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ところでここのタイトル考えるのが

 全身から湧き上がる憤怒を隠すため、グッと奥歯を噛み締めるサゲンは見た。

 襲撃者たちの背後に躍る、新たな二つの人影を。


 一つは背の高い戦士、もう一つは赤毛の女格闘家……サゲンを追いかけてきていた、冒険者達だ。


 いつの間に追いついていたのか知らないが、サゲン達が揉めている間に、気配を殺して二人の後ろに回ったのだろう。


 ついさっき、ウゲンを捕らえた襲撃者たちとは段違いのスピードで二人の冒険者は距離を詰め、女は弩を構えているほう、そして戦士はウゲンに短刀を突きつけているほうへ狙いを定め、ほぼ同時に攻撃を繰り出した。


 低い角度で放たれた回し蹴りの踵と、目にも止まらぬ速さで抜かれた長剣の柄が、それぞれの前にいる人物の後頭部へ叩き込まれる。


 この一連の動作を、俊敏かつほぼ無音で済ませたのだから大したものだ。

 恐らく襲撃者たちは、何が起こったか理解する間もなく意識を失い、武器も人質も取り落として、地面に倒れ伏した。


 この二人が気絶し転がるのを見るのは、今日これで二度目となる。


「ふん、冒険者の風上にも置けない奴らめ」


 圧倒的な実力差で同業者を倒した戦士は、汚いものに触ってしまったとばかりに剣の柄をパッパと手で払うと、なぜか屈んで小石を拾い始めた。


 すると、もう危険はないと判断したか、隠れて様子を見ていたらしい他の仲間が、近くの藪の陰からゾロゾロと出て来た。

 拾い集めた石を、伸びている二人の周りに並べているリーダーに近寄り、まずは白魔導士が声をかける。


「ノブさん、それ何やってるんですか?」


「こうしておけば、『なんか石とか投げて攻撃してくる系のモンスターにやられました』って感じが出るかと思ってさ。……写真も撮っておくか」


 どうやら襲撃者達を倒したのは自分らではなく、山に出るモンスターである、という筋書きを作るつもりらしい。


 スミャホを取り出して捏造した証拠写真を撮ろうとするリーダーだが、白魔導士がカメラのレンズを遮って止める。


「下手に偽装工作すると、かえって怪しまれそうじゃないですか?『よくわかんないけど山で倒れてました』って匿名で一筆添えて、病院へ転送しちゃいましょうよ」


「俺も、ミアちゃんに賛成」


 ゴソゴソと道具袋を探りながら、盗賊が言った。


「ただ、転送先は病院じゃなくて市警団の本部がいいかもな……お、あった。コレだ」


 盗賊が袋の中から取り出したのは、一冊の帳面だ。“本年度手配中犯罪加害者一覧表”と表紙に書かれたそれを開き、ぺらぺらとページをめくると、中ほどで指を止めた。


「やっぱり。コイツら、冒険者の格好ナリしてるけど、お尋ね者の小悪党だよ。

 一般市民相手に恐喝、窃盗、寸借詐欺を繰り返してる、性質たちの悪い奴らだ」


「本当か?どれどれ……」


 リーダーとコアラ剣士が盗賊の手元を覗き込み、帳面に載っている人相書きと意識のない二人を見比べる。


「あー、ホントだ。同じ顔だ」


「まったく、シケた連中も居たモンじゃねえか。これなら強制転送しても文句は言われねえな」


「それじゃ、市警団本部へ転送ということで」


 もうこれ以上は顔も見ていたくない、とばかりに、白魔導士が杖を振り上げるが、


「一応、縛り上げておこう」


 というリーダーの提案で、これまた盗賊の道具袋から取り出したロープで二人を拘束する運びとなった。


 男三人が小悪党を持ち上げたり転がしたりしてふん縛り、白魔導士がそれを見守る一方、女格闘家は地面に落ちていたブローチを拾い上げていた。


 上着のポケットから取り出したハンカチで、落ちた拍子についてしまった土汚れを丁寧に拭いながら、「わー、すごくキレイ」と呟く。


 当然だろう、魔王城で一番の腕を持つ細工師が、サゲンの結婚祝いに造ってくれた一級品だ。

 めいっぱい着飾ったうえでそれを着けて、喜んでいた妻ターニャの姿を、まるで昨日のことのようにありありと思い出せるが―――


 何だかもう、千年も昔のことのように思える。幸せだった日々は、あまりに遠い過去となってしまった。


