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山の精霊たち

作者: みぶ真也

 焼物が好きだった祖父の家の床の間には、三角形に口の欠けた茶碗が飾られていた。

「山小屋にある窯で焼いた茶碗を持ち帰る時、迷ってしまったことがあってな。その時、山の神様が現れて村まで送ってくれたんじゃ。で、家で取り出してみると、口が三角に欠けてなくなっとった。山の神様が持って行ったんだ思うとるんじゃ」

 小さい頃に理由を訊くと、そう説明してくれたことがあった。

 その話を知り合いのプロデューサーにしたところ、面白そうだから番組で取り上げたいと言われたのだ。

 そこで、ぼくがレポーターになり祖父の窯のある小屋をレポートすることになった。

 早朝に出発したのだが、子供の頃2、3回行っただけの小屋に迷いながら到着したのはもう昼過ぎだ。

 何年も使われていない小屋はほこりにまみれていたが、窯にはまだ火が入れられそうだった。

 ろくろも健在だったので、ここで湯飲み茶碗を作るところをカメラに収める。

「この窯で焼く時間はないから、焼くのは他のところで」

 ということになり、粘土のままの湯飲みを箱につめて下山することになった。

 もう既に、秋の日はかげっている。

 急いで撤収し山道を下り始めた。

 かれこれ30分近く歩いただろうか。

「みぶさん」

 ディレクターの都筑さんが声をかけてくる。

「なんか、変な感じしませんか?」

「どういうふうに?」

「この山に来てから、ずっと何かが後を着いて来るような気がするんです」

 そこまで言った時、カメラマンの戸山さんが口を挟む。

「都筑さんも、ですか。おれもずっと変な感じだったんですよね」

 言われれば、確かに何かの気配がずっと跡をつけてきているような気がしないでもない。

「みぶさん、あれ、見てください!」

 前を歩いていた戸山さんが叫んだ。

 見ると、30分も下山したはずなのに、すぐ前にさっき出たはずの山小屋が見えて来る。浴衣姿の女の子が窓から顔を出し、こちらに向かって、

「おじさんたち、道に迷ったの?」

「そうらしいんだ」

 ディレクターの都筑さんが答える。

「町へ降りるなら、こっちから行くといい。私に着いて来て」

 そう言って彼女はぞうりをつっかけてさっきとは違う道に入って行った。

 皆、ほっとしてあとにつづく。

 ぼくは、しかし、不信感にあふれていた。

 こんな山の中で女の子が一人、何をしていたのだろう。それも、浴衣にぞうりの軽装で。

 さらに、さっきから後からつけてくる何者かの気配もまだ消えていない。

 10分ほど歩いて、あたりが暗くなり始めた頃、後から着いて来た気配がスーッと前進して皆の前に躍り出た。

 黒くて大きな、人間の形をしたモヤのようなものが立ちふさがる。

 一同は足を止めた。

 女の子はというと、すたすたとモヤに近づいていき、強い口調で、

「この人たちをからかうのはやめなさい!」

 モヤは次第に小さくなり、小動物になって逃げ出した。

「ムジナだったみたい」

 にっこり笑いながら彼女は振り返る。

 みんな、ぽかんとして見ているだけだ。

「さあ、早くしないと日が暮れちゃうわ」

 彼女がさっさと歩き出したので、皆はぞろぞろと続いた。

 ロケ車をとめてある場所に到着すると、女の子はぼくの方に来て、

「これ、返すわ。あなたのおじいちゃんから預かってたの」

 と、陶器の破片を差し出した。床の間に飾ってあった茶碗のかけらだ。

「えっ?じゃ、君は…」

 祖父の言葉を思い出して顔をあげると、女の子はもうそこにはいなかった。

 山の上の木立の中に消えていく浴衣姿の彼女がちらっと見えただけだ。

「みぶさん、あの子のこと知ってるんですか?」

 都筑さんが尋ねる。

「あの子は山の神様らしいんです。ずっと昔、ぼくの祖父が会ったことがあるそうなんです」



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