第1話 悪循環
法助
「…」
ガチャッ…。法助は毎日のルーチームワークであるCD漁りと古本屋での立ち読みを終えて帰ってくる。今日は、今日も嫌な目にあった。自分の中でそのもやもやを消化しないと明日学校に行ける気すらしない。
母親
「ただいま、は?」
法助は返事をせずに2階の自分の部屋へ入る。母親の顔を見る事さえ煩わしい。
母親
「…」
父親
「法助は今日も一緒に飯を食わないのか?」
母親
「学校で嫌なことがあったのかも。パパ、聞いてきてよ」
父親
「…今は多感な時期だからな。下手に口出しすれば余計にこもりがちにさせてしまうかもしれない」
母親
「そんなこと言ったって…。ずっとあの調子じゃ私の気も滅入るわよ。憲助はあんなことなかったのに…」
父親
「ママ、いつも憲助と比べようとするが、法助のことと憲助のことは別として考えてみてあげないといけないんじゃないか?」
母親
「私がどうみてようが関係ないじゃない。そこまで口出すならパパが何とかしてよ!」
また始まった。聞こえている。母親は自分のことを兄の憲助と比べようとする。父親は意見するものの何かしようとはしない。自分のことをまともに理解しようとしない相手ほど自分に都合のいいイメージを付けてくる。たまったもんじゃない。食事に出てしまえばもっと最悪だ。あーだこーだと難癖つけてきては喧嘩腰にくだらない話を吹っかけてくる。食べたくないのは当たり前だ。ただでさえすり減った自分をこれ以上消耗させないで欲しい。
法助
「…クソ。黙れってんだ」
法助はみなが寝静まったあとお風呂に入り軽食を摂る。誰かと顔を合わせるのが嫌で嫌で仕方なかった。しかし食べねば生きていけない。学校へ行かねば嫌な家にいることになる。帰ってこなければ寝る場所もない。法助には自分以外と向き合う心の余裕はなかった。
次の日。
法助は教室に入り自分の机に座ろうとする。だがその前に確認することがある。机の中になにか入れられていないか。引き出しの下、膝の上に何か貼り付けられていないか。椅子に何か細工がされていないか。登校してからこんな面倒くさい事を毎朝やらされるなんて…。既に怒りは湧いてこなかったがイライラが募り舌打ちする癖がついてしまった。
あった。
椅子の笠木を引く場所に絵の具がつけられている。普通に引いてしまったら手が茶色になってしまうところであった。辛気臭そうに掃除のロッカーから雑巾を取り出せばまずは乾拭きする。それから水で流しもう一度拭く。
男子生徒
「…チッ。今日は自信があったんだが」
何が自信があっただ。お前と同じ空気すら吸いたくない。法助は眉間に一瞬皺を寄せて心の中で相手をなじった。
それ以上の細工はされていなかったためカバンを横に掛けて教科書やノートを机の中に入れる。前日の宿題を一応にチェックし内容をもう一度見直す。特に間違いがある様には思えない。
本当なら学校でやってそのまま机の中に入れて帰りたいがそれをすれば紛失する恐れがある。おかしな話だ。そのおかげでズボラな癖がつかないと思ったら良いのかもしれないが。
余計なイタズラをされて、イジメを受けて怒りは湧いてこない。不愉快であるのは確かだが相手と合わせること自体不毛で自分の心を犠牲にしている気がしていつしか考えることすらやめた。不幸な目にあって欲しいとは思うが報復したいとは思わない。気にしないコツは【相手が視界から消えたら死んだと思うことだ。】森の中で倒れた木は誰にも認識されていないのなら、そもそも倒れていない。ならアイツらを認識しなければそもそも存在しないのだ。
早く独り立ちしたい…。自分一人になれたのならどんなに良いだろう。好きな音楽を聞いて好きな漫画を読む。1人で気兼ねなくご飯を食べて好きに遊び歩ける。それだけが自分にとって心待ちにしている未来であった。授業が始まり今日は何事もなく時間は進む。それはお昼時に起こった。
女子生徒
「水鳥君」
法助
「はい…?」
法助は自分の横に誰かが立ったのを見て一応に反応する。面倒事でなければ良いのだが。
女子生徒
「これ日誌。明日当番だからよろしく」
法助
「はぁ…」
全部押し付けられた…。名前だけ記名がある。2人1組で書かなくてはならずよりにもよって男女で2人1組なのだ。別に男子生徒と組んだからと言って日誌の内容に変化がある訳では無いのだが。
女子生徒
「…わぁ、気持ち悪かった〜」
女子生徒2
「大丈夫だった…? 触られなかった…?」
これだ…。押し付けたにも関わらずまるで嫌なことを無理矢理やらされて災難にあったかのような態度を取る。全く信じられない。【普通では無いのだ。】ふぅ、と溜息を漏らす。
今わかることを適当に書き連ねていく。日付、天気、記入者、明日の時間割、担当、授業の様子…はまだ分からない。
教室状況・清掃状況…良好。吐き気がした。いつも掃除してるのは自分なのだ。何故こんな嘘っぱちを書かされる羽目になるのか。
男子生徒
「おい、水鳥君なんて言っちゃって。アイツの事本当は好きなんじゃないのか?」
女子生徒
「そんなわけないじゃない! 馬鹿なのアンタ。ほんと最悪」
女子生徒2
「何処からどう見たらアイツのこと好きになるの?頭おかしいんじゃないの?」
男子生徒は女子生徒に嫌味を言われて少しむすっとした。女子生徒に対してその怒りをそのまま返すのではなく…。
男子生徒
「…おいホースケ。お前、コイツの事好きだよな?」
その怒りの矛先は法助に向けられた。