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いよいよ本番、面接試験①

 ***


 ……どうやら問題なさそうだな……


 人里離れた森の奥、暗く冷たい、地下牢のごとき岩窟の中で、“彼”ことフィーデルは少し安心できた。

 念の為と思って戦士ノブのパーティーとやらに探りを入れてみたが、何ともお気楽な連中ではないか。容易く騙せそうだ。


 わざわざ遠見の術を使うまでもなかったが、油断は禁物だ。過剰な自信に溺れてしまえば、いくら実力があっても足元をすくわれるだろう。


 二週間前に気になった肌の色を確認すべく、顔の前に手の平をかざして見る。

 以前の白肌よりはずっと自然な色合いに落ち着いているし、髪も爪も問題ないはずだ。外見で正体を見抜かれる恐れはまず無いだろう。


 ただし、遠見をしている今、目だけは異様なことになっている。

 右は濃い青色だが、左の目は金色に輝き、人間離れした大きな黒い瞳が浮いている。ノブたちの様子を観察しているフクロウから借りている目だ。


 その左目には相変わらず、書類を検討しながらああだこうだと話しているお気楽パーティーの連中が映っているが、これ以上は時間の無駄だろう。

 明日の面接で邪魔になりそうな奴がいたら、先に手を打っておこうと思って始めた監視だが、相手が16の子供と老人では、敵にはなるまい。


 目を閉じ、左の瞼に指を当てて、遠見の術を解く。再び瞼を開いた時には、両目とも青色に揃っていた。

 長時間、高度な眼術を使っていた反動で、少し視界がぼやける。同時に襲ってきた軽い頭痛を流すべく額を押さえ、深呼吸を繰り返す。


 ……聖女アデライラ、か。


 思いがけず耳にした名前。人間からは女神のように敬われていると聞いていたが、本当だったとは。

 敵と見れば消滅するまで高温の炎で焼き尽くす女が。


 魔族こちらからはその名を口にすることすら忌避されている炎獄の使者。いや、そもそも彼女は……


 複雑な感情に飲まれまいと、フィーデルは思考を明日の試験へ切り替える。

 上手く切り抜けて、人間の黒魔道士として潜り込めれば、大事な計画を進める為の、第一歩が踏み出せるはずだ。


 目眩はもう落ち着いていたが、自身に言い聞かせるように、フィーデルは同じことを何度も頭の中で繰り返す。

 まずは明日、うまくやること。今のところそれが、自分に課せられている最も大きな使命だ。




 ***



 それぞれの夜が明け、運命の黒魔道士面接試験の当日。

 開始時間15分前の時点で既に、会場となるギルドの敷地内グラウンドに、関係者は全員集まっていた。


 直前までチェックを怠らなかった甲斐あって、今日のフィーデルには、外見的におかしいところは何一つ見受けられない。

 誰の目にも、薄茶色の髪に青い目を持つ、少し顔色の悪い青年としか映らないだろう。


 その偽りの青い目を、フィーデルはまずライバルの受験者二人に向ける。


 いっちょ前に黒いローブを着こんだ、背の高い黒山羊の少年と、白い髭をたくわえた痩せた老人。


 黒魔術を使う者からは、多かれ少なかれ“闇の聲”と呼ばれる独特の波動が放出されているものだが、どちらからもそれらしいものは感じ取れない。


 おおかた二人とも、子供じみた伝説に憧れた自称黒魔道士でしかないだろう。敵ではない。

 受験者三人と対面して並んでいる五人組パーティーの右端に立っていた男が、一歩前へ出た。


「はい、じゃあ時間よりちょっと早いけど全員揃ったから、試験、始めましょうか」


 昨日、ノブと呼ばれていた男だ。口振りからしてリーダーなのだろうが、特に偉ぶることもなく、ぺこりと軽く頭を下げる。


「どうも初めまして、リーダーのノブです。皆さん、当パーティーの求人に応募してくれて、どうもありがとう。本日はよろしくお願いします。

 まずはこちらから、簡単に自己紹介しますね」


 ノブに促され、メンバーたちの名乗りと短い挨拶が始まった。

 赤毛の女が格闘家のアキナ、コアラの老剣士はヴェンガル、ドングリ帽子の盗賊がテリーで、最後は白魔道士のミア。


 なるほどギルドの受け付けで聞いた通り、実直そうな連中だ。まあそれはいいとして―――昨日も監視しながら思ったけど、こいつら―――


 ……地味だ……


 風変わりとか、目立ってるとか、そういうところ一個もない。

 全員、無課金ユーザーですけど何か?みたいな……デフォルトのままカスタムしてませんが問題でも?って感じというか……


 まずい、コアラ以外、ちゃんと名前とか覚えられるか不安。こっちの試験を受ける面子のほうがまだ個性あるけど大丈夫か。


 いや待て、むしろ好都合と見るべきだろう。これからはできるだけ隠密に行動していかなければならないのだから、このゼロ個性パーティーは理想といえるかもしれない。


 このメンバーに紛れれば、獲物を狙って草叢に忍ぶ毒蛇のごとく、

 あるいはアニメのオープニング曲が良かったから歌ってるバンドのライブに行ってみたら、ファン層がカップルと中高生ばっかりで恐れをなし、せっかく最初の方の番号の整理券を持っているのに出来るだけ後から入って、会場ボックスの壁際で縮こまってステージを見ている地味系ネルシャツ男子大学生のように、ひっそりと気配を消して動き回れるはずだ。


 よし、何としてもこのパーティーに入るぞ。どんな手を使っても……!!


