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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第六話 殺し屋

 一休みしたいところだったが、涼子から電話があった。


 “生存者の親子”と会って、興味深い話が出たのというので、警察署まで来ないかというものだった。電話でもいいが、できれば直接話を聞いてもらいたいとのことで、六堂はジーナを連れて涼子のいる警察署へと向かった。


 涼子の言う“警察署”とは、セントホーク事件捜査本部が設置されている新東京の愛理出あいりで警察署だ。


「眠かったら寝てていぞ」


 空港から一息もついてない上、時差ぼけもあるだろうと助手席のジーナを気遣った。この時間は道が混み合う。警察署までは時間がかかるだろうから、少しでも寝れるならと思った。


「Thank you、でも大丈夫。ところで、さっき、食堂の店主マスター夫婦と何喋ってたの?」


 通り過ぎるビルを眺めながらジーナは尋ねた。


「あの二人は俺の小中学時代の同級生でね。今回の事件で殉職したSATの中に、学年は二つ下だけど、俺たちと同じ学校出身者がいたってことを伝えたんだ。俺とは親友だったんだ」


(ああ、そうか)と、ジーナは思った。


 今回の事件、依頼者がいるわけでもなく、なぜ彼が調べているのだろうとは思っていたが、てっきり涼子と関係あるのかと考えていた。


 しかし、そうではなく、その“親友”のためなのだと何となく理解した。

 

 ジーナは学生時代、いわゆる日本でいう小中高時代を過ごした親友がいた。


 後にジーナは大学に、その親友は軍に入隊した。今も元気にやっているそうだが、あまり連絡はとれていない。


 ふと、そんな親友のことを思い出した。




 愛理出警察署では、涼子が部下の報告書に目を通しながらコーヒーを飲んでいた。


「警部補、六堂さんという方とがお見えになったそうです」


 部下の水戸刑事が内線電話の受話器を片手に言った。


「分かった。聴取室の前の椅子の所で待たせておいてくれ。私はすぐ行く」


 制服を着た女性警官に案内されて、聴取室前で待たされていた六堂は、かかってきた携帯電話に出てあれこれ話し込んでいた。


 そこへ涼子が来ると、ジーナは嬉しそうな顔で勢いよく彼女に抱き着いた。


「Long time no see!」


 涼子はそんなジーナの背中をぽんぽんと叩いた。


「久しぶり、悪いな、約束守れず。しかし何でまたあいつの手伝いを?」


「ん~、何か一人観光って気分でもなくなったし、ノリかな。あ!でも真面目に手伝うよ」


 電話を終えた六堂は、携帯電話をポケットにしまい、二人のところに歩み寄った。


「ごめんごめん」


 六堂は、裏社会に身を置いていた頃にチームを組んでいたハッカーの木崎きざきという男に江村に関する情報で怪しいものはないか調べてくれと頼んでいた。そのことで、木崎から電話があったのだった。


 涼子が聴取室のドアを開けると、セントホークの生存者の親子三人と、その向かいに川島刑事が座っていた。


 川島は六堂の顔を見て、(またこいつか)と露骨に嫌そうな表情をし、何かを言いたそうだったが、隣に涼子がいたのでそれは出来なかった。


 親子の名前は母親が木戸きど 祥子しょうこ。子の名前は5歳の兄が陸斗りくと、3歳の妹が亜美あみ。母親の祥子は脚に包帯を巻いていた。


「どうも、昨日の今日で聴き取りに協力していただいて、本当に助かっています」


 涼子が礼を言うと、祥子は申し訳なさそうな顔で首を横に振った。


「いえ、あまりお役に立てるようなお話もないと思うので、申し訳ないのですが」


 少し疲れた様子の祥子。


「こちらは私の友人で、私立探偵の…」

「六堂です」


 涼子に紹介を受け、祥子に挨拶をする六堂。


「木戸さん、事件現場での先ほどのお話を、もう一度彼にしていただけますか?」


 涼子の頼みに、祥子は少しだけ間を空けて小さく頷いた。


「はい…私は子供たちと…」


 祥子は子供らと共にテログループの人質だった。ただ、現場で何が起きたかはその場にいてもわからないということだった。

 

 少し手が震える祥子に、涼子は一旦休むか確認したが、彼女は首を横に振り、深呼吸をして落ち着こうとする。


「…次々、テロリストが倒れていくのです。血を流して、いえ…吹き出していました。そこにいた人間の悲鳴と、銃声が入り乱れていました。私はもう怖くて子供を抱きしめて床に伏せました」


