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いよいよ本番、面接試験②

 

 いや体調コンディションによっては強いとか弱いとかあるけど、出る日とか出ない日はないだろ。修業の成果なんだから!


「フフ、みな命拾いしたな。出る日だったらこの一帯、焦土と化していただろう」


 だからそれ、幹部クラスでも無理だって!!


 くそ、いい加減にしろよこの子供……コイツ見てると、どうしてか知らんけど気恥ずかしくなってくる……無性に深い穴を掘って入りたくなる!!


 フィーデルと同じような気持ちなのだろう、様子を見守っていたリーダーのノブがコホンと小さく咳払いした。


「えーっと……出ない日なら仕方ないよね。残念だけど次の方に」


「フッ、そう慌てるな」


 せっかく差し出してもらえた助けを遮り、デレクは再度、試験用の丸太へ手を向ける。


「俺が使えるのは何も、炎ばかりではないぞ。見せてやろう、炎獄の焦熱ですら凍てつかせる、華麗なる氷の力を……せああああァァァ!!」


 技を放つ時の手の角度と、かけ声を変えて“さっきと属性が変わってる感”を出してくるのが、すごい腹立つ。

 コイツの人をイラッとさせる実力って、生まれつきのものなんだろうか。


 ポーズだけ変化させようが、結果はやはり……凍りついたのは空気だけだ。それでもデレクは薄く笑う。


「……こっちも、今日は出ない日だ」


 だから出る日とか出ない日とかないっつーの!!ホエールウォッチングのクジラじゃねえんだよ!!


「ちょっといいかな?デレク君」


 困ったような顔で、ノブが切り出した。

 いい加減、お前は闇魔法を使えないだろう、引っ込めと詰め寄る気だろう。ガツンと言ってやれ!


「君……ほんとに16歳?」


 は?年齢?


「もうちょっと若いんじゃないかな。15歳か、ひょっとすると14くらい?」


 具体的な数字を言われて、デレクはビクッと体を震わせた。その過剰な反応が、答えのようなものだ。

 ノブは眉をしかめ、首を横に振る。


「やっぱり。本当はいくつ?」


「……14です」


 さっきまでのキャラはどこへやら。蚊の鳴くような声で答えたデレクは、別人のように萎れてしまっている。


「それじゃ、冒険に連れていく訳にはいかないな。今回の募集は16歳以上に限らせてもらってるし、魔法も使えないよね?」


「はい……スミマセン。黒魔道士には憧れてるだけで……」


 しゅんと肩を落としているデレクに、ノブはあくまで優しい。


「謝らなくていいよ、俺も君くらいの年頃には冒険に憧れて、早く旅に出たくてウズウズしてたから。


 なりたい職業がハッキリしてるのはとっても良いことだよ。これから修業して、立派な黒魔道士になってから冒険に出ても、ぜんぜん遅くないさ」


「……はい!!」


 顔を上げたデレクは、将来の展望に瞳を輝かせる、年相応の無邪気な少年に見えた。

 目つきも声も作っていたものらしいが、わずかな年の差によく気づいたものだ。


 フィーデルと同じく不思議に思ったらしく、コアラの剣士がノブに囁きかける。


「あの小僧が年齢トシごまかしてるって、よくわかったなノブ」


「うん、まあ……俺も長い間ずっと、彼と同じ病を患ってるから、何となくピンときたんですよね」


 病だと?二人とも健康そうに見えるが、どういうことだ?

 気になったフィーデルは、ノブとコアラの会話にいっそう耳を澄ませ、神経を集中させる。


「16から18歳くらいの男子なら、あの症状はいったん落ち着いて、変な方向へ斜に構えてるはずなんですよ。


 ノートに魔法陣描いたりオリジナル設定の最強キャラクター作ったりするんじゃなくて、

 急に国防に興味持って航空自衛隊のイベント観に行ったり、世界の殺人鬼を取り扱ってるウェブサイトをブクマして、信憑性の薄いサイコパス診断を片っ端から受けては

『自分は本物の異常人格者サイコパスかもしれない……このままではシリアルキラーになってしまうのも時間の問題』って本気で悩んだり。


 漫画やゲームに影響されてキャッキャしてる年下男子のことは、だいたい同レベルのくせに

『世の中は残酷で欺瞞に満ちているというのに、無邪気でいいな……俺はもう、そっちには戻れないよ』という謎の上から目線で見てるもんなんです。

 だからデレク君は、ちょっと違うかなーって」


「ほお~~」


 コアラは感心しているが、フィーデルにはさっぱりわからない。

 自分を黒魔道士だと偽ることと、殺人鬼の卵だと信じ込むことでは、そんなに差がない気がする。


「さすが万年中二病!!詳しいな!!」


「先輩、それ褒めてないっすね」


 病の話をしているらしいのに、二人とも楽しそうなのはどうしてなのか。

 中二病とは初めて聞いたが、明らかに中学卒業していても罹るものなのか?


 コアラの口ぶりからすると、一生つきあっていく持病のようなものらしいが……むずかしい。潜入成功したら、おいおい調べていこう。


 なんちゃって黒魔道士デレクが下がると、ノブはフィーデルに顔を向けた。


「それじゃ次は……」


 実年齢ならこの場の誰より高齢だが、見た目と応募書類に記入した年齢からすれば順当だ。

 本物の闇魔法がどんなものかを見せてやろう。一歩を踏み出そうとしたフィーデルだが、


「お~~、ワシの番かのう」


 白髭の老人、ポルパがずずいと前に出た。

 止めようにも、おぼつかない足取りで歩くものだから、肩を掴んだりしたら転んでしまいそうで出来なかった。


「あ、ポルパさんはまだ……」


 ノブが控え目に下がらせようとするものの、まるで聞いていない……いや、耳が遠くて聞こえないのだろう。


「ん、任しとけ任しとけ。久しぶりだから腕が鳴るわい」


 張り切って肩を回すポルパを見ながら、赤毛の女がコアラ剣士にそっと耳打ちする。


「ねえ、あの人って……本当に74歳?もっと行ってそうなんだけど。デレク君みたいにサバ呼んでないかな」


「俺もそんな気がする、80は過ぎてそうだな。一緒に冒険するのは無理じゃねえか?」


 人間の年齢について細かいことはよくわからないが、老いがかなりのところまで達しているのは誰の目にも明らかだ。

 コアラ剣士の言う通り冒険やら魔王城探索やらに耐えられはしないだろう。


 そんな状態ながら、まったく引き下がる気配のないポルパへの説得を諦めたらしく、ノブが済まなそうな顔でフィーデルを見る。


「ごめん、フィーデル君。最後でもいいかな」


 抗議してもいいが、色々言ったところで老人の耳が良くなるわけでなし、ここは引いておいたほうが得策だろう。

 心証も良くなるし、最後に決めてやったほうが強く印象に残りそうだ。


「俺は構いません。先にどうぞ」


「すまない、ありがとう」


 フィーデルに軽く頭を下げてから、ノブは改めてポルパに声をかける。


「それじゃポルパさん、あの丸太に魔法を」


「お?お~~、魔法か。すぐに見せてやるでな」


 うまく聞こえていなくとも、自分に注意が向けられているのはわかるようだ。ノブの言葉を遮り、スッと両手を胸の高さに上げる。


「それにしても、ここは殺風景じゃのう。いくら冬だからってもう少しくらい、華やかにいきたいもんじゃ」


 何を言い出したかと思ったら、「ほいっ」と明るいかけ声と共に、両手を上下に振る。

 するとあら不思議、両方の袖から、色とりどりの造花がポンと飛び出した。

 おおっとどよめきが上がる。


「えーーっ、すごい!!」


「上手いもんだなあ」


 白魔道士と盗賊が、喜んで手を叩いている。

 確かにすごい、誰にでも出来るものじゃないが。


 魔法じゃなくて手品だろうが……


 拍手に気をよくした老人は、今度はギュッと拳を握る。


「ん~~、まだもう少し、彩りが欲しいところじゃのう……ほい、ほいっ」


 老人が手を広げると、お約束通り、さっきまでそこには無かった花が現れた。


「おおおお~~~~」


 受験者側にいるデレクも含め、フィーデル以外の全員が拍手を送る……って忘年会か!!試験はどうした!!




※16歳のサイコパス願望……ピンとこない人は「初カキコ ども」で検索するといいでしょう。あれ書いた方は中三らしいけど、だいたいあんな感じです。

あと「洋楽以外は聞かない、J-POPなんて一番ダサい」とか言い出した陽キャがギター習い出すのも症状は違うが根本は同じ病。


女子の場合、陽キャは学校内の交際中カップルをすべて把握し、持ち物をやたらにデコって変な流行り言葉で会話したりする。

陰キャは親にバレないよう例の薄い本を極秘入手して、小遣いのすべてをつぎ込むようになる。青春っていいなあ。

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