第21話 2人だけの秘密
法助
「君を、描くだって!?」
箱柳
「そうだよ。描いていいよ」
法助は困惑した。頭に血が登ればフラフラし始める。
法助
「いやいや、はは、何故?」
肩を竦めれば相手の反応を伺う。
箱柳
「私、スタイリストを目指してるの」
法助
「スタイリスト?」
箱柳
「そう。こっちはポーズの練習が出来る。あんたは被写体を描ける。一石二鳥でしょ?」
法助
「は、はぁ…? うーん」
箱柳
「なによ? 嫌なの?」
法助
「いや、別に嫌じゃないけど…。僕まだ下手くそだよ?」
箱柳
「最初はみんな初めてなんだから下手くそだよ。それは許してあげる」
銀子が言ったまんまの言葉。それを聞けば心が動かされた。
法助
「ホント? …被写体になってくれるの?」
箱柳
「いいから描きなよ。寧ろあんたから頼め」
法助は驚愕のあまり口に手を当てる。まさかこんな事態になるとは思わなかった。
法助
「…わかった。箱柳さんを被写体にデッサンを描く」
法助は箱柳のデッサンに取り掛かった。あまり上手く描けなかった様に思われたが、絵をみせた箱柳の表情は特に悪いように思われなかった。
箱柳
「なんかアニメ調だね」
法助
「なんというか、リアルな感じに寄せるのは勇気がいるというか…。自信がないんだ」
箱柳
「そう。練習が必要ね。また描く事を許可するよ」
法助
「ははは、いいの?」
箱柳
「いいよ。だけど内緒」
法助
「内緒?」
箱柳
「…私を被写体にしてること。そして、私が学級日誌を常磐の机に入れた事」
ドキリとした。確かに先生や常磐に言ってしまえば箱柳にお咎めが来る。箱柳自身がクラスに居られなくなるほどの罰を覚悟しなくてはならない。ほんの一時の内に箱柳に対して相当な感情移入をしてしまっている自分がいる。
法助
「…わかった。ただ条件がある」
箱柳
「条件?」
法助
「常磐さんに嫌がらせしないで。いざ彼女に詰め寄られたら君を庇いきれないかもしれない」
箱柳
「もうしないよ。リスキー過ぎるもん」
法助
「でも、僕に話してくれたのは理由があるからだよね?」
箱柳
「そりゃそうだよ。あんなのとずっと一緒に居たくないもん。クラスメイトの不平不満が膨れ上がってる。そしてそれがあんたに対して向けられてるの」
法助
「それが理由なの?」
まるで法助自身の為、そう言いたげな風に聞き取れた。
箱柳
「人間は立場の弱い存在に幾らでも残酷になれるんだよ。あんたもあいつ付き合い続けるなら覚悟を決めなよ」
法助
「僕は箱柳さんが常磐さんに嫌がらせをしないでいてくれるならそれでいい。そして常磐さんとも良い友達として付き合って行きたい」
箱柳
「へー。恋仲になりたかったんじゃないの?」
法助
「…僕と彼女、釣り合わないんじゃないかと思って。その、僕には何も無いから」
箱柳
「そんなんで諦められたら想われてる方は溜まったもんじゃないね。どうせなら正々堂々胸を張ってアプローチしなよ」
法助
「まさか、応援してくれるの」
箱柳
「別に? 私の意見を言っただけだよ」
意外な反応に目を丸くした。
箱柳
「それじゃあ私は帰るから。秘密、守りなよ?」
法助
「…わかった。ちゃんと守るよ」
箱柳は美術室を出ていった。法助はデッサンした絵を見て何故か頬が暖かくなった。絵の中の箱柳をなぞる。もっと上手く描けるようになるだろうか。2人だけの秘密…。もっと、もっと上手く描けるようになったら、彼女、箱柳も僕を認めてくれるだろうか。
玉菊
「そうなの。華山くんが弦浦くんのお腹を蹴飛ばしたの」
雲母
「そんなことがあったんですか…。弦浦くんは大丈夫だったんですか?」
玉菊
「ご飯を食べたあとだったから戻しちゃったみたいだけど、アザが出来るくらいで問題はなかったみたい」
雲母
「野蛮な人…。華山くんは法助を助けたみたいですが、法助からは何も聞かされてませんか?」
玉菊
「曾賀くんや美竹くんも弦浦くんと一緒で黙りだったわね。ねぇ常磐さん…」
雲母
「そうですか…。はい?なんでしょうか」
玉菊
「学園長にはその…。この事、内緒にして貰えないかしら」
雲母は沈黙する。あの事をまだ引き摺っているのだ。担任は違えど内々に処理したい事であるということが玉菊から伝わる。
雲母
「…ええ。お母さんには内緒で構いません。あまりにも強硬手段が過ぎますので」
玉菊は安堵する。
玉菊
「ありがとう。みんな仲良く卒業したい、それが私の目標なの。常磐さんには苦労かけるわね」
建前ではそう言っているものの、本音ではどうだか。と内心思う所があるが母親の手で処罰を下すような行いは自分の意に反する。何かあれば母親を頼ればいい、そんな自分は嫌なのだ。
雲母
「それでは先生、教えてくれてありがとうございました」
玉菊
「こちらこそ。気をつけて帰るのよ」
常磐は職員室を退室した。下駄箱で靴を履き替える。すると法助と鉢合わせになった。
法助
「…あ」
雲母
「…あれ?」
法助
「今帰り?」
雲母
「…うん」
法助
「そっか…。い、一緒に帰る?」
雲母
「もちろん。いいよ」
雲母の特に変わりのない様子に安堵した。靴が無事なのを確認すれば履き替え、雲母と共に下校する。