 あらかた土汚れが取れると、女格闘家は呆然として成り行きを見守っているウゲンに近寄り、拭き清めたブローチを差し出した。


「はいコレ、大事な物なんでしょ?あんな連中に渡すことはないわ」


 さっきの凶悪な人間達とはまるで違う、優しい表情で話しかけられ、ウゲンは緊張しながらも口を開く。


「あ……ありがとう」


 おずおずと手を伸ばし、ブローチを受け取るウゲンに、女はたぶん人間の子供と接する時と変わらないような微笑みを浮かべている。


「あの状況でお父さんを助けようとするなんて、アンタ強いのね」


「え?そ、そうかな」


「ええ。中々できるコトじゃないんだから、自信持っていいよ。……ほら、お父さんのところ行ってあげな。きっと心配してるから」


 女格闘家に促され、ウゲンは立ち上がった。早足でサゲンの元へ駆け寄ると、まずは謝罪の言葉を口にする。


「父ちゃんゴメンよ。約束破って、父ちゃんを危ない目に逢わせて……本当にごめんなさい」


 泣きそうな顔をしてはいるが、擦り傷一つない姿を見ていると、安堵で胸がいっぱいになり、叱る気持ちは湧いてこない。

 帰ったらしっかり説教しなければとは思うが、元よりこの年頃の子供を洞窟に閉じ込めておくなんて酷なことだったのだ。


 息子の安全の為とはいえ、締めつけるばかりで気晴らしになるようなことはさせなかった自分にも、責任はある。危うく自分のせいで息子を失うところだった。


「いいさ……お前が無事で良かった」


 本心からそう告げると、息子にも気持ちは伝わったらしい。


「父ちゃん……!!」


 両の目からボロボロと涙を零し、抱きついてきたウゲンを、しっかりと受け止める。互いに無事を喜び合う魔族の親子を、冒険者一行は皆、優しい眼差しで見守っている。

 同じ子を持つ父親である盗賊テリーの目には、涙すら浮かんでいた。


 奇跡といってもいいような、大きな幸運によって危機から救われたことを喜び合った後、抱擁を解いた親子は、助けの手を差し伸べてくれた冒険者達へ顔を向けた。


 冒険者一行とまっすぐ向き合うと、まずは若いリーダーへ、サゲンは深くこうべを垂れた。


「すまねえ、アンタのおかげで俺も倅も助かった。感謝してもしきれねえのに、俺ときたら……

 さっきは出会い頭に戦いをふっかけたりして済まん。馬鹿な真似をしちまった」


「いやいやそんな、いいんですよ」


 さっきまで敵だったとはいえ、立派な武人めいた人物から真摯に謝られ、恐縮してしまったノブは、自分達の発言もそうとう酷かったことを思い出す。

 どうやら謝らないといけないのは、こちらのほうだ。


「こっちこそスミマセンでした、『死なない程度に痛めつけろ』なんて指示出しちゃって」


 ペコリと頭を下げたリーダーに続き、他のメンバーも続々と謝罪の体勢を取る。


「あたしも角が欲しいなんて言っちゃって、ごめんなさい」


「俺も皮よこせなんて言っちまって……」


「お、俺もアイテム掠め取るつもりでした、スンマセン」


「お顔を見たらお腹が空いてしまって、申し訳ありませんでした」


「ええーーーーーっ!!!?」


 助けてくれた冒険者達の口から、次々と恐ろしい文言が飛び出してきたものだから、少年ウゲンは飛び上がって叫んでしまう。


「な、何かすっごい怖いコト言ってる……あのヒト達も悪者なの!?」


「い、いやそんなことはないぞ。良い奴らのはずだ……たぶん」


「たぶんーーー!!!??」


 フォローに入ったサゲンも、いまいち自信なく言うものだから、いよいよウゲンは恐慌状態に陥ってしまう。


 これはまずい、何とか誤解を解かねばと思うノブだが、なかなか納得してもらえるような言い分を思いつけずにいると、


「静かにおし、ウゲン!その子達ゃ何にもしやしないよ」


 張りのある声が、ピシャッと場を収めてくれた。魔族も冒険者も皆が口を閉じ、声のしたほうへ目を向ける。


「やれやれ、随分な騒ぎになったもんじゃないか」


 そう呟きながら木立ちの陰から出て来たのは、小さな兎型獣人の老婆だった。

 右手に何やら小さな陶器を提げ、ゆっくりとこちらにやって来る。

 腰は曲がり、動作は鈍いが、目には深い知性が輝いているのが見て取れた。




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