第9話 分岐点
翌日。
雲母
「おはよ」
法助
「おはよう」
部活の朝練から上がってきた雲母は今しがた登校した法助に挨拶をする。
雲母
「ちゃんと挨拶出来るようになったね」
法助
「そりゃあ挨拶くらい…」
下駄箱に靴を入れて2人は教室へ向かう。
雲母
「ねぇ、法助」
法助
「うん?」
雲母
「体験入部、また行くの?」
法助
「…うん」
雲母
「…なんで?」
法助
「うーん、なんと言うか…。乗りかかった船というか」
雲母
「やめた方がいいよ」
雲母がキッパリとそう言った。
雲母
「今は大丈夫でも、その内酷い目に合わされるに決まってるよ」
法助
「そうかもしれない。だけど、昨日は部長さんも部員の人達も良くしてくれたんだ。なんというか、受け入れて貰えた…というか」
雲母
「…そうやって安心させるつもりなのかもしれない。後に退けなくなったらまた虐められるかもしれないよ?」
法助
「…うーん、それも考え得るかもしれないね。でもそうなったら部活は辞められる。そうなってからでも遅くは」
雲母
「法助!」
雲母が法助の前に立つ。
雲母
「私は法助が心配なんだよ。華山くんは皆の前で法助を殴るような乱暴者だよ? そんな人のそばに居ていいの?」
法助はパチパチと瞬きをする。あの時の事を思い返しているのだろうか、目が泳いでしまう。
法助
「…常盤さん。僕にもう少し考える時間をくれよ。君の気持ちはよく分かる。それに僕の心配をしてくれるのも嬉しい。だけど、だけどやっと乗り出せた事なんだ。挑戦してみたいんだよ」
雲母
「それなら弓道部だっていいじゃない…。誰もあなたを虐めないよ?」
法助は唇を噛み締める。ある意味ここは分岐点でもある。雲母の弓道部に行ってみるか、それとも華山の空手部をもう少し続けてみるか。
法助
「…僕、逃げたくないんだ」
雲母
「逃げる?」
法助
「…華山から逃げたくない。アイツは僕に執着している。それが何故なのかまだ分からない。このまま被害を受け続けるだけなら退くべきだろう。だけどわざわざ自分の所属する空手部に入部するよう言ってきた。気になるんだ。アイツの気持ちが」
雲母
「…法助」
法助
「ん?」
雲母
「それは弓道部へ入ることが逃げるってこと?」
法助が驚いたように目を見開いて雲母を見る。
法助
「ち、違う。僕は常盤さんのいる弓道部にも一応興味はある。…だけど」
雲母
「…ふふ、ウソウソ。びっくりした?」
法助
「はぁ、やめてくれよ…」
法助は溜息を吐いて脱力した。
雲母
「でも残念。法助が何かに打ち込むところ、身近で見たかった。華山くんに先を越されちゃったんだね」
法助
「…ごめん」
2人は教室に入る。法助が机を確認する。今日は特に何もされていない。クラスメイトと話し合っている華山が法助の姿を確認すれば遠くから話し掛けてきた。
華山
「おい、ホースケ」
法助
「…?」
華山
「おはよう」
法助
「…おはよう」
華山
「今日も体験入部、来るのか?」
法助
「…ああ、行くよ」
華山
「くくく、そうか。待ってるぞ」
華山はまた他のクラスメイトと談笑を始める。
そして放課後になり、法助は空手部の部活動へ赴く。
部長
「お、法助くん。今日も来たか。どうだ?入部する気になったか?」
この人は梵 款太郎。3年生の部長をしている。ガタイが良く面倒見の良い人だ。
法助
「おはようございます。今日も体験出来ました…。いいですか?」
款太郎
「おはよう!おおとも!構わないさ。華山のヤツが連れてきたクラスメイトなんだ、無下に扱う訳にはいかない」
法助
「ありがとうございます。お世話になります」
法助は部長に挨拶すれば借りた道着に着替える。
款太郎
「時に法助くん、あのべっぴんさんとはどういった関係なんだ?」
法助
「え…? べっぴんさん?」
款太郎
「君が体験入部をする前に訪ねてきた女の子がいてね。玉菊先生からの封書をわざわざ渡しに来てくれたんだ。法助くんが体験入部する旨の封書をね」
法助
「…そうなんですか」
恐らく雲母の事だろうと顎を触りながら考えた。
款太郎
「面識がないんだったらいいんだ。ははは、お近付きになりたいと思ったんだけどな。ま、ウチの妹の方が可愛いけど?」
法助
「え…? それはちょっと…」
気持ち悪いと言う言葉が頭をよぎったが、その言葉をぐっと飲み込む。
法助
「き、気になりますね」
款太郎
「そうか?!気になるか?!」
款太郎は頼んでもないのにスマホの写真を見せてきた。確かに可愛かった。少し款太郎に似ている気もする。
法助
「あはは、可愛いです」
款太郎
「そーだろ? そーだろ? 法助くんにはやらないぞ! 手を出したらぶっ殺すからな!」
款太郎は、はっはっはっと笑って答えた。ぶっ殺すという言葉に法助は一瞬ギョッとするも、その様子を見て法助は苦笑いした。
法助
「妹さんと、仲良いですか?」
款太郎
「ん? 仲良いいぞ。なんだ? 紹介して欲しいのか? ダメだぞ!」
法助
「…いや、兄妹と仲がいいのは羨ましいなと思って」
款太郎
「法助くんにも兄弟がいるのか?」
法助
「兄がいます。兄は僕と違って優秀なんです。容姿にも恵まれていて…。仲良いか悪いか聞かれると微妙な所なんですが」
款太郎
「…接し辛いよな。分かるぞ。同性の兄弟だとどうしても比べられてしまうよな」
法助
「…部長にも同性の兄弟がいるんですか?」
款太郎
「いないぞ」
法助
「いないんですか」
法助は一瞬力が抜けた。自分にとっての理解者がいると思われたがそうではなかったようだ。
款太郎
「だが華山のヤツがそうだ。アイツにも兄がいる」
法助
「…そうなんですか」
款太郎
「アイツ、兄弟仲が悪いらしい。ま、詳しくはアイツ自身から聞いてくれ。オレから話す事でもないからな」
道着に着替え、早めの軽い準備運動を部長や他の部員達と始める。続々と部員達が集まってきた。華山の姿を確認すればドキリと胸が高鳴る。これからどうなるのか、華山の思惑を探る為法助は思考を巡らせる。




