだ」


雲母

「恥ずかしい? 気にしなくて大丈夫だよ。1人に大勢が敵うわけないもん。それは仕方ないことだよ」


法助

「…僕は君に恥ずかしい自分でありたくないんだ」


雲母

「だけどそれは虐めを傍観する理由にはならないよ。法助には味方が必要なんだよ。私が守る。あのクラスメイトから、あの教室から。あなたを救ってあげる。安心して? あなたを傷付ける人がいたら私が一緒に戦ってあげるから」


法助

「…み、味方だって??」


かなり思い詰めるタイプなのかもしれない。法助はそう思った。手は握られたままだ。しかしこの手は【払い除けられない。】力強く握られている訳では無い。だが離すことが出来なかった。驚いた表情で雲母を見つめ続ける。


法助

「…常磐さん、落ち着いて…! 敵なんていないんだよ? 僕達が戦うべき相手なんて、いないんだよ?」


落ち着いたのか手を離してくれた。


雲母

「…ふぅ」


法助は何故かとても恥ずかしかった。薔薇騎士物語を奪われてクラスメイトに笑われた時よりもずっと恥ずかしかった。雲母の目を見ることが出来ない。


雲母

「…少し熱くなっちゃった。ごめんね」


法助

「…大丈夫だよ」


雲母

「そうだね。敵なんていないよね…。こんな事言っちゃって、なんだか怖がらせちゃったかな?」


雲母が申し訳なさそうに法助の顔を見る。法助の目はよそよそしく泳いでいる。


雲母

「…テスト、頑張ろうね」


法助

「常磐さん、あまり思いつめないでね? 君の気持ち、とてもよく伝わったから。…正直恥ずかしかったけど、すごく嬉しかった」


こうでも言わないと後を引いてしまいそうで怖かった。何とか雲母を落ち着かせねば。


雲母

「…ありがとう」


雲母は俯いた。法助は少し安堵した。


法助

「そ、そうだ。僕がまた絵が上手くなったら君に見せるよ。楽しみに待ってて」


雲母

「ホント? わかった」


雲母と道が別れる。


雲母

「私こっちだから」


法助

「あ、うん。また明日」


雲母

「…そうだ。法助」


法助

「うん?なに?」


雲母

「またいつか、私の事も描いてよ」


法助

「…え?」


雲母

「私の絵、描いて欲しいな」


驚いた。同じ日に2人から絵をかいて欲しいそうお願いされるだなんて。


法助

「…わかった。きっと綺麗に描くよ」


雲母

「うん! 期待してる。じゃあまた明日」


雲母は嬉しそうに帰って行った。その様子を法助は憂いと歯痒さを含んだ目で見送る。心には不安と甘酸っぱさと切なさが残った。

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