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きみとあなただけの教室  作者: ぐれこりん。
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プロローグ

女子生徒

「…」


学校構内。今しがたすれ違った女子に何かしら言われた気がする。しかし水鳥法助(みずどりほうすけ)はイヤホンを付けているので何を言われたのか分からなかった。法助は自分に与えられる五感全てのストレスを不快に感じている。とりわけ学校と自宅に関しては特に。


法助

「チッ…」


法助は小さく舌打ちをした。自分に対して浴びせられる発言はネガティブなものでしかない。そう思っているし、実際にそうである。耳も塞ぐし、目も閉じてしまいたい。ただただ嫌な時間を消費している。何一つ面白みのない人生を法助は歩んでいる。そんな想いがいつも頭をよぎる。

彼は水鳥法助、中学2年生で14歳。部活には入っておらず、放課後家にまっすぐ帰ることはなくCDショップで自分の波長に合う音楽を探すか、古本屋で立ち読みをする。学校に居場所はなければ家にも居場所はない。彼の両親は教師をしている。父母共に教師である。幼き頃厳しく躾られたが次第に兄弟と比べられる様になり勉強が嫌になった。単純に出来が違う、という訳では無く兄より容姿が劣ると母親に零されたのがきっかけである。法助は幼き心に思った。自分を認めない者の期待に何故答えなければいけないのか。自分と他人は違うのになぜ比べるのか。


法助

「忌々しい…。いちいち因縁つけやがって…」


法助は女性が嫌いになった。母がそう言ったから、という理由であるならば都合の良い様に自分の中で捉えられるかもしれない。だが他人は、特に男性であれば女性は値踏みしてくるからだ。自分をどの程度の男であるか、どの程度関わるに値する価値があるか。言わなくても分かる。言われなくてもわかる。例え相手が自分より劣った存在だとしても相手は自分を測ろうとしてくる。自分の中の、自分の作った定規で。だがかと言って男なら、男同士ならそんな事はありえないと言われるとそうでは無い。男は女によく思われたいがために、別の男より自分が強くより優れた存在だと周囲に知らしめようとする。全く滑稽である。そんな事のために自分が嫌な思いをさせられるだなんて。


男子生徒

「…くすくす。アイツ振り向きもしねぇな」


男子生徒2人がニヤニヤと笑いながら授業中に法助の頭に向かってちぎった消しゴムを投げている。少し大きめの塊が頭に当たった手応えを感じれば、男子生徒は法助がこちらを振り向く事に期待したが全く無反応である法助を嘲る。


法助

「…チッ」


男子生徒

「…アイツ今舌打ちしなかったか」


男子生徒2

「聞こえた。アイツ舌打ちしやがった。舐められてんな」


男子生徒

「…」


男子生徒は法助を睨みつける。当然法助は自分が睨まれていること等知りもしない。後ろからちょっかいを出され不愉快な思いをしながら胸に毒を溜め込んいる。


授業が終わり男子生徒が法助の机の横に立った。


男子生徒

「おい」


法助

「…」


法助は返事をしなかった。頬杖をつきながら因縁をつけられている事を不快に感じながら無視をしようとする。すると椅子を蹴り飛ばされる。


男子生徒

「ホースケ。お前舐めてんのか?」


法助

「なんなんだよ…」


イラついた表情で男子生徒の方へ振り向く。


男子生徒

「さっき舌打ちしやがっただろ。聞こえたぞ」


法助

「…ふー。癖なんだよ。君にやったかどうかなんて知らないよ」


男子生徒は法助の髪の毛を掴んだ。


男子生徒

「知ってるかどうかなんてどうでもいいんだよ。お前は俺に不快な想いをさせたんだ。なら謝るべきだよな?」


法助は少し驚いた表情をしたが、目を細めて男子生徒を見つめる。


法助

「…僕はまるで所有物だな。へー。そこまでされるような事を僕はやってしまったんだ。それは申し訳ない」


先生

「コラッ! 何をやってる!」


廊下で騒ぎを聞きつけた先生が教師に入ってきた。直ぐ様いざこざを止めに入る。


男子生徒

「調子に乗りやがって…。お前みたいなやついつでもゴミみたいにボコれるんだぞ」


男子生徒は法助の髪の毛を離せば顔に唾を吐いた。法助は眉をひそめ咄嗟に睨みつけそうになるが、これ以上因縁を付けられれば面倒だと思い袖で拭った。


女子生徒

「気持ち悪…」


その光景を見ていた女子生徒がそう零した。どちらに言ったかは明白だ。髪の毛を捕まれ口答えをした自分に対して蔑みの言葉を投げかけたのだ。

法助は思った。自分はゴミ箱かそれ以下の存在なのか。このクラスの連中の定規ではそういう位置付けなのだろう。憤りを越えて灰色な気持ちですらある。ここから何が起ころうとも心躍らされる事は無さそうだ。全く色のない人生。自分にとって他人は無駄な存在でしかない。


ふと辺りを見回す。一応にクラスの生徒は今の一悶着で法助に意識を向けている。驚いている者。せせら笑い蔑むもの。汚物を見るような目で見るもの。次第に意識の波は消えていき元の教室に戻る。


【1人だけ。1人だけ終始全く無関心なクラスメイトがいた。】


常磐雲母(ときわきらら)。あいつだけは何があっても動じない。成績は常に学年で1番であり、運動神経もずば抜けている。容姿も確かなもので教科書に制服のモデルに選ばれる程だ。あいつは何を考えているのだろう。僕がこのクラスで虐げられているのを見て、聞いて、どう感じているのか。

理解出来なかった。全く見ることも無く、クラスメイトと馴染むこともない。恐らくは自分と他人に隔たりを作っている。


僕と同じように。この世界に見切りをつけているのかもしれない。

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