「それじゃ、試験内容の説明をしま~~す」


 三人から預かった書類を挟んであるクリップボードを片手に、リーダーのノブが呼びかけた。空いている方の手で、グラウンドの中央を示す。

 そこには分厚い藁の束をぐるりと巻きつけた丸太が三本、地面から垂直に打ちつけられていた。


「この藁を標的と見立てて、おのおの一番得意な魔法で攻撃してみてください。

 風属性なら疾風を起こして切り刻む、炎なら燃やすといった具合で」


 なるほど、単純明快で、実力のほどを測るには良い方法だ。

 得意なのは風魔法だが、火でも氷でも、一通りのことは出来る。ここは視覚効果を狙って、派手に燃やしてしまうのが得策か。


 この試験をいかに攻略すべきか考えるフィーデルの横で、黒山羊少年がスッと手を挙げた。


「一つ、質問をしてもいいだろうか」


 年の割に、低くて通る声だ。ちょっと作ってる感じがするけども。


「はい、どうぞ」


 こんなわかりやすい試験にどんな質問があったものか知らないが、リーダーは快く受け付ける。

 口角を吊り上げて不穏な笑みを作った黒山羊は、鋭い目で試験用の藁を睨んだ。


「なぁに、少し心配になったものでな。もし俺が本気の炎を出したら、この丸太一本では済まない……このグラウンド、いやこの街そのものが一瞬で消し炭と化すだろう。


 そんな惨劇は、俺の望むところではない……だから力はセーブさせてもらうが、構わないか?」


 ……波動の一つも出してない奴が何か言い出した……


 魔法だけで街一つ消すって、そんなん魔王直属の幹部でも難しいぞ。

 その辺の黒魔道士にできる訳ないだろうが。コイツに至ってはたぶん、黒魔道士ですらないし。


「街一つか、それは困るな」


 答えるリーダーは、やけに冷静だ。


「できれば、普通のおにぎりが焼きおにぎりになるくらいの火力でお願いします」


 逆に難しい!IHじゃねーんだぞ!?

 ……さては気づいてるな、この男。黒山羊少年が魔道士としては無力だとわかってるな?


 フィーデルの予想を裏付けるように、ノブは特にうろたえる素振りもなく進めていく。


「年齢順にやっていこうと思ってたから、ちょうどいいや。デレク君からいこう」


「あ、はい。おねがいしまーす」


 ノブの調子に乗せられたものか、さっきと打って変わって、あっさりと答えるデレク。たぶん、こっちが素だろう。


 真ん中の丸太の前に立つと、黒山羊デレクはローブの襟を大仰な身振りで正した。顔つきがまた、厳しい感じに作り直されている。


「ふん、この程度の道具で、俺のチカラを試そうとは笑止千万……まあいい」


 口角を吊り上げて不敵に笑い、片方の手の平を丸太へ向けてかざす。まったく姿勢だけは一人前だ。


「見たいというなら見せてやろう。この世のすべてを焼き尽くす、禍々しき炎の片鱗をな……はあああァァァ!!」


 眼光鋭く、声には威圧感があり、迫力は十分。しかし……何も起こらない。

 仮に修業を始めて半年くらいの魔道士でも煙くらい出る。でも何も起こらない。


 どうするんだコイツ。どうしてくれるんだ、この居たたまれない雰囲気。


 静まり返った空気の中、デレクは片手を下げると、長く伸ばしている前髪(と言っていいかわからないが、頭頂部から伸びて眉間にかかっている毛)をかき上げた。


「……今日は、出ない日だ」


 ……なんかおかしなこと言い出した……






※地味系ネルシャツ男子大学生……バンギャをやっていた時、男子大学生に限らずこういう人をたくさん見かけた。でもライブ自体は楽しんでいたはず。せっかくだから遠慮せずに前に来ていいんだよ。

ステージ前で圧死寸前のモッシュに耐えながら、首がもげるんじゃないかってくらいヘドバンして、推しメンバーの名前を絶叫していいんだよ。

だからV系ファンは嫌われるって?知ったことか!!せっかくライブ参戦したならトランス状態になるまで本気出せや!!……って知人が言ってました。

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