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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
19/76

第18話 苦行は報われない

「法助」

「法助!」

「法助くん〜」

「ホースケ」

「水鳥くん」


「…法助!」


色んな人が自分の名前を呼ぶ声が頭の中でこだまする。僕はどれに応えたらいいのか。どの声に従えばいいのか。そもそも従うべきなのか。僕は誰かに従わなければいけないのか。僕はなんなのか。


部活終わり、法助は頭を蛇口の下にして水を流していた。流れ出る水になすがままに、先日の記憶を洗い流そうと頭を【行水する。】


「法助くん!」


おしりをべしっと叩かれる。驚いて頭をあげるも蛇口にぶつけてしまった。


法助

「あいだ!?ツッ…!」


先日頭を打ってたんこぶが出来たところを更に打ち付けてしまいジーンと痛む。


款太郎

「おっとすまん!様子がおかしいなと思って」


法助

「いててて、大丈夫ですよ。ちょっと頭を冷やしてただけです」


款太郎

「それにしては長かったなーと思って。頭痛むのか?」


法助

「ああ、先日教室で机に頭をぶつけちゃって」


款太郎

「え?蛇口にぶつけたのと別に?」


ついつい掘り下げてしまった。


款太郎

「何かあったのか?」


法助

「い、いや。雑巾に足を取られて転んじゃって…。あはは」


款太郎

「それなら普通前に転ばないか…? …誰かに突き飛ばされたんじゃないのか?」


款太郎部長はなかなか心配性だ。それにしても次々と引き出されてしまう。少し苦手な人かもしれない。


款太郎

「まさか…。華山と喧嘩でもしたんじゃ」


法助

「いやいや、とんでもない。僕が華山に手を出すだなんて」


華山

「そいつバスケ部のやつに腹を蹴飛ばされたんだ」


華山が後ろからやってくる。まさか話に入ってくるとは…。


款太郎

「なんだって…? それは本当か華山」


款太郎は顔を顰めた。


款太郎

「どっちが先に仕掛けたんだ?」


華山

「コイツが進んで他人に喧嘩を売る玉じゃねぇよ。私物を取り上げられて取り返そうとして蹴飛ばされたんだ。みっともねぇだろ?」


款太郎

「華山お前、それを黙って見てたのか?」


法助

「部長っ! か、華山は助けてくれました…。ただちょっとややこしくて」


法助が慌てて話に入る。


華山

「ふん。俺は助ける気なんてなかったぜ。コイツにちょっかい掛けるついでに俺の事を巻き込みやがったからちょっとばかし締めてやっただけよ」


款太郎

「おいおい、話が見えてこないぞ。何があったのか説明しろ」


昨日あったことをざっくりと款太郎に説明する。


款太郎

「なるほどな。だが華山、相手は格闘技なんてやっていない素人だ。いきなり手をあげるのはいただけないな」


華山

「いきなり手はあげてないぜ。いきなりちょっと蹴飛ばしただけだ」


款太郎

「おいおい、つまらない押し問答をするつもりは無いぞ。生憎俺は華山に罰を与えたり説教をする立場にはない。だが暴力で相手を制圧しても何も解決にならないぞ。クラスメイトは華山のことを怖がっているだろう。そんなことではお前から人が離れていくぞ」


華山

「知ったことか。そもそも中学なんて緩い校則のせいでやりたい放題だ。暴力を振るっても謹慎になんてなりゃしねぇし、首輪のされてない野良犬にはあれくらいの躾の必要があるんだよ」


款太郎

「おい!」


款太郎は華山の肩を掴む。


款太郎

「それは暴力を振るうことに対しての正当化にはなっていないぞ。今回はたまたま法助くんを助ける為にやむを得なくやったことかもしれない」


華山

「チッ。離しやがれ!」


華山はイラつきながら款太郎の手を払う。


款太郎

「だがいずれ歯止めが効かなくなる。暴力を正当化する自分自身にな? お前は教師でも警察でもない。それに誰にも人を虐げる権利なんてないんだぞ」


華山が款太郎を睨みつける。


法助

「…部長」


款太郎

「…うん?」


法助

「僕もその意見には賛成です…。だけど…」


そこで言葉が詰まった。わかっている。綺麗事では済まない事。それが出来たならみんな仲良く、クラスメイトが輪になり虐めも起きない。


法助

「…」


華山

「ふん。余計なことを話し過ぎちまった」


華山はその場から去ろうとする。


款太郎

「待て、まだ話は終わっていないぞ!」


法助は款太郎の手を止めた。華山はそのまま行ってしまう。


法助

「もう、いいんです。僕は内心華山の行いに感謝していた…。事実彼の暴力に救われたのだから」


款太郎

「…仕方ないよ。状況が状況だったんだから…。本来そういう事になることがおかしいことなんだよ」


法助

「或いはそうかもしれません。ですが、僕にとってこれは試練だと思うんです。僕が虐められるのにもきっと理由がある。だからきっと強くならなきゃ」


款太郎がそこで止める。


款太郎

「…法助くん。それは違うよ」


款太郎は悲しそうな顔をする。


款太郎

「悲しみや苦しみの先に幸福が待っているとは限らない。残念だが大概の苦行が報われることはないと思った方がいい」


法助

「…」


その言葉は法助の胸に突き刺さった。トンネルはいつか抜けられる。そう思っていた節があったのも事実だ。だがそれを款太郎ははっきりと否定してのけた。


款太郎

「…法助くん。暴力を振るうことで自身の身を守ろうとしているのなら空手部を続けない方がいい…。入ってもらってこういう事をいうのもなんだが、それではいつか自分自身を滅ぼす切っ掛けになりかねない」


款太郎は怪訝な表情をして法助を見据える。


法助

「勿論そんなつもりは無いです…。僕は、僕自身に何か良い変化をもたらせたらと思っているんです。それは取り留めのないことかもしれないけど、華山に空手部に誘われたこともその変われる切っ掛けになるんじゃないかなって…」


款太郎

「変わりたいか…。君は強くなりたいのか?」


法助

「僕は…釣り合わないから」


款太郎

「釣り合わない…?誰とだい?」


雲母とのあの夕暮れの教室での出来事が思い出される。あの時の事を思えばぶるっと足が震えた。


法助

「…いえ、そう…自信を、自信を付けたいんです。僕には自信がないから…。へへ、事実弱いのもそうですが、僕には何も無いんです」


法助は頭をぽりぽりかいた。ついでにたんこぶを摩る。


款太郎

「…そっか」


款太郎は目線を流し顎を摩った。


款太郎

「君はきっと優しい良い子だ」


法助

「…そうですか?」


法助はキョトンとする。


款太郎

「さっきはああいったが、誰かに暴力を振るうために空手をやっているのではないだろう。それは信じよう」


法助

「…ありがとうございます」


款太郎

「だから君は強くなるべきだ。あの華山よりも」


法助

「え?か、華山よりもですか?」


款太郎

「そうだ。君は華山より強くなって、華山に守られないようにすべきだ。君を守るために仕方なく華山は暴力を振るったのだとすれば、それを否定するために君は華山より強くなればいい」


法助

「…は、はぁ」


款太郎

「俺ではアイツの深くまで面倒見てやれない。だが法助くんなら、アイツの心根の何かしらを掴めるかもしれない。或いはあいつもそれを期待しているのかも」


法助

「…うーん」


傍迷惑な話だ。と法助は思いつつもあのような出来事が毎度毎度起こっていては自分の精神が持たない。自分の身は自分で守る。それは良しとして、華山より強くなる。これは高い目標を設定されてしまった。


法助と款太郎は部室に戻る。


法助

「部長から見て華山はどのくらい強いですか?」


款太郎

「俺より強いんじゃないか?」


法助

「…えっ」


唖然とした。つまるところまずは部長より強くなる必要があるようだ。


款太郎

「並の空手部高校生でも歯が立たないくらい強いだろうな。アイツなら推薦でいい所行けそうだよ」


法助

「僕、華山より強くなれるかな」


款太郎

「何事もやって見なきゃ分からない。目標は高い方がいいだろ?」


法助

「ふふ、僕の苦行は報わられますかね」


款太郎

「努力ならば報われるかもしれないぞ?苦行ならそれまでさ。前向きに前進するべし!」


款太郎はまた法助のシリを叩いた。


法助

「あだ!」


法助は帰宅する。


法助

「…」


ただいまは言わずそのまま部屋に上がろうとする。


母親

「法助」


母親に呼び止められる。


法助

「…なに?」


母親

「あんた最近帰りが遅いね。何やってるの?」


法助

「ふぅ…。部活に入ったんだ」


母親

「部活?」


母親が眉をひそめた。


母親

「はぁ…。部活なんかより勉強を頑張りなさいよ」


法助

「…」


法助は母親を無視しそのまま部屋に上がろうとする。…心が冷めていくのが分かる。コイツは僕の人生にとってのなんなんだ。すぐにでも家を出て行きたい気持ちが込み上げる。


母親

「待ちなさい! 法助!」


法助

「…なんだよ! 一々母さんの嫌味に付き合わなきゃいけないの?」


母親

「あんた分かってる?憲助より頭が悪いんだから部活なんてしてる時間はないのよ?」


法助

「だからなんだってんだよ。僕は僕なりにやりたいことをやるんだよ。いいよ別に、中学でも高校でも卒業したらすぐにでも家を出ていくつもりだから。そのまま兄貴にずっと期待してたらいい。母さんも父さんも僕とちゃんと話す気がないならこれ以上関わら無いで!」


バタン!と部屋に入れば鍵を掛けた。外から小さくため息が聞こえる。それ以上外から聞こえる心を削ぐような音が聴こえないようにヘッドホンを付けて音楽を鳴らした。真っ暗な部屋で仰向けになり天井を見つめる。そうして自分が今1人であることに気付けば、寂しさから目尻から一筋の涙が零れ枕を少しだけ濡らした。

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