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ちょっと空気読めば?という感じではありますが

 ***


 よく晴れた初秋の午後、市立聖マルシウス病院の中庭。よく手入れされた芝生の上を、二人の冒険者が歩いている。


 一人は入院患者が着る白い服を着た青年で、名をトーゴといい、もう一人はこういう回りくどい、いかにも小説書いてるんでヨロシクという説明も今更いらない地味・真面目・平凡・そして地味パーティーのリーダー・ノブだ。


「や~~、早く治って良かったね。トーゴ君」


 まだ完全でないとはいえ、ひとまずの快復を喜ぶノブに、戦士トーゴは柔らかな笑みを返す。


「おかげさまで軽傷だったので、三日の入院で済みました。他の皆も今週中には退院できる見込みです」


「そうか、それは良かった」


「すべてノブさんのおかげです、本当にありがとうございました」


「いやいや……」


 深々と頭を下げるトーゴに、ノブは一歩引いて謙遜の意を示すが、内心はとても嬉しい。

 ここで礼を尽くせるのは彼が真っ当なパーティーリーダーであるという証拠だ。


 トーゴのパーティーは先日、長く旅している冒険者でも耐えがたいような、過酷な経験をした。

 引退しても致し方ないような状況ながら、これからも冒険を続けると決めたというから、なかなか根性がある。


 そんな彼らを命の危機から救ったのが、他ならぬノブ達のパーティーだ。

 今日をもってリーダーのトーゴが退院するので、ぜひ直接会って恩人にお礼を言いたいという報せを受け、快く応じて病院まで訪ねて来たという訳だ。


 最初はそれぞれのパーティーメンバーを交え、ロビーで話していたのだが、ちょっとノブに見てほしいものがあるとトーゴが言うので、連れ立って中庭まで来た。


 果たして見せたいものとはいったい何なのか。

 気になるところだが、その前に一つ訊いておきたいことがある。


「ところで、ビヨーク君は……」


 さっきロビーでは見かけなかったので、どうしているか知りたかったのだが、どうやら失敗だったようだ。ビヨークの名前を出した途端、トーゴの表情は曇ってしまった。


「あ、ゴ、ゴメン」


 彼らのパーティーに何が起きたか、だいたいの説明は受けていたので、お節介ながらも彼の処遇をどうするか心配になってつい質問してしまったのだが、禁句だったか。

 慌てて謝るノブに、トーゴは力なく首を横に振った。


「いや、いいんです。アイツのやったことは許されることじゃないけど、半分は俺の責任だと思ってて……実は、見せたいモノっていうのは、あれなんです」


 そう言ってトーゴが指差したのは、中庭を挟んで病院の本棟と併設している建物だった。

 確か、長期入院患者のためのリハビリ施設だったか。

 ノブとトーゴの立っている辺りからは、ちょうど一階にある歩行練習用の広い部屋が見えた。


 捕まり歩きする為の手すりや、車椅子用のレーンが至る所に設置された室内を、数人の患者がゆっくりと歩き回っている。

 リハビリにいそしむ患者達には、それぞれ病院の制服を着た職員がついているのだが、その内の一人に見覚えのある顔があった。


「あ、あれ……ビヨーク君!?」


 例の件でテリーが魔植物の根から最初に助け出した、面長な青年に間違いない。

 あの時は真っ青で死にかけていたが、今は実に活き活きとした表情で、松葉杖を使ってヨロヨロと歩く年配のご婦人を補助している。


「良くしてくれた病院の方々に恩返しがしたいと言って、昨日から無償で手伝っているんですが……多分、このままここで雇われるとこになるでしょう。

 人手不足だから男手は大歓迎だそうで、看護師長さんからも是非つづけて働いてほしいと言われてます」


 そう語るトーゴは感慨深げだが、同時に寂しそうでもある。

 共に故郷を出てずっと一緒に旅してきた、気心知れた無二の友人と別離することになりそうなのだから当然か。


「本当は魔王城まで一緒に行きたかったんですが、あんなコトの後ですから。

 他のメンバーはもう同じパーティーで一緒にやっていくのは無理だと言ってますし、アイツも会わせる顔がないって、入院してからは一度も俺以外のメンバーとは会ってないんです。


 でも、こんな風になってしまったのは俺の所為だと思うんですよ……元はといえば俺が強引に連れ出したから旅に出ただけで、ビヨークは冒険者になるつもりなんてなかったのかもしれない。


 幸い、合ってる仕事も見つかったようだし、ここに留まって一市民として暮らしていくことがアイツにとって最善の道ならば、出来る限り協力してやりたい。

 それが、俺がビヨークにしてやれる、リーダーとしての最後の仕事だと思ってます」


 トーゴの口から、偽りのない決心を聞いて、ノブは目頭が熱くなってきた。

 真剣に冒険に取り組んでいるからこそ、彼の言葉は胸に響いて来る。リーダーたるもの、こうでないと。


「偉い、偉いよトーゴ君。やっぱリーダーは強く優しく……あと早起きしないとダメ」


 なぜそこで早起きというワードが出てくるのかと訊きたいトーゴだが、感動に打ち震えながら濡れた目許を拭っているので水を差すのはやめておいた。

 どうもこのノブという人、命の恩人だし尊敬に値する先輩なのは間違いないのだが、時々よくわからないことを口走る。


 さてビヨークの進退についての話も終わり、一段落ついたのでロビーへ戻ろうとした二人の耳に、


「急患です!!」


 という張り詰めた声が響いた。

 はっとして声のしたほうを見ると、数人の患者が担架に乗せられ、搬入口から病院の中へバタバタと運ばれていくのが見えた。

 身なりからして冒険者のようだが、痣や打撲の痕が目立つ。どうも魔法ではなく、物理攻撃を食らったらしい。


「また派手にやられてるな~~」


 体格や装備の質からして、それほど弱い連中にも見えなかったからつい独り言に近い呟きが漏れてしまったが、トーゴも同じ気持ちだったらしい。頷いて答えてくれる。


「最近多いみたいなんですよ。そこそこ活躍してるパーティーが殴り倒されて、病院送りにされるの」


「へえ」


「俺達が入院してから、これでもう三件目かな?みんな平原のところにある山に行った人達で……

 何でも、でっかい牛型の魔族にやられたって話ですよ」


「魔族……モンスターじゃなくて?」


「はい。『二度とこの山に足を踏み入れるな』って脅して、襲いかかってくるらしいです。あの山を自分の縄張りにするつもりなのかな」


「ふ~~ん、山にねえ……」


 魔族であれモンスターであれ、危険な敵が出ると聞けば挑戦したくなるのは冒険者のサガ。

 トーゴ達も回復したら様子見に行ってみるつもりだろうし、当然ノブもその気になっているが、動機は他の冒険者達とちょっと違う。


 言語能力を有しているということは、意志疎通を図れる魔族だということ。

 いま聞いた話からすると、どうも好戦的な輩っぽいのでどこまで話が通じるか、そもそもこちらと対話する気があるかどうか微妙なところだが、どうなるにせよ探してみる価値はありそうだ。


 もし見つからなかったとしても紅葉がきれいな季節で栗もキノコも採れるし、行ってみて損はないだろう。


「よし、山だ。山へ登ろう」


 かくして、ノブパーティーの次の行き先は決まった。


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