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せめてフィクションの中だけでも自由にいろいろな所を

 そんなバカな、とパーティーの様子を窺うが、相変わらず誰も怯んだ様子はなく、まっすぐこちらに向かって臨戦態勢で構えている。


 と、一番後方にいる白魔導士が杖を振り上げた。

 持ち手に嵌まっている珠からオレンジ色の光がほとばしり、武器を持つ者達に降り注ぐ。


 これも幾度となく見て来た光景だからわかる、それぞれの攻撃力をアップさせる補助魔法だ。ということは……


「よっし、これで3ターンでイケる」


 全身に闘気をみなぎらせながら、リーダーが軽く剣を振った。たったそれだけの動きで、空気を斬るヒュンッという鋭い音が響き、足下の草がハラハラと散った。


 闘る気充分のリーダーの横で、彼と同様に体の内から溢れるパワーを発散したくて仕方ないらしく、赤毛の女とコアラ剣士も拳を打ち鳴らしたり、肩を動かしたりしている。


「さて、行きますか……待ってなさいよ、ツノ!!」


「3ターンといわず、ちゃちゃっと決着ケリつけてやるぜ、皮!!」


 とうとうオレのこと各部位で呼び出した!!まだ生きてて自我持ってんだから、装備の材料扱いすんのやめてくんない!!?


「なんか珍しいアイテムとか持ってそうだな~~。俺もがんばろっと」


 後衛の盗賊まで腕を回してウォームアップしている……これじゃ、ビビって口をきけないのは白魔導士の小娘だけか?


 いかにもか弱く、虫も殺せないような少女しか脅せないとは、元とはいえ魔王城高層階の警備を請け負っていた身としては情けない限りだ。

 落ち込んだ気持ちを顔に出すまいと、厳めしい表情を保っていると、黙っていた少女が口を開いた。


「……お腹すいた~~~」


 狼狽えるサゲンへ追い討ちをかけるように信じられない一言を呟いた白魔導士の目は、まっすぐこちらに向けられている。


 こ、こいつ、静かにしていると思ったら……俺を見て食欲を刺激されていたというのか!!?


 もう混乱を通り越えて恐怖を感じ始めたサゲンと、手に提げているランチバッグを交互に見やり、白魔導士は小さく溜め息をつく。


「あ~~、サンドイッチだけじゃなくて、ハンバーガーも買えば良かった。先輩が皮もらうなら、私はお肉もらおうかな」


 やややややばい……この娘はやばい。

 俺のこと武器とか防具の材料じゃなくてもう、食材として見ている……挽いてこねて丸めて焼いて、パンに挟むつもりでいる!!!


「おいおい。ダメだよ、ミアちゃん」


 よかった、またリーダーが注意をしてくれ……


「あれは食べても美味しくないから。せっかく牛肉食べるなら、ちゃんとお店で買ったやつにしようね」


 そこか!?注意するとこはそこなのか!!?まずは倒した敵を食おうとするなと言え!!いや倒されないけども俺は!!!


 ……倒されない、よな?勝てるよな……?


 不安になってきたサゲンをよそに、白魔導士とリーダーは気の抜けるようなやり取りを繰り返す。


「わかってます、食べませんよ。でも夕飯はハンバーグがいいです」


「ああ、たまには宿の食堂じゃなくて外食もいいね。久しぶりにどっきりロシナンテ行こうか」


 やった~~とはしゃぐ白魔導士を、メンバー達は優しい目で見守っている。

 微笑ましい光景ではあるが、今ここでやることじゃないだろう。一応は敵とエンカウントしてる最中なんだから、場違いも甚だしい。


 揃いも揃って能天気な顔を見ていたら、ふつふつと怒りが湧いてきた。


 こうなったら、峰打ちでは済まさん。こいつら全員、半殺しにして踏みつけてやる……!!


 サゲンが放つ尋常ではない殺気を感じ取ったか、こちらに視線を戻したリーダーがサッと表情を引き締める。


「…っと、雑談はここまでにしよう。皆、わかってるな?くれぐれも……」


 やっと危機感を抱いたようだが、今さら仲間に用心を促したところで無駄なこと。

 これまで挑んで来た冒険者達と同じように、お前らはこの拳の犠牲となって無様に地面へ突っ伏することに


「トドメは刺さないように」


 ……!?……!?どういう指示だそれは……!?


『あんな牛野郎、瞬殺だ!!』とか言われたことはこれまで数え切れないくらいあるが、こんな台詞を聞いたのは初めてだ。

 トドメを刺すなって、どういうことだ?この男……いったい何を企んでいる?


