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旅したり観光したり食事したりして

 くそ、よりによって……でも待て、ドラゴンといっても色んな種類がある。トカゲくらいの大きさの可愛いやつとか居るし、きっとそれだ。


 どうにか前向きなほうへ考えようとするサゲンだが、次の戦士の発言によってその希望は儚く打ち砕かれることとなった。


「トドメ泥棒されたけど、あのドラゴン強かったよな?象くらいデカかったし、『氷の息吹ブレス』とか『凍える爪(アイスクロー)』とか、技いっぱい使えたし」


 象ほどの大きさで氷系の魔法が使えるドラゴン、か……それ魔王城でもそこそこ上の階で出るやつじゃねえか。

 平地にもそんなん居るの?で、倒したの??


 絶対それが一番強いモンスターだろうと思うサゲンだが、戦士から同意を求められた女格闘家は、あろうことか首を傾げている。


「どうかな。確かに最近戦った中では強かったけど、最強ってほどじゃない気がする」


 おいおい正気か、この女。魔法使えるでっかいドラゴン以上に強いモンスターなんて、城外に居る訳ないだろう。


 ……いない、よな?


「あのドラゴンよりさあ、『くちばし山』で戦った三つ頭の蛇のほうが厄介じゃなかった?」


 くちばし山といえば、高く険しいことで有名な岩山だ。実物を見たことはないが、切り立った山の先端が猛禽の嘴と形が似ているからその名がついたとか。


 そこにでる三つ頭の蛇、か。よく知らんけど何か凄そう。


「ドラゴンほどじゃないけど大きいのに素早くて、攻撃当てるだけで一苦労だったじゃない?

 高所から毒液吐きかけてくるから、避けるのも大変だったし」


「……おまけに三つの頭をほぼ同時に落とさないと、無限に再生したしなあ」


 当時を思い出したのか、苦い表情を浮かべたコアラの老剣士が話に入って来た。

 聞いているだけでも恐ろしい怪物だ、実際に戦った時はかなり危なかったことだろう。


「消費アイテムめいっぱい使って、やっと勝てたけどよ。あん時ゃあみんな戦闘終わった時にはもう満身創痍だったろ」


 傷だらけでも、生きて帰っただけスゲェよ、と敵ながら感心してしまうサゲンだが、盗賊はまた違う意見のようだ。


「俺は、『宵ヶ森』に出た『笑う影』に一票だな」


 これはまたゾッとするような名前のモンスターが出て来たものだ。

 その森も笑う影とやらも初めて聞くが、一筋縄ではいかない奴なのだろう。俄然興味が湧いてくる。


「何だ、それは?どういう怪物だ」


「森を抜けようとする者に付き纏う、実体のない幻影みたいな連中ッスよ」


 この盗賊もまた見た目通り素直な性格らしく、見ず知らずの魔族にも快く答えてくれる。


「あと少しで森を出られる、くらいのタイミングで出てきて、高度な幻術を使って周囲の景色を歪めるもんだから迷わされちゃって。

 ずーーっと同じ所をグルグル歩かされて、もうヘトヘトですよ。結局、二進も三進も行かないんで、いったん前に寄った村まで移動魔法で戻る羽目になったりして、大変でした」


「ああ……移動魔法って『以前に訪れたことのある場所』しか行けないもんな。そりゃ苦労したろ」


 会話を重ねるうちに和んでしまった場の空気に流され、つい労いの言葉などかけてしまった。

 盗賊はイヤイヤ、と首を振り、横に居る白魔導士に目線を送った。


「このミアちゃんが光系魔法の『白日の光(ブロード・デイライト)』を覚えてくれたんで、二回目の挑戦で突破できました。いや~、見事に蹴散らしてくれて。白魔法さまさまですよ」


「そ、そんなことないですよ~~。私一人じゃヤマネズミだって倒せないですもん。全然すごくないです」


 ダイレクトに褒められて照れ笑いする白魔導士は、いかにも非力でか弱く見える。


 まさかこの少女が、かつて“おうたの騎士様”初回生産限定ボイスブック付きプレミアムDVDの入ったバッグを、それと知らずに引ったくってしまった窃盗犯を目にも止まらぬ速さで追いかけてロッドで殴り倒したことがあろうとは、その場に居たパーティーメンバー以外は誰も思うまい。


