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記憶の迷子が帰る場所①

 ***


「何だ今の!!?」


 まるで一連の物語が目の前で起こっているかのような、臨場感あふれる映像が終わり、フィーデルは絶叫した。


「あ、頭の中に直接きた……新種の精神攻撃!?」


 頭を抱えて震えるフィーデルの反応に、新鮮でよろしいとノブは頷く。


「恐れることはないぞフィーデル君。これは戦士がレベル80で覚えるスキル『以心伝心』を使った応用技……名付けてデス・ビジョン!」


 技の名前を口にしながら、がっつりポーズを決めるノブ。その姿はさながら、戦隊モノのレッドの如し。このタイミングでやられると、何か無性に腹立つんですけど。


 フィーデル以外のメンバーはそこそこ耐性があるらしく、さほど驚いてはいないが、まあまあ落ち込んでいる。


「とうとう名前も出なくなりました……回想シーンのみの登場って……」


 打ち沈むミアに、「まだ顔が出てるだけいいじゃない」とアキナが口を出す。


「私らなんか、存在を匂わせるだけで退場だわよ」


 退場、の一言がトドメとなったか、青褪めた盗賊がガクリと膝をついた。


「フィーデル君はキーパーソンっぽい立ち位置なのになあ。これがイケメンと、そうでない者の差だというのか……っ」


 まだそれ悩むか。奥さんも子供もいるんだから、外見とかいいだろ今更。

 ミアやノブと共にデス・ビジョンとやらに顔を出したヴェンガルはというと、さすがに落ち着いている。


「回想だけのパターンでも生き残ってるんだな俺は……ん?」


 何かに気づいたらしく、老剣士はフィーデルに目を向ける。


「お前、さっきの見えたのか。荒れ地で人質取られてどーこーってヤツ」


「? もちろん見えたが……それが何か?」


「いや……」


 フィーデルの質問にはハッキリと答えず、ヴェンガルは顎を擦りながら考え込んでしまう。

 皆が見たものをフィーデルも見たことが、そんなにおかしいだろうか?やっぱりこの人は、よく理解らない。


 それぞれのリアクションを見届けたところでノブが、仕切り直しとばかりに、フィーデルとミアに向き直る。


「そういう理由だから、当面は恋愛禁止!恋に落ちるのは冒険が終わってからにしてください」


 これにはミアもフィーデルも怒らずにいられないが、


「別に恋とかしてないし!!」


 と、ぴったり声を揃えて言うものだからぜんぜん説得力が無い。

 だがそんなことには考えが及ばないほど怒り狂ったミアが、いつもの感じで咆え猛る。


「恋愛禁止って、アイドルじゃあるまいし!だいたいアイドルだって、今どき全員彼氏いますよ!!

 なんとかフォーティーエイトなんて、彼氏も人数分で48人いるに決まってます!!96人いるかも!!」


「ミ、ミアちゃん、それはさすがに暴言だ!その辺はみんな分かっててもグレーな感じにごまかしてるんだから、そっとしておかないと……」


「グレーでもオフホワイトでも、どうでもいいんですよ!!

 そもそもノブさんだって、恋愛禁止とか言う割りに順調じゃないですか!ほぼリア充でしょ!!」


「ん?恋人いるのか、リーダー」


 初耳だし意外だったので訊ねてみたフィーデルだが、横で聞いてるテリーとヴェンガルが何を今更……と呆れているのも気づかなければ、ノブと一緒になってアキナも少し赤くなっていることも気づかない。

 こういう察しの悪い男子って本当に鈍いから、しょーがない。


「お、俺のことはどうでもいいだろ!とにかく友人以上の関係に発展するのはダメ!!危険すぎぃ!!」


 照れ臭さをごまかすために、大仰に両腕でバッテンを作るノブだが、ミアもフィーデルも追及の手を休めはしない。


「あ、逃げた!!リーダーのくせに逃げましたよ!!」


「さっきから言ってることがよくわからん。友人以上の関係って何だ?もっと具体的に説明してくれ」


 などなど口々に言って詰め寄る。


 いつものペースを取り戻し、馬鹿騒ぎに興じて盛り上がっている一同を、しゃがれた笑い声が遮った。


「キヒッ……人間相手に、ずいぶん楽しそうだな。兄弟子殺し」


 とぼけた雰囲気が一変し、辺りに緊張が走る。

 メンバー全員の視線が、声のしたほう、さっき捕えた魔族へ向けられた。


 魔族は拘束され不自由な状態で地面に転がりながらも、耳まで裂けた口を広げてニタニタと笑っている。


「お前の言った通り、俺なんざ魔王軍の中では三下に過ぎねえ……だがよ、これからお前を狙ってやってくる連中は違うぞ?

 エーベファルト様は位の低い魔族の中から見込みのある奴を集めて指導し、精鋭部隊を育成しているそうだ。

 まず間違いなく、お前を断罪するためだろうなあ……キヒヒッ、せいぜい今から命乞いの練習でもしとくんだな」


 ケタケタと癇に障る高笑いが始まる。

 その聞き苦しさに辟易し、また仲間を侮辱されたことで憤ったアキナがもう一発食らわせて黙らせようとしたが、その拳が振り下ろされるより早く、一陣の旋風つむじかぜが魔族を襲った。


「ギャッ……」


 短い悲鳴を最後に、呆気なく魔族の命は絶たれた。

 フィーデルの放った風魔法が、魔族の頭に重い鉄槌で殴ったような衝撃を与えたのだ。

 もともとそれほど強くない上に、ノブやアキナから攻撃されて弱っていた魔族は、ほぼ即死。


 さっきノブが見せて来たような惨い殺し方も、やろうと思えば出来たのだが……

 ま、気が乗らなかった。そういうことにしておこう。

 どうやら使える魔術や潜在魔力のほうに変わりはないようだし、万事オーライだ。


「ちょ……アンタ、大丈夫なの?殺しちゃって」


 魔族の死を確かめたアキナが、恐る恐る訊ねてくる。


「よくわかんないけど、追われてるんでしょ?ますます立場が悪くなるんじゃないの……?」


「……いや……」


 心配してくれるのは有り難いが、フィーデルにはある程度のことが読めていた。


 エーベファルトというのは、フィーデルの師で、直属の上司でもある。

 まだ幹部になって日が浅く、腹心の部下で筆頭弟子でもあったオルェンとフィーデルを同時に失ったのは大きな痛手だったろう。


 幹部としての面目も丸潰れだろうが、慎重で忍耐強い師の性格からして、つまらないプライドの回復よりも、まずは兵力不足を解消しようとするはず。

 だから実力者を集めているのは、少しでも使える手駒を増やそうという腹積もりに間違いない。


 師のことだから、きちんと統制の取れた凄腕の部隊を育て上げることだろう。

 それに成功した暁にはその内の二、三人ばかり刺客として差し向けてくるかもしれないが、そんなのは少なく見積もっても数年かかる話だ。


 今は自分の立場を守るのが先決。

 その為には各方面の対処、つまり上位幹部から言いつけられる雑用処理で身動きが取れまい。


 幹部の誰かがフィーデルの速やかな抹殺を命令すれば話は別だが、まずそんなことはないだろう。

 何しろ連日、魔王から出される無茶な指令をこなすので、みんな精一杯だ。


 やれドラゴンを倒せるレベルの兵士を百人以上追加しろだの、やれ城外に生えている希少な毒草を20樽ぶん採集して来いだの、次々と面倒なことを吹っ掛けてくる。


 どの幹部にとっても、まずは魔王が出した命令が最優先。

 格下の新参者の、更に部下が逃げたところで、大した問題とは捉えていまい。


 要するに、さっき三下魔族が言っていたような、フィーデルを追って凄腕の刺客が来る、なんて可能性は非常に低いということだ。


 かと言って気は抜けない。

 今回のように、城外をうろついている魔族には引き続き気をつけて行きたいところ。それから―――


 このパーティーに、長居するのも良くない。

 コイツらは多分、フィーデルの隠れ蓑なんてつまらない役目を振るには惜しい連中だ。もっと相応しい役割がある……かもしれない。


 素早く思考を巡らせ、ザッと考えを纏めると、フィーデルは改めてノブに向き直った。


「騒がせて悪かったな。俺のことは心配してくれなくていいが、教えておきたいことがある」


「それは……魔王城についてのこと、かな?君が逃げ出した理由とか?」


 ちょっと抜けてはいるが、さすがにここまで生き残っただけあって、勘のいい男だ。フィーデルは顎を引き、深く頷いた。


「ああ。実は今……城内は混乱している。

 毎日のように手間のかかる指令が魔王から幹部連中に出されて、兵士や雑用係はもちろん、学者も隠密部隊も、休む間もなく働き詰めだ。


 それだけならまだしも―――指令を達成したところで、見合った結果が出てないのが現状だ」


 喋るのを止め、聞く態勢になったメンバーに、フィーデルは次のようなことを説明した。


 



※なんとかフォーティーエイトの彼氏…すべて個人の意見と憶測であり事実とは異なります。生まれ変わったら誰でもいいから乃木坂のメンバーが飼っている猫になりたい。

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