第14話 安息の時
法助
「…」
登校し下駄箱から上履きを取り出そうとする。すると靴の中に大量の画鋲が入っていた。あまりの多さに少し笑ってしまう。
法助
「ふっ。…これ、生徒会室に持って行ったら常磐さんは喜ぶだろうか」
「法助」
法助は声を掛けられた方を振り向く。
法助
「…うん?」
そこには箱柳苗生が居た。
法助
「何か用?」
箱柳
「何キョトンとしてんの。靴の中に画鋲が入ってんだからもっと嫌そうな顔しなよ」
法助
「僕の靴は画鋲入れじゃないんだけど?」
箱柳
「気取った返し方してんじゃないよ。知ってるからそんなこと」
法助
「…あ、そう」
法助はそのまま生徒会室へ行こうとする。
箱柳
「待ちなよ。どこへ行くつもり?」
法助
「え? 生徒会室に持っていく。備品になりそうかなって」
箱柳
「返しなよ。それは教室のなんだからね」
犯人は見つかったようだ。
法助
「返せって…。どうするつもり?僕の上履きなんだけど」
法助は嫌そうな顔で箱柳を見る。
箱柳
「あんたが教室まで持って行って、画鋲を戻すの」
法助
「…はぁ」
厚かましいイジメもあったものだ。自分が一方的にやっておいて教室まで持っていけときた。片手を腰に当て、眉を寄せながら聞いてみる。
法助
「嫌だって言ったら?」
箱柳
「先生に言うよ。あんたが生徒会室に画鋲を勝手に持って行ったって」
法助
「…このまま教室に戻ったら靴下が汚れちゃうじゃないか」
箱柳
「ふん。あんた、華山に誘われて空手部に入ったらしいね。…何考えてるの?」
箱柳は両手を組みながら訝しい表情で続けた。
箱柳
「あいつと仲良くなったらもう虐められないとでも思った?」
法助
「僕は誘われて仕方なく入部しただけだよ。気になるなら華山本人に聞いたら?」
箱柳
「…調子くれちゃって」
箱柳は花瓶の花を取れば法助に向けて水をかける。
法助
「うっ!な、なにすんだよ!」
箱柳
「あんたは今までもこれからも最底辺の人間だよ。卒業したってそれは変わらない」
法助
「…ぷっ」
法助はかけられた水を拭い箱柳を睨みつける。
箱柳
「画鋲、ちゃんと教室に戻しなさいよ」
箱柳はそう吐き捨てればその場を去る。
法助
「…ふー」
すると後ろから朝練を終えた雲母がやってくる。
雲母
「あ、法助。おはよー」
法助
「…ああ、おはよう」
雲母は法助が濡れていることに気付く。
雲母
「あれ? なんで濡れてるの…?」
良い言い訳が見つからなかった。箱柳にやられたと言えば雲母が箱柳を詰めるだろう。それは後々面倒だ。
法助
「顔を洗って、ハンカチ忘れたのさ」
雲母
「じゃあその上履きは?」
雲母が法助の手を掴む。
雲母
「正直に言って」
雲母が法助をじっと見つめる。
法助
「…」
参った。この娘はこういう人だったのだ。
法助
「…朝来たら入れられてた」
雲母
「そう…。じゃあ生徒会室に持って行っちゃおうか」
法助
「あ、いや…ふふ」
自分と同じ発想になるとは思わなかった。少し吹き出してしまう。
雲母
「え? 何がおかしいの?」
法助
「ううん。おかしくないよ。でもこれをやったのはうちのクラスの人間に間違いないだろう。だから教室に持って行ってあげないと困る人が出てくるんじゃないかな」
雲母
「知らないよそんなの。困らせとけばいいよ」
法助
「でも、その困るであろう1人に君も入っているのなら、僕には教室へ持っていく意義があると思うんだけど」
雲母
「それもそうだね…。はいこれ」
雲母はハンカチを法助に渡す。
法助
「あ、ええ?」
雲母
「ハンカチ、ないんでしょ?」
法助
「いや、悪いよ」
雲母
「私のハンカチ、汚くないよ?まだ使ってないもん」
法助
「いやー…。今から汚くすると思ったら悪いなーって?」
法助は頭をポリポリとかく。すると雲母は法助の顔をハンカチで拭く。驚いた法助を尻目に上履きを取り上げるとハンカチを広げて画鋲を入れる。
雲母
「これで靴下も汚れずに済むね」
法助
「…」
法助は頬を赤らめた。
法助
「…あ、ありがとう」
雲母
「どういたしまして」
雲母はにっこりと微笑んだ。
雲母
「さ、早く行かないと遅刻しちゃうよ?教室に行きましょ」
法助は自分の心を優しくすくい上げられるような、恥ずかしいような、情けないような、それでも暖かな気持ちになった。
教室に着けば黒板横の画鋲入れに画鋲を入れる。
法助
「…これ、洗って返すね」
雲母
「わかった。いつでもいいよ」
ハンカチを大事にカバンに仕舞えば自分の席に着こうとする。椅子を引く。そこにはやはり画鋲があった。どんだけ針で刺したいんだとため息をつく。画鋲を全て回収すれば法助は箱柳の方を見る。こちらを横目で睨んでいる。一応念入りに他になにか細工がされていないか確認する。特に何も無かった。
華山
「どうしたホースケ」
華山が後ろから話しかけて来る。
法助
「うん?」
華山
「何かされてたのか?」
法助
「いや、別に」
華山
「くくく。そうかそうか。ま、どうだっていいが。今日も部活にちゃんと来るんだよな?」
法助
「うん。部長さんがいい人だし。行くって言っちゃったし」
華山
「みんな優しいのは最初だけだぞ。いつまでも鈍臭いようじゃダメだぜ? 今の内に気を引き締めてやらねぇとぶっ殺されるからな?」
法助
「う…。まぁ手を焼かれるばかりじゃ面倒みきれないもんね。妹さんが可愛いって写真見せて貰ったよ。あれだけ気を良くしてくれたのに、無碍にするのは気が引けちゃうかな…」
華山
「はっ。自分の親兄弟を褒めるやつの気が知れねぇよ。馴れ合うのもほどほどにしとけよ。どんな奴だって気を許したら付け込まれんだからな」
法助
「…良い人そうに見えたんだけど…。そんなもんなのかな?」
華山は法助の肩を強く掴む。小声で法助に呟く。
華山
「…おめぇの為を思って言ってやってんだ。俺の言葉を真面目に捉えて考えろ。それに単に優しくて良い奴なんて何処へ行ったって上手くいかねぇ。社会に出て相手に頭を下げる時だってそうだ。無様晒しやがってと隙を見せれば刺し殺してやるくらいの心持ちじゃねぇと舐められて付け込まれる。親にも自分の女にも心を許すな。わかったか?」
法助は唖然とした。なぜそんなことを自分に言うのかと。
法助
「…わ、わかった」
華山
「わかったならいい。ちゃんと部活、来いよ」
華山は自分の席に戻り足を机の上に上げて教卓から見えない位置でスマホをいじり出した。まもなく授業が始まる。まだまだ自分にとっての安息の時は先のようだ。




