第11話 雲母と天使
弓道部の部活後、雲母は天使と部室でスマートフォンをいじっていた。すると天使がふと零す。
天使
「あ〜。P活してぇ〜」
雲母
「うん?」
雲母は一瞬耳を疑った。天使はチラチラ雲母の方を見ている。
雲母
「えっと、先輩?」
天使
「ねぇ雲母、私と一緒にP活してお金を稼ぎましょうよ」
雲母は一瞬冗談かと耳を疑ったが間違いなく天使はP活と口にした。雲母はあからさまに眉をひそめた。
雲母
「…先輩?冗談ですよね?」
天使
「冗談じゃないわよ。P活よP活。パパ活とも言うわね。いや、むしろそっちが正しいのかしら」
雲母
「はぁ」
雲母はスマートフォンを置いて片手を腰に当て、目を細め、明らかに不機嫌な態度を取る。
雲母
「…先輩。まさか先輩の口からそのような発言を聞くことになるとは思いませんでした。どんな行いなのか、理解していますか?」
天使
「もっちろん! おっさんと食事して御手当貰うんでしょ?」
雲母
「簡単に言いますけど、実際色んな被害が出ているんですよ? 怖いことなんですよ?」
天使は肩を竦めて訝しい目で雲母を見た。
天使
「知ってる知ってる。でも考えてみなさいよ。公共の場で食事して即解散。この日本でいきなり襲ってくる奴がいるわけないじゃない」
雲母
「そういうのってSNSとかで尾を引くじゃないですか。それにもし知人に見つかったりしたらどうするんです? 先輩の評判はガタ落ちですよ?」
天使
「そんなの芸能事務所にスカウトされたって言えば良いのよ。ねぇ、あんた結構スタイル良いじゃない? 一緒に荒稼ぎしましょ♪」
雲母
「いいえ!反対です。先輩にも行って欲しくありません!」
雲母は腕を組んで下唇を噛み天使を否定した。
天使
「かーっ! 頭の固い奴! 女は若い内が華なのよ? 今出来る事をやらなきゃ年取ったあと後悔しちゃうわ!」
雲母
「先輩、もし上手くいったとしましょう。次、その次と続けてやって、いつか危ない人と会った時同じことが言えますか?」
天使
「その時は、コレ」
天使は防犯ブザーを取り出した。お花の模様が可愛らしい。雲母は呆れた目付きで森永を見つめる。
天使
「なによ」
雲母
「小学生ですか先輩」
天使
「違いますー!中学3年生ですー!」
真面目で品行方正な雲母にとって蕁麻疹の出るようなやり取りであったため、雲母はどんどん苛立ってきた。
雲母
「あーもうっ!お金に困ってるなら貸しますから!」
天使
「いくら持ってんの?」
雲母は財布を取り出して中身を見る。
雲母
「…ご、5000円くらい」
天使
「ぷっ」
天使は吹き出した。
天使
「ふっ、要らないわよ5000円なんて。私はシャニーとかビトーとかのバッグが欲しいの。あんたから5000円貰っても結局買えっこないわ」
雲母
「…み、身の丈にあったものを身につけるべきです」
天使
「そんな痩せた思想を押し付けないで欲しいわね。私はやるわよ? あんたはそのまま新しい事に踏み出せずに老婆になるがいいわ。あーヤダヤダ」
雲母
「あ、ああそうですか!後で後悔しても知りませんからね。勝手にしてください」
雲母は呆れ返り天使を睨みつけて言い放った。天使はふんっ! とそっぽを向いてバッグを片手に部室を出ていく。
雲母
「…」
雲母はコートを着、マフラーに帽子、さらに生徒会室にあった演劇用のサングラスを掛けて天使を尾行した。
雲母
「…勝手にしろとは言ったものの、知ってしまっては放っておけない」
雲母は天使にバレないよう尾行する。すると見知らぬ男性と焼肉屋に入っていく現場を確認した。
雲母
「…先輩! 本当にやっちゃったよ…」
雲母は愕然とした。ここまで来て半ば冗談かと思っていたが天使は本当にパパ活に手を出してしまったようだ。
雲母
「…あれだけ注意したのにっ…!」
雲母はメラメラと怒りに燃え始めた。天使を追って雲母も店に入る。
店員
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
雲母
「あ、あの…。1名…です」
店員
「それではこちらのカウンター席へどうぞ」
雲母
「…どうしよう。5000円で足りるかな」
雲母は月に1000円のお小遣いを貰っている。その5ヶ月分のお小遣いが一人焼肉で使われようとしている事に大いに落胆した。雲母は天使と男性の姿を探す。
雲母
「…あ、見つけた」
雲母は左後ろ2つ隣のテーブル席の天使を確認する。
天使
「わぁ! 美味しそう!」
男性
「そろそろ焼けるね♪」
男性はニット帽に黒縁メガネ、紺のガウンコートに横縞のシャツを着ている。口髭をたくわえた30から40台の男性である。雲母の目には怪しくも普通にも見えた。天使にバレないように手鏡でチラチラ確認する。
店員
「ご注文はお決まりでしょうか?」
雲母
「…あ、はい。それじゃあ…」
雲母はメニューを見て目を白黒させた。お肉の値段は上は5000円以上、下は1500円。とんでもないところに入ってしまった。
雲母
「…き、キムチとコーラで」
雲母の声は裏返っている。
天使
「…うん?」
天使が雲母の声に気付いたのか辺りを見渡し始める。
雲母はサッと顔を伏せる。
店員
「かしこまりました」
男性
「どうしたの?」
天使
「いえ? なんでもないわ」
森永は肩を竦めて肉をひっくり返す。
雲母
「…ふぅ」
バレなかった為一安心して、スマートフォンを触る。天使のSNSのアカウントをチェックしてどんな相手と食事しているのか調べ始めた。
雲母
「…ダメだ。誰か分からない。DMでやり取りしてるのか」
天使のアカウント名は『天使ちゃん』だ。まさかこれが本人の本当の名前でもあるとは誰も気付くまい。
男性
「天使ちゃんは歳いくつなの?」
雲母
「…て、天使ちゃん…ぷくくく、なんでそのままなの!?」
雲母は笑いを堪えるので必死になっていた。
天使
「21歳よー」
男性
「へぇ。結構若く見えるね。会った時学生かと思っちゃった」
年齢を偽っているのか。未成年と警戒して会ってくれない人物もいるかもしれないし、未成年に会おうとするパパは間違いなく下心を持っている為、安全を考慮して成人していて年齢的にも肉体的にも不自然のない21歳と設定したのか。
雲母
「…まぁ、気にしても仕方ないか」
コーラとキムチが届いた。
店員
「お待たせしました〜」
雲母
「…ありがとうございます」
小さい声でお礼を言う。時間を稼ぐ為にちびちびキムチを摘みながら聞き耳を立てる。
男性
「天使ちゃんはどんな仕事をしてるの?」
天使
「まだ仕事はしてないわ。専門学生よ」
男性
「ふーん。なんの専門?」
天使
「ホテルブライダル系かしら」
男性
「そんな専門学校があるんだー」
天使
「結構楽しいわよ。私、毎日お城みたいな場所で仕事するのが夢なの」
男性
「ははは、お城で仕事かー。いいねー」
取り留めのない話をしながら高そうなお肉を食べている。焼肉の焼ける匂いで雲母のお腹がグゥーっと鳴った。
雲母
「…ひ、ひもじい…」