「朝のミーティングでも言ったけど、今日はほら、死体に用はないからさ……」


 淡々と語る静かな声。野太い怒号よりよっぽど怖い。


 もしや大人しそうな顔をしてこのリーダー、かなりヤバい奴なのか?

 どこからどう見てもザ・地味な戦士の代表みたいな容貌だが、凶悪な犯罪者ほど素顔は普通だとかいうし、有り得なくもないかも……


 サゲンの不安を煽るように、リーダーの男は抑揚のない口調で続きを語り始めた。


「まずは打ち合わせ通り、ギリギリ口がきける程度まで弱らせること。その後は……

 俺に任せてくれ」


 サ、サイコパス…………間違いない、こいつは本物のサイコ野郎だ…………


 俺のことを再起不能まで叩きのめした後、まだ息のあるうちに角を引っこ抜いて生皮を剥ぎ取って、最後は挽き肉にするつもりだ…………!!


 敵対する魔族の脳内に、両手を血で濡らしながら高笑いする自分の姿が描かれているなどとは露知らず、


「それじゃあ、始めるぞ!まずは先陣、参る!!」


 気合いの言葉を発し、一歩を踏み出したリーダーのノブだが、


「おっと、それはまだ気が早いぜ。若いの」


 こちらに向かって手を突き出したサゲンに止められた。


「……!?どういう意味だ、それは」


「へっ、どういうもこういうも、そのまんまの意味さ」


 身の内に湧きおこってしまった恐怖を隠すため、無理をして不敵に笑ってはいるものの、内心サゲンはノブが足を止めてくれて良かった~~と胸を撫で下ろしていた。


 この調子でどうにか話を引き延ばし、逃げ……じゃなくて、戦略的撤退を計る機会を窺わなくては。


「俺とり合いたいなら、まずはそう……

 お前らが今まで倒して来たモンスターの中で、一番強かったヤツの名前を言ってみろ!!話はそれからだ!!!」


 切羽詰まって苦し紛れに出てきた案だが、我ながらこの話題はなかなかナイスなチョイスだ。

 これを聞けば、コイツらがどの程度の強さの冒険者であるかがハッキリわかる。

 実はろくなモンスターと戦ったことがなくて、サゲンのビビり損という可能性も、なくはない。


 さあどうなるかとサゲンが答えを待つ一方、思いも寄らない質問をされて出鼻をくじかれたノブは、きょとんとしている。


「……えっ、何でそんなこと聞く???」


 うん、まあ、そうなるよな。このタイミングでこの質問、変だもんな。

 気持ちはわかる……わかるが、今のサゲンにはこの話題を何とか膨らませる他に道はない。


「いいから答えろ!!お前らの墓に、名前と一緒にこんな強いモンスターを倒しましたよって刻みつけてやるから!!」


「何で??」


「それは、あの、……え~……そういう風習だからだ!!俺の田舎ではそういうことすんだよ!!」


「へえ~~、そんな風習あるんだ」


 よっしゃ、信じた!!感心しているような顔をしている!!


 ちょっとこの理由は苦しいかと思ったがこのサイコ野郎、イカれてるだけじゃなくてお人好しなところもあるな。

 何かそれはそれで怖い気もするが、まあ良し。


「うーーん、一番強いモンスターか……どれだろうな」


 記憶を探るノブを、サゲンは祈るような気持ちで見守る。


 頼むから拍子抜けするくらい弱いモンスターを挙げてくれ……その辺にいる猿頭の獅子(バブーンキメラ)とか、一角熊ホーンベア、あとはヤマネズミとか……そうだ、ヤマネズミがいい。ヤマネズミ来てくれ~~……


「あ、あれかな?この前倒した青いドラゴン」


 ドラゴンが舞い降りたああ!!!




※エンカウントした敵が素材に見えてしまう現象…モ〇〇ンやゴ〇ド〇ー〇ーなど、主に狩りゲーで起こる現象。武器や防具の改良・製造をしたいあまり、めっちゃデカくて超怖いライオンみたいなのが目の前に現れたというのに「よっしゃタテガミ来たああああ」とか叫んでガッツポーズしてしまう。

有料DLCで追加任務購入すれば入手の可能性が3倍になるというのに、「何で結構な金出してソフト買ったのにまた金払わなければならぬのだ」という思いから意地でアイテム出るまで通常任務をプレイし続けた戦いの日々よ。金さえあればなあ……

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