「お前はどうだ、白魔導士?どのモンスターが強かったと思う?」


 ここまで来たら非戦闘員の話も聞いてみたくて問いかけると、白魔導士はちょっと考えてから答えを出した。


「私は、強いというか……『見捨てられた城の沼』に棲んでた『溺れし者達の手』が嫌でしたね」


「ああ、舟を沈めようとしてくるって奴か」


 その名前ならサゲンも知っていた。


 それが姿を現すのは、廃墟と化した古城をぐるりと囲んでいる、広大で陰鬱な沼だという。

 古城といえば聞こえはいいが、その沼の中心にあるのは、『見捨てられた城』と呼ばれるに相応しい、もはや朽ちかけ半分くらいは沼に飲み込まれたような城だそうな。


 この上なく陰気で近寄りがたい建物だそうだが、“上に行くほど出現する魔物が強くなっていく”という構造が魔王城に似ているということで、本番前の予行演習をしておこうと挑戦する冒険者も多いと聞く。


 そんな勇気ある冒険者達を阻むのが、『溺れし者達の手』だ。


 城の攻略へ挑んで虚しく散っていった死者の亡霊とも、太古の昔から沼の奥底で生息する水棲モンスターとも言われる、正体不明の不気味な存在で、沼を渡ろうとする冒険者の小舟の縁に手をかけてくるという。

 その手は真っ黒な泥で汚れ、爪が無いかわりに水かきがついているというからゾッとする話だ。


 ただそれほど強いモンスターではなく、棍棒などで強めに叩けば引っ込む程度のものだというが、とにかく数が多い。

 ちょっと油断すれば転覆させられる恐れがあるので、渡り切るまで打ち据えて追い払い続けるしかなく、城に着くまで片時も休めないのだとか。


 真っ黒い水面から無数に湧き出て、舟へしがみつく黒い手を思い出し、白魔導士ミアは小さく身を震わせた。


「あの沼のことは、今でもたまに夢に出てきます……岸から漕ぎだして、お城に着くまで一時間もなかったと思うんですけど、もう三日三晩くらいの長さに感じました」


 それは確かにトラウマ必至の光景だったろう。

 しかし、見た目が不気味だったというだけで強敵だったわけではない、ということは納得しているらしく、白魔導士は小さくかぶりを振った。


「恐いし気持ち悪かったけど、私でも棒で叩けば追い払えたから強かったわけじゃないですね。

 だから単純にモンスターのレベルで考えると、一番強いのってこの前のドラゴンでいいんじゃないでしょうか」


 この意見に、盗賊も頷いた。


「ミアちゃんの言う通りだ。『笑う影』だって対処法さえしっかり覚えれば簡単な相手だったし。ドラゴンのほうが上だな」


 二人の話を聞いて、女格闘家とコアラ剣士も考えを改めたようだ。互いに顔を見合わせ、頷き合う。


「そうね、三つ頭の蛇もあの時あのレベルだったから難しかったんだわ」


「ああ、今の俺達のレベルならもう楽勝だろうな」


「おっ、じゃあ最初に言った通り、ドラゴンが最強ってことでいいかな」


 遠回りしたものの自分の意見が通って、ちょっと嬉しそうなリーダーに、今度は誰も異論を唱える者はいない。

 これで最終的な結論が出たと見て、リーダーはサゲンに向き直る。


「……という訳で、俺達が倒した中で一番強いモンスターは、最近倒した氷系ドラゴンということになりました」


「なるほど、ドラゴンだな。それに毒を吐く三つ頭の蛇、幻術を使う影、沼に棲む亡者の手……」


 名前の挙がったモンスターを繰り返し、何度か頷いた後、サゲンは頭を上げた。

 いよいよ仕掛けて来るかと万全の態勢で構えて待っている冒険者達の顔を見渡してフッと短く笑い、


「どうやら、俺と戦えるほどの猛者もさはいないようだな。今日のところは見逃してやる、あばよ!!!」


 迷うことなく背中を向けて、一目散に走り出した。


「あ゛ーーー!!逃げた!!!」


 後ろから赤毛の女が叫ぶのが聞こえてくるが、逃げたなどと人聞きの悪い。逃亡ではなくて戦略的撤退だから、その辺は間違えないでほしい。


 目当ての敵が逃げ去ってしまい、後に残されたパーティーは戸惑いながら、リーダーの近くへ集まる。

 まずはアキナが代表して、「どうする?」とノブへ尋ねる。


「強がり言ってたけど結局、あたし達と戦いたくないみたいね」


「うん……」


 それはノブも同意見、大柄な体格に似つかわしくないようなスピードで逃げていったからには、こちらとの戦闘は避けたがっていると見て間違いないだろう。


 だが、せっかくここまで来たのに見逃す手はない。かなりの俊足ではあるが、ばっちり足跡も残っているし、追跡するのに苦労はなさそうだ。


「向こうが戦いたくないならそれでもいいから、とにかく追いかけよう。

 けっこう話せる感じの魔族ヒトだったし、ダメ元でいろいろ聞いてみたい」


 これについても全員、異議はなし。ノブパーティーは足並みそろえ、魔族サゲンを追って走り出した。


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