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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
18/76

第17話 逃げるな

翌日法助は昼休みに漫画研究部へ行き、天響から手解きを受ける。


天響

「まずは模写デス」


法助

「…模写」


天響

「イラストでも漫画でもいいのでそれを写すのではく、真似て描くのデス。上手く出来無くても完成したら消さずにちゃんと持ってくるデス」


法助

「うん。わかった」


銀子

「それじゃあこれを模写して来いよ」


銀子は昨日法助が一番最初に手に取った薔薇騎士物語を差し出される。


法助

「持って行っていいんですか?」


銀子

「おうよ。キチンと仕上げて来な」


法助

「う、自信は無いですけどちゃんと仕上げて来ます」


銀子

「期限を設けようか。来週までに3枚描いて来い」


本日は金曜日なので3日は余裕がある。つまり1日1枚模写してこいということだ。


法助

「了解しました。では借りていきます」


法助は頭を下げ薔薇騎士物語と模写する用紙を何枚か貰って漫画研究部から退出しようとする。


銀子

「おっと。もう帰るのか?」


法助

「え?…はい」


銀子

「ここで休み時間過ごさねぇか?ちょっとくらい教えてやれるぞ」


法助は悩んだ。自分の机をそのままにしておけばまた何か細工されるかもしれない。だが引き止められた事で胸がとても暖かくなった。昼休みくらいここで過ごしてもいいんじゃないかと考える。


法助

「いえ、僕…ちょっと用事があって」


天響

「そうなのデスか?」


法助

「うん、すぐ帰んなきゃいけないんだ…。本当にごめんなさい」


銀子

「は、謝んなくていいぜ。オレ達は法助に助けられたんだからよ」


海鼠

「そそ、そうですです。お茶くらい呑んで行ってもバチは当たりませんよぅ?」


天響

「仕方ありませんデスね。また時間がある時にゆっくりしていくデス」


法助

「ありがとうございます…。本当に、ありがとう」


法助はニッコリ笑えば感謝を告げ、漫画研究部から退出する。


教室へ戻れば自分の席へ着こうとする。


華山

「ホースケ」


華山が話し掛けてきた。


法助

「うん?」


華山

「どこ行ってやがった」


法助

「ああ、生徒会の仕事でちょっと…」


華山

「ホントかぁ?」


華山が訝しい表情で法助を見つめる。


華山

「昨日も部活に遅れてきやがって。常磐のパシリに忙しいみたいだな」


法助

「…」


法助は言葉に詰まる。


法助

「今日はちゃんと遅れずに部活に行くよ」


華山

「女のケツを追い掛けるのはいいが、お前自身の事にも気を配るべきだぞ?」


華山はスマホに視線を落とす。コイツは本当に何を考えているのか。僕が空手部に入ってから華山からのイタズラや虐めは無くなった。しかし全く虐め自体が無くなった訳では無い。


「おい、何大事そうに抱えてんだよ」


突如法助の鞄がひったくられる。3人組がニタニタと笑みを浮かべながら法助の鞄を物色しようとする。


法助

「…あっ!!」


法助は慌てて鞄を取り返そうとするもパスされれば突き飛ばされて机にぶつかり、机ごと倒れてしまう。


法助

「あいった…!」


法助は体勢を崩し机の角に頭をぶつけてしまった。


「おいコイツ漫画なんか持ち歩いてるぞ」


「これは手描きか?」


法助

「やめろ! 返してくれ!」


法助は立ち上がり本を取り返そうとまた立ち向かう。しかしお腹を蹴られればまた倒されてしまう。


法助

「うっぐ…!」


溝落に入り視界が白く染まる。腹部が破裂しそうな痛みに襲われ立ち上がることが出来ない。一瞬華山が視界に入る。アイツはまるで無関心にスマホをいじっている。馬鹿な。僕は何を期待しているんだ。アイツが助けてくれるわけないじゃないか。


「コイツ女の子の漫画でも見てんじゃねぇのか?キモオタってやつだな? はは、キモチわりぃ〜」


鞄を持っている男子が法助を捲し立てる。


「いや、違うぞ? これは…」


漫画を読んだ男子の表情が固くなる。


「コイツ、男同士がやり合う本を読んでやがる…」


先程まで賑わっていた教室の空気が一変する。口々に法助を忌み嫌うような呟きが聞こえる。キモイ、信じられない、頭がおかしい、そんなやつだったのか、ありえない、汚らわしい…。

法助の世界はグルグルと回り始めた。それ程まで異常に嫌悪されるとは思わなかった。キスの表現はあったものの、性的に過激な表現は無かったはずだ。そこまで嫌悪されるべきものでは無い。そう言い返そうかと思ったが、言葉が出なかった。


法助

「…ううう」


法助は悔しかった。あまりに無力。自身の意見を通す実力もない。悔しさとやるせなさに涙が出てきた。


「おい、泣いてんのか? くくく、男が好きなことがバレて悔しいか?」


「触らない方がいいぞ? コイツを興奮させちまうからな」


ゲラゲラと笑い声が聞こえ始める。法助は冷や汗が出てきた。こんな酷い目に合う羽目になるなんて。雲母が嫌がっていた理由が理解出来た。


法助

「…違う、違うんだ…。そんなんじゃない…。なんでだ、なんでそんなところばかりに目がいってしまうんだ…」


「何言ってんだコイツ?」


必死に絞り出した自分の想いを口にする。


法助

「素晴らしい、綺麗な絵なのに…。なんでそんな、汚い風に扱うんだ…。うぐ、あうう…」


法助の目から涙がこぼれる。


「はははは、綺麗な体つきの男が好きなのか? 意外と物好きなんだな。ダメだぞ人をそんなふうに見たらよ」


「そういえばコイツ最近空手部に入ったらしいじゃん?」


法助を蹴っ飛ばした男子が思い付いたかのように言う。


「もしかしたらよ。華山の事が好きで空手部に入ったんじゃねーのかよ? おい華山、お前ホモに狙われてんぞ?ギャハハハ!」


周囲もつられて笑い始める。法助は華山の方を見る。するとニヤリと笑い、【直後自分の机を思い切り蹴飛ばした。】そして華山はその男子の元へスタスタと歩いていく。


華山

「おい弦浦(つるうら)


華山は弦浦という名の男子の溝落に前蹴りをお見舞する。


弦浦

「ウゲッ!!」


男子は倒れそうになるところを髪の毛を鷲掴みにされ無理矢理引き起こされる。


華山

「今俺を巻き込んだよな? お前らのアンポンタンな絡み合いによ」


弦浦

「す、すまん…」


さらに追撃で腰の入ったグーパンをお腹に入れる。グハッと息を漏らせば弦浦は地面に倒れ込む。肩を足蹴で押し仰向けにすれば脇腹にもう一度蹴りを入れる。げほ、げほ、と弦浦は嘔吐した。


華山

「ホースケを誘ったのは俺だぜ。そこは訂正させてもらおうか。だがよ、力関係を理解してないみたいだったからよーく噛み締めておきな。俺をつまらねぇ馴れ合いに巻き込んだらこんな目に合わせられるんだからな」


「…う」


「わ、分かりました」


辺りは騒然とする。華山に怯える声も聞こえ始めた。後ろの2人は法助の横に鞄を置けば弦浦を保健室へ連れていく。華山は地面に置かれた薔薇騎士物語を手に取りパラパラと捲る。


華山

「おい、ホースケ」


法助

「…はぁ、うぐ」


法助はショックを受けた。目の前で非現実的なことが行われた。そのショックで言葉が出なかった。うつ伏せになり項垂れる。


華山

「勘違いすんじゃねぇぞ。俺は俺の為にやった事だ。それにこんなもんにかまけてる暇があるならもっと自分を鍛えやがれ。この三股野郎が」


華山は薔薇騎士物語で法助の頭をパシッと叩けば鞄に向かって投げた。


法助

「…」


すると雲母が教室に入ってくる。辺りの様子に気付けばハッとして法助の元へ駆け寄る。


雲母

「法助ッ!?」


雲母が法助を介抱する。


雲母

「どうしたの? 何があったの…!?」


雲母は近くに立っていた華山を【まるで穢らわしいものを見る目付きで睨みつける。】


華山

「おーおー、生徒会副会長様のお出ましか。これは退散しなきゃいけねぇな。じゃあなホースケ。ちゃんと部活に来いよな」


踵を返し自分の机に戻ろうとする。


雲母

「逃げるな…」


雲母から冷たい声が発せられる。


華山

「あ?」


華山は振り返れば雲母を睨みつけた。お互い睨み合いになる。


法助

「常磐さん、違うんだ…。華山は僕を助けてくれたんだ」


雲母

「ど…どういうことなの?」


眉をひそめ法助を見る。


法助

「違うんだ…。違うんだ…」


法助は雲母を止めようと必死になる。


華山

「ふん」


華山は自分の机を起こせばまたスマホをいじり始める。チャイムがなれば午後の授業が始まる。雲母は法助の机と椅子を起こせば鞄と薔薇騎士物語に目をやる。何か自分の知らない所でおかしなことが起こったことだけは理解出来た。

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