 そこで目を瞑ってた祥子は、次は自分だ、次は自分だと、恐怖したという。だが、一発の銃声がした。周囲で聞こえていたそれとは明らかに異なっていたという。


「どんな?」


「パニックでしたが、とても記憶に残っています。遠くからドン、一瞬ですが、ひうっと風を切るような…」


 スナイパーライフルだ。六堂はライフルバッグと、ダクトのことを思い出していた。


「そのあとは、よくわからないのですが、眩しい光を発して…、何発も銃声がして…男の人に『立て』と言われました」


「男?」


 涼子は、ノートパソコンを回して、祥子と六堂に画面を見せた。


「木戸さん、もう一度確認しますが、この男で間違いないですか?」


「はい、多分その人だと思います」


 六堂は涼子に誰なのかを尋ねようとした。その隙間からジーナが画面を見た途端、大声をあげた。


「ムロトミ!こいつ、ムロトミ?嘘でしょ?」


 びっくりした涼子は、苦笑した。


「あんた知ってるの?」


「ロスで7件の殺人事件の容疑者。でも本当の数はわからない。私も3件担当しているけど、未解決のまま。そもそも本人の足取りを追えないのが実情。尻尾すら掴ませない。私は一度会ってるけどね…だから間違いない。その写真の男は、ムロトミよ」


 名前は室富むろとみ 雷朗らいろう、28歳。アメリカロサンゼルスを主な活動拠点としている殺し屋。アメリカ裏社会ではナンバー1という噂もあり、国際的な活動としては、アフリカの部族紛争で残虐の限りを尽くしていたイディロ・カイディータ将軍と、上海で麻薬の王と呼ばれたリー 炎蛇イェンシゥーの暗殺をしたと言われている。


 ノートパソコンに表示されている室富に関する情報を見て、六堂は思わず笑った。


ーーアフリカと上海の悪の大物が死んだってニュースで聞いてはいたが、こいつがやったのか。


「男に言われた通りに、立ち上がって子供とその場を逃げ出そうとしたのですが、私は足を怪我して転んでしまいました。銃の弾が足を掠めて…。するとその男は、何かを投げました」


「意図的に?」


「だと思います。途端に爆発し、あとは肩を貸してくれて…」


 テログループの持っていた爆弾とは違う、手榴弾の跡があったことを思い出す。ただ、一体“何”に向かって投げたのだろうかと考えた。


「僕ね見たよ!」


 六堂の脚を叩き、祥子の子、陸斗は言った。


 六堂は優しく微笑みながら、陸斗の目線に屈んだ。


「何を見たんだい?」


「んとね、光る人」


「光る、人??」


「そう、透明人間だよ。見えなかったのに、ピカピカーって人がいっぱい出て来たんだ」


ーー見えなかった?


「でもね、この人が僕と妹とお母さんを助けてくれたの!!」


 陸斗は室富の映っているモニターを指差して言った。


ーー室富は、その見えない“何か”に向けて、手榴弾を投げたのか。


「簡単なことでしょ」


 川島が割って入った。


「今回の件の一番の容疑者は室富だ。テログループも人質も殺したのは、こいつだ」


 六堂は(ちょっと待て)と川島に手のひらを向けた。


「この男があの現場にいた可能性は高い。でもだからって、それはあまりに安易な推測じゃないのか?」


「なぜだい?探偵君。凄腕の殺し屋が、あの惨劇の中にいたことはもはや確実だ。ならば、この男に疑いの目を向けるのが普通では?」


「しかし、こちらの親子のお話を聞くと、ちょっと違うような気が。助けてんでしょう?」


「子供の言うことです。信じられます?お母さんだってパニックでよく憶えていないわけだ?“見えない人”が光とともに出てきた、なんてことがまともなら真実とは捉えない」


 川島が六堂を馬鹿にしたような口ぶりでそう言うと、陸斗は大声で叫んだ。


「僕見たもん!!本当だよ!!」


六堂は陸斗の頭を撫でた。


「わかってる、わかってるよ、俺は君を信じているからね」


 にっこり微笑むと、陸斗も微笑み返してくれた。そして六堂が親指を立てグッドサインをすると、陸斗も同じように真似し、二人で笑い合った。


 その様子を見て、川島は立ち上がり、デスクをばんっと叩いた。


「坂崎警部補!!こっちは遊びじゃないのですよ!!こんな探偵、早く追い出してください」


「落ちきなさい、川島君。室富が無関係とは言っていない。だが、もしセントホークでの惨劇を室富がやったことだとして、動機は何?」


 川島は苛立つ気持ちを、問うてるのが涼子故に辛うじて我慢している様子だ。


「それは今後の捜査で調べていけばいい。とにかく私は室富探しに、力を注がせていただきますから」


 部屋を出て行く川島を見て、苦笑しながら涼子は(ごめんね)という顔をした。


 六堂は、二人の子らに(こまった人だねえ)とふざけた顔してみせた。大人が怒る姿というのは、幼少の子供にとって悪影響以外ない。六堂はそういうことないように気遣ったのだ。


「まあいいさ。ところで、この室富の映像はセントホークの?」


「そう、監視カメラよ。事件が起きる前の映像で発見したのよ。親子の証言をもとに分析チームがそれらしい人物はいないか、探したの。用心深い男のようで、ほとんどのカメラに映っていなくてね、見つけたのが映りの悪いこの一瞬だけ」


「記録映像があるなら、話は早いだろう。人質の取られていたフロアのカメラ映像ってないのかい?」


「残念ながら、テログループがシステムを乗っ取った時に、そこの14から16階のフロアだけ遮断していたの。分析チームが外からシステムに侵入したけど、物理的にカメラも破壊されていたし、だから何がおきたかは…」


 そう言うと、涼子は、水戸刑事が手にしていた袋を受け取り、中からチョコレートとラムネを取り出した。


「でもね…、僕たちのお話がとっても役に立ちそうよ。昨日は大変だったのに、ありがとう」


 子供二人にお菓子をあげる涼子。祥子は(どうもすみません)と頭を下げた。


「ありがと!!おねえさん」


 陸斗と亜美が元気に礼を言うと、涼子はにっこり微笑んだ。


「あらあら、三十路過ぎてる私に『おねえさん』か、いい子たちね」


 子供がいるとほっこり明るくなるなと思った六堂は、室富という男に少し興味を持ち始めた。


 もし話が正しいとすれば、室富という殺し屋はこの子供たちを、恵を殺した“何か”から守ったことになる。また何より、アフリカの残虐な将軍と、上海の大物犯罪者を殺したのも室富であるならば、そのことによって多くの人間が救われたことになる。


「ところで涼子さん、この家族には護衛を…」


「わかっているよ」


 セントホークではこの家族以外は全員殺されていた。この家族が室富が助けたのだとすれば、今生きているのは何かの“想定外”である可能性が高い。口封じの可能性を考えての護衛だ。

 護衛には、部下の水戸刑事以下三名に頼むことにした。


「心配はいらない、皆優秀だ。特に水戸君は、川島君とは違うよ」


 木戸親子に護衛をつけて帰したあと、これからどうするか考える涼子は、煙草の箱とライターを取り出した。


 事件について、“室富が現場にいたこと”以外は、何の手がかりもない。といって、室富がどこにいるかもわからない。


「俺、室富探しに行ってみるよ。ついでに雲隠れしているクァ・ヴァーキの情報も当たってみるさ」


 裏社会に身を置いていた頃にチームを組んでいた、もう一人の男の元に行くことにした六堂。情報屋ではないが、それなりにいつもアンテナを伸ばしている人物で、六堂とは損得なしで話が聞ける信頼のおける人物。だが最近は身分を変えたらしく、連絡先を知らないので、直接“いそうな所”に赴くしかない。


「そうだ、涼子さん、さっきの電話…木崎からだったんだけど」


「あの情報屋か」


「ハッカーって呼んでやれよ。聞いたら怒るぜ」


「情報引き出して金にしてるんだから、違いはないだろ」


 話は、“シードカンパニー”という会社のことだった。


「江村のことを調べてもらって出てきた情報なんだけど…シードカンパニーと庄司エンタープライズの繋がりについてわかったんだ」


「シードカンパニー?ゲームメーカ“メディコン”の下請け、だったな。庄司との繋がり?」


 シードカンパニーという会社は“ニュー・ジャパン・プロジェクト”というゲームメーカーのグループ会社である。一見すると“庄司エンタープライズとシードカンパニー”に繋がりはないよう思えるが、ニュー・ジャパン・プロジェクトの元代表は江村であることがわかった。

 

 そして、シードカンパニーは、庄司エンタープライズの例の江村のいた企画六課のシステム開発に携わっていたことがあるらしい。発注は巧妙に細工されているが、物資ではなくシステム開発だと思うと、木崎は言っていた。


「なるほどな、何のシステム開発…か」


「何か臭うだろ?おまけにシードカンパニーの今の代表、中村なかむら 美津男みつおは、元庄司の社員で辞職後、ニュー・ジャパン・プロジェクト入社を経て、シードーカンパニーの代表に就任という経歴だ。そして中村は江村の六課時代の片腕ともいえる技術者、つまり近い人間関係だ」


 涼子はその話を聞いて、軽く頷いた。


「…わかった。それでは私がその中村に話を聞きに行こう